第52話 評価がうなぎ登り
――――御前会議。
ホルヘ殿下の喪が明けぬ間に王宮にて会議が執り行われていた。クローディス王国の重臣たちが集まる中に銀狐騎士団々長であるメルフィナが呼ばれている。俺もついでなんだろうが、その傍らに座らせてもらっていた。
フレッド殿下はテーブルに座した重臣たちへ矢継ぎ早に訊ねてゆく。
「国民の被災状況はどうか?」
「は! 国境付近の村や町が二十ほど焼かれましたが、人的被害は極めて少ないです」
「では被災民の移住と生活の安定を急がせろ。場合によっては王都の一角を開放しても構わぬ」
「御意に」
最初に国民のことを気にされることから見ても、今は険しい表情をされているが殿下が人間味にあふれた方だということが分かる。
「国庫は充分か?」
「はい、あと三年は戦渦が広まろうとも耐えることができるかと」
「そうか、ボレアス金鉱の増産を進め、支払いは銀貨で行え」
「畏まりました」
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議題がまるでシミュレーションゲームにおける内政のターンが終わると外政へと移っている。
「戦況は?」
フレッド殿下がゴレアス総騎士団長に問いかけると彼は立ち上がり、答えた。今の日本で言えば防衛大臣に該当するんだろう。
「ブリビン帝国など恐るるに足りませぬ! 我々は連戦連勝ですでに奴らを撃退しておりますぞ、ハッハッハッハーーーーーッ!!!」
ヴァイキングのように髭もじゃの総騎士団長はボンと胸を拳で叩いて、高笑いしながら殿下に自信を見せた。
はあ……。
総騎士団の報告を聞いたフレッド殿下から深いため息が漏れ、額に手を当ててうなだれてしまう。
「ゴレアスよ! 私が真実を報告すれば処分するような暗君に見えたのか? 私は悲しいぞ……私は兄上とは違う。目先の戦果を追うのではなく正確な情報を持ってきてくれ」
大きく息を吸い込んだ殿下は席を立ち、総騎士団長に言い放っていた。
「次に虚偽の報告をあげれば総騎士団長職の任を解く。心してかかれ」
「ひっ!? も、申し訳ございません……」
殿下の相手を見透かすような深い蒼の瞳で見据えられた総騎士団長はヲークのような大きな身体を震わし、明らかに殿下を恐れているようだった。
「分かれば良い。では各騎士団長からの報告を頼む」
「白竜騎士団は侵入した帝国四魔将セルフィーヌの進撃を食い止めようとしましたが、奮戦虚しく騎士の半数を失い……くっ……うっうっ……」
「グラックス、分かった。貴公の奮戦と騎士たちの冥福を祈ろう。傷が癒えるまで休むが良い」
「ありがたきしあわせ……」
傍らにある杖と頭に包帯を巻いているが血がにじんでいることからも傷が完治していないらしいことが分かる。この世界に回復魔法はあるが、メルフィナの癒やしに比べると即効性はないようだ。
筋肉質で精悍な顔つきからそこはかとなく漂う強者感を感じた俺はメルフィナにひそひそ声で訊ねた。
『メルフィナ、あの人は強いのか?』
『はい、クローディス王国最精鋭の騎士団にして、最優の騎士さまです』
ちらりと俺たちの後ろに控える長身の従者を見る。
クローディス王国最強の騎士団長さまを無傷でフルボッコにしたセルフィーヌの強さとは……。
一通り各騎士団長が殿下に戦況を報告してゆくが、どれも芳しくないものばかりだった。そんな中、最後に席を立ったのが俺の婚約者。
「銀狐騎士団のメルフィナです」
彼女が立ち上がるだけで議場がざわついてしまう。不可抗力とはいえ、メルフィナは開戦時にクローディス王国を離れ、俺といっしょに現代へ来てしまっていた。
本来ならば罪に問われてもおかしくない立場にある。
「フレッド殿下並びに重臣の皆さま、そして同僚たちへ私はお詫びしなければなりません。私は開戦前とはいえ、婚約者のトウヤさまとクローディス王国を離れました。殿下から如何様な処分も覚悟しております」
メルフィナは重臣たちの前で深々と陳謝した。
「メルフィナに頭を下げられては面目が立たん……」
グラックス団長は首を横に振って、メルフィナの低姿勢に自分を恥じているようだった。他の騎士団長も彼と仕草は違えども気持ちは同じようなもの。
「メルフィナよ、どうか謝らないで欲しい。貴公に謝られると他の騎士団長が自害しかねないからな」
「と、申されますと……?」
「戦果を上げたのは銀狐騎士団のみで、多くは撤退を余儀なくされ、壊滅的打撃を受けた騎士団さえあるのだ」
俺に噛みついてきたアンドリューだったが団長不在の中、「てめえら! ここで負けたら団長が罪に問われんだよ! 死ぬ気でやっぞ!」と発破をかけ、獅子奮迅の活躍をしたらしい。
もうあいつに団長を交代してもいいんじゃないだろうか?
ガタッ!
「トウヤ殿! 我々にも太刀をお与えください!」
グラックス団長が杖を支えに立ち上がると俺に向かって深々と頭を下げた。ギョッとしていたら、他の騎士団長も彼に追随してきて……。
「金ならいくらでも出す! どうか我が騎士団にも……」
「銀狐が優先されるのは分かる。だが十振り、いや一振りだけでも……」
席を離れ俺のそばまで寄ってきて、陳情をし始める騎士団長たち。次第にエスカレートしてゆき、
「ウチの方が先だ!」
「ああっ? なに言ってんだ、先にトウヤ殿……いやトウヤさまに声かけたのはこっちなんだよ!」
取っ組み合いまで始めてしまった……。
「静まれ! 殿下の御前であるぞ。醜い争いは慎め」
殿下の傍らにいた
しゅんとうなだれ、彼らが席に戻ったところでフレッド殿下は俺に声をかけてくださる。
「トウヤ殿、済まないが今後はタチができれば各騎士団に平等に分配したいのだが、どうだろうか?」
「俺は殿下に納入する立場ですのでそれで構いません。ただ一度に打てる量は限られていますので……」
「うむ、では鍛冶ギルドに伝え、全力でトウヤ殿をサポートするように言っておく。各騎士団長よ、それで構わないだろうか?」
「「「「「御意」」」」」
俺の太刀が各騎士団長からも評価されるのはうれしかったが果たして俺の身体が持つんだろうか? 夜もメルフィナはえっなことに徐々に目覚めつつあるし……。
「良かったですぅ! 旦那さまのタチがみんなに認められるなんて!」
「あ、いや……メルフィナも不問に済んでなによりだよ」
ゴホン。
俺の腕を掴んで、たわわに押し付けるメルフィナだったが、彼女の場にそぐわない行為に宰相がせき払いをする。慌ててメルフィナは俺から離れ、顔を赤くした。
今晩メルフィナは俺にいっぱい甘えてくるかもしれないので、いっぱい撫で撫でしてあげようと思う。
「ホルヘ派を吸収し、二分していた国体を統一したいまでも戦力差は良くて四対六、悪くて三対七。まともに衝突した場合、我々の劣勢は間違いありません」
宰相によると王都防衛を担う近衛騎士団も投入が決定されてもまだまだ戦力差は埋まらないとのことだった。
メルフィナの銀狐騎士団しか戦果を上げられず暗い戦況報告が終わろうとしたとき、まさかの人物が声を上げてしまう。
「元ブリビン帝国四魔将セルフィーヌだ。今は故あってトウヤの食客をしている」
ちょ、おま!
静かにしてるって聞いてたから、連れてきたのになに勝手にことしてるんだよっ!!!
セルフィーヌは被っていたフードを拭い去り、フレッド殿下とクローディス王国の重臣たちが居並ぶ前で堂々たる名乗りを上げていた。彼女を見た途端、グラックス団長は彼女を睨みつけて剣を抜こうと柄に手をかけていた。
「団員たちの仇だぁぁぁーーーーー!!!」
―――――――――あとがき――――――――――
えっと昨日の時点で休載しようかと思ってたんですけど、たくさんフォローとご評価していただいたので休むに休めません。ありがとうございます。
もうちょっとだけキリの良いところまで書こうとおもいます。
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