第48話 疑惑の人質交換
――――【あきら目線】
格好をつけて、ボクを助け逃がした王子だったが情けないことに拘束されてしまった。
どういうマジックなのか分からないけど、火の玉や氷の刃で痛めつけられた上に両肩に矢を受け、太刀を落としてしまっている。
刀哉の太刀を落としてしまうなんて、猫に小判だったのよ!
兵士たちが彼の両腕を掴み跪かせると、指揮官らしき男が現れた。にやにやしていて気持ち悪い男はイケメン王子に顔を寄せて言い放つ。
「フレッド殿下ぁぁ! お久しぶりですぅぅ」
「な!? なぜ、兄上の腹心の貴公が!?」
ボクは森の茂みに隠れて、あの王子の様子を窺っていた。
なにかおかしい……。
どうやら味方の裏切りにあったのかもしれない。
「なぜ貴公がブリビンの格好を……兄上の差し金か!?」
「はぁ~、これだから殿下はダメなんですよ。あなたは勘が良すぎる。そして臣下も国民もあなたの即位を望んでいる……そんなことになれば、ホルヘ殿下と我々はどうなると思いますか?」
「私は兄上の継承権を奪うつもりなどない」
「殿下は、ですよね。だがあなたを担ごうとする奴らは湧いて出てくる。汚いドブネズミのようにね」
「そんな国家を二分するようなことは……」
「あなたは本当に素直な方ですなぁー。本当にバカ正直でクーデターでも起こせば、この先死なずに済んだかもしれないのに。まあ我々にとって仕事が楽で助かりますが」
「なにを企んでいるっ!」
「いいでしょう、死にゆく殿下に餞別替わりに教えて差し上げます。あなたを慕う銀狐騎士団を呼びつけ人質交換を行いますが、彼女らのしくじりであなたは命を落とす。あなたが命を落とせば、銀狐騎士団は解散になるのです」
「目的はメルフィナか?」
「それもありますなぁ。当然メルフィナ団長は奴隷身分に落とされる。ホルヘ殿下が彼女を買い、老いを知らない牝奴隷とするのです。悲しく婚約者をホルヘ殿下に寝取られた男はひたすら殿下のために武器を作る半生を送るという」
「そんなことが上手く運ぶわけが……」
「上手く行かせますよ。あの男の武器があれば我々はブリビン帝国にも勝てる。いやブリビンを属国にできるのですよ」
ど、どうしよう。
あの耳長女が奴隷に堕ちるのはうれしいけど、刀哉が超ブラックの社畜に堕ちてしまうのは嫌っ!
は、早く刀哉を見つけて、知らせなきゃ!
――――【刀哉目線】(国境の砦)
俺たちは人質交換が行われるクローディス王国とブリビン帝国の国境にある砦へと来ていた。
帝国側から一団がやってきて、俺たちと対峙していた。
「ブリビン帝国北部方面将軍のグレタだ」
「クローディス王国銀狐騎士団のメルフィナです」
お互いの部下を後ろに控え、指揮官同士が歩みでて名乗り出た。
「ではこちらの人質をお見せしよう」
「こちもそうさせてもらいます」
居並ぶ兵士たちの列の中から捕虜が連れてこられた。こちらもホルヘ殿下から預かった捕虜を連れてくる。
「殿下!」
「んーっ! んーっ!」
猿ぐつわをされ、拘束具をつけれたフレッド殿下を見たメルフィナが彼の下へ駆け寄ろうとしたが、まだ交換が完了していないのに、そんなことをすれば殿下の生命が危ういと思ったのか、メルフィナは堪え足を止めていた。
メルフィナとグレタ将軍がお互いの陣営の下に戻ってくる。俺は戻ってきたメルフィナに疑問をぶつけた。
「メルフィナ、向こうの将軍と精霊の力で通訳しているのか?」
「いえ、なにも……」
「じゃあメルフィナはあの将軍を知っているの?」
「いえ……」
「そうか……」
王国と帝国は言語が違うはずなのに通訳も介さずすらすらと淀みなく言葉を紡ぐグレタ将軍に俺は違和感を覚えた。しかもメルフィナは彼を知らない。
それに人質交換だというのに目の前にいるセルフィーヌにはまったく目もくれていなかった。
普通は気づくだろう。
自分たちの最高幹部の姿に……。
俺は気になってセルフィーヌに訊ねた。
「あいつを知っているか?」
「知らないわ。私の部下にあんな男いないし」
すると彼女はぷいっと顔を背けて、素っ気ない態度を取る。
「「そんなことって!?」」
俺たちのそばで耳を小指でかいていたセルフィーヌに声をかけた。
「セルフィーヌお願いがある」
「なに?」
「ブリビン語で奴らに正体を明かしてやってくれ」
「あのお菓子くれたら、やってあげる」
「もちろんだ!」
すっかり俺に餌付けされた彼女は気だるげだった態度を改める。杖を振りかざし魔装という魔法で生み出した防具をまとうと将官らしい通る声で言い放った。
「私はブリビン帝国四魔将が一人、セルフィーヌ! 帝国軍は武器を置いてこの場を立ち去りなさい!」
シーン。
ブリビン帝国を名乗る者たちはセルフィーヌの呼び掛けに無反応だった。
確定する。
これは罠だ!!!
そう思ったとき、森の茂みから何かごそごそとしていたのでメルフィナが身構え、いつでも精霊魔法をぶっ放せる態勢を取っていた。
「待って! ボクだよっ!」
「あきら!?」
「旦那さま! 撃っちゃって構いませんよね?」
「うん、いいかも」
「わーーーっ! やめろっ! ボクをなんだと思ってるんだ!」
「「あきら」」
人騒がせなあきらが現れて、ビックリしたやら安心したやら、そんな感じたった。
―――――――――あとがき――――――――――
やはり第一王子をしっかりざまぁしてやらないといけませんよねえ。あきらはどうなんだろ? ヒドインだけど、刀哉が好き過ぎてお馬鹿になってるだけだから……。
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