第49話 はい、看破

「どこ行ってたんだよ! いつもいつもあきらは迷惑ばっかり……」


 あきらの暴走に手を焼いていた俺は文句の一つでも言ってやろうと思っていたのだが……。


「うわぁぁぁぁーーーーーーん!」


 あきらの口角が下がったかと思ったら、彼女の瞳がうるうると潤んで来る。目尻までも垂れて、大粒の涙が頬を伝って地面に落ちると滝のように流れ出して止まることを知らない。


 端正な顔立ちの彼女がこんなにもぐしゃぐしゃにして泣きじゃくるのを見るのはいつ以来だろうか?



『はっはっはーっ! 刀哉ごときがボクに勝てるわけないんだよー! ママのおっぱいので出直してきなって』


 小学生の頃は勉強やら運動で、成長の早かったあきらに苦汁を舐めていた俺だったけど、中学生ともなると形成は逆転してしまっていた。


『いや、あきら……もう何度目だよ……あんま無理すんなって……』

『うるさい! うるさいっ! なにもかもが優れたボクが刀哉ごときに負けるわけないっ! もう一回勝負だ!』


 よりにもよって腕相撲なんて男女差が出やすいもので、あきらが俺にしつこく絡んできていた。


 バッターーーン!


 十戦目くらいだろうか、あきらに気をつかい、俺はなるべく好勝負に見せかけていたのだが、それがいけなかったと思い、勢いよくあきらの腕を机の板へつけた。もちろん怪我しない程度に手を抜いて。


『うわぁぁぁぁーーーーーーん!』


 すると少ないながらもクラスメートがいる中で、あきらは今泣いてるのと同じようにギャン泣きをしてしまった。するとどうだろう、クラスメートたちが一斉に俺を蔑んだ目で見てくるのだ。


 そのときの俺のいたたまれなさったら、本当に穴があったら引きこもりたいくらいだった。



 大体、あきらから俺に迷惑をかけておいて、都合が悪くなるとさも俺が悪いみたいにされるのだから堪ったものじゃない。


 ボフッ。


 イノシシみたいに俺の腹に頭突きをかますとひしっとあきらが俺に抱きついてくる。次はベアハッグかな? と思うと涙目フェイスに甘えたような声色で文句を垂れてきた。


「怖かったよぉ……死ぬかと思ったよぉ……ボクが犯されたら、どう責任取ってくれるつもりだったんだよぉ……責任持って、嫁にしろよぉ……」


 騎士たちが観ているだけに邪険にするわけにもいかず、とりあえず頭を撫でてあやしていると


「キシュしれくらはい……」


 泣き顔のあきらはの上目づかいで俺におねだりし始めた。


「やだ」


 即座に断った俺。


 すると、ドンと俺を突き飛ばし、すっかり泣き止んだあきらは俺にキレ散らかしている。


「はぁっ!? なんでよ! なんでボクにキスしないのよ! そっちの耳長女とはもっと色々やってるくせにぃぃ!!!」


「そりゃメルフィナは婚約者だからだろ。あきらは……友だちみたいなもんだからな」

「なんで友だちだったらキスできないのよ! キスしろよ、ボクの麗しい唇に! 奪ってみろよ、ボクの唇をっ!」


「無理無理無理」


 無理やり俺のファーストキスを奪おうとしてくる不埒なあきらにメルフィナが間に割って入ってキレる。


「止めてください! 旦那さまか嫌がってるじゃないですか! 無理強いするなんて、あなたは最低の人間ですっ!」


 その通りだ! って言いかけたけど、またあきらが泣きかねないので踏み止まった。


「なんなんだよ! ボクの刀哉を奪っておいてその言い草は! だいたい、おまえよりボ……クの……方が……」


 す、すげえぞ……。


 人質交換の場で揉めているわけにもいかず、俺は隷属の首輪の効果を発揮させる。あれだけうるさかったあきらの目は輝きを失い、まるでロボットのように直立不動になってしまった。


【あきら、自害して】


 ここでそんな命令を出したら、あきらは従うんだろうか? 


「王都を出てからのことを話してくれ」

「イエス、マスター」


 そんなことをするつもりはさらさらないが、あきらが見聞きしたことを訊ねた。もしかして、これならあきらに叡智なことをさせられ……いや絶対にやめておこう。


 ――――


「ふ~ん、やっぱりかぁ」

「酷いっ!!! 許せません!」

「なんか面白そうじゃん。私にも手伝わせてよ、あのお菓子十個……いいえ、五個でいいから」


 あきらは俺たちにホルヘ殿下の悪巧みをすべて話してくれた。ただセルフィーヌよ、パリピーターンで買収される敵国幹部とか安すぎないか?


「分かった、分かったから。セルフィーヌには一袋あげるから頑張って」

「ほんとに!? だったらいっぱいサービスしちゃうから!」


 フレッド殿下と同じく猿ぐつわをされていたブリビンの貴族……俺たちはそこに疑いはなかったのだが、彼らもセルフィーヌの顔を見ても無反応だっため、おそらくホルヘ殿下が用意した囮だろう。



 いよいよ人質交換の時間となった。


 メルフィナはホルヘ殿下から預かったブリビンの貴族に偽装した者たちをグレタ将軍たちに見せる。


 うーっ! うーっ! と唸りをあげる人質だったがこのあとどうなるか、なんとなーくだが俺には察しがついてしまう。


 グレタ将軍もフレッド殿下をこちらに姿を見せると部下に命じて、足枷を外させている。


「ではそれぞれの人質は互いの陣営へ戻ってもらいましょう!」


 グレタ将軍が声をかけるとフレッド殿下とこちらの人質が歩き出した。


 何事もなく一歩一歩、足を進めるお互いの人質。


 このまま何も起こらないことを祈っていたが、それを許してくれるほどホルヘ殿下は慈愛に満ちた王族ではないらしい。


 ちょうど人質同士の肩が触れ合う距離になろうかというときに、俺たちが預かった人質たちがフレッド殿下を壁にしながら、こちらに戻ろうとしてきた。


「う、裏切りだーーーーーーーーーーーーっ!!! 撃て撃て撃て!!!」


 実に白々しい……。


 グレタ将軍の怒号が響いたかと思うと陣営の一列目が一斉に跪いた。彼らは馬脚を現したようで、弓に矢をつがえ、詠唱を済ませた魔法陣が見える。放たれた矢と魔法がフレッド殿下に向かって、一斉に襲いかかった。


「【拝火教の神ツァラトゥストラ】、将軍を残してすべて焼き尽くしなさい」

「【エレメンタルウォーター!!!】」


 スライムのような水の玉がフレッド殿下を包むとセルフィーヌから放たれた業火がブリビン帝国を騙る者たちを飲み込んでゆく。まるで炎でできた大蛇がうねりながら、放たれた矢と魔法を吸収し、すべてを消し炭と化していった。


 あって良かった、パリピーターン……。


 なかったら俺がセルフィーヌの業火に焼かれていたかもしれない。


「お、お助けっ!!!」


 一人残され、慌てて逃げようとしたグレタ将軍は転んでしまう。俺たちはフレッド殿下を保護したあと、全員でグレタ将軍を取り囲んでいた。


「い、命だけは……」

「洗いざらい話してもらいます!」


 キッとメルフィナが厳しい表情を将軍に向けていた。


―――――――――あとがき――――――――――

やっぱりあきら放置プレイがいいのかな? それとも恥ずかしい格好でお外を歩かせるとか? またご感想にでもお書きくださいwww ということで、次回ホルヘ殿下はざまぁされますよー。また良かったらお読みください。

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