第47話 第一王子の罠を看破する

 虎の衣を借りる狐、そんな態度が顔にも現れている第一王子の従者。彼は面長で細い目をしていた。


 彼が地位が高いなら仕方がないところだが、最低限の礼節は取ってほしい。


 俺は静かに彼に告げる。


「俺はホルヘ殿下に呼ばれたんだよな?」

「そうだな」

「だったら、断ると言ったら? あんたの態度が俺の大切な婚約者のメルフィナに対して無礼だと言う理由で」


「なっ、なんだと!?」

「俺はフレッド殿下に見いだしてもらった身だ。必ずしもホルヘ殿下の招聘に応えなくちゃいけないってわけでもないだろう」


 俺が馬車から踵を返すと狐目の従者は慌てて声をかけてくる。


「ま、待て!」


 そんな声には一言も貸さずに俺は工房に足を向けた。


「ま、ま、ま、待って……くだ……さい……」


 従者はよほどプライドが高いのか、丁寧語すら声に出すことを躊躇っている。一応態度を改めたことに足を止めたが、従者から次の言葉がなかなか出てこない。


「あ、あ、あ、あなたさまに来ていただかないと……私がこ、困ります……どうか王宮にお越しくだ……さ……くっ! くうっ! いっ……」


 歯を食いしばったのか、変な息が漏れていたが、一応良くできましたと言ったところだと思う。


「構わないけど、それならメルフィナに一言謝罪してほしいな。彼女は言っても王国の騎士団々長なんだから」

「ぐぬぬ……ぐぬぬ……も、申し訳……ありませんでしたぁぁっ!」


 ようやくメルフィナに頭を下げた従者。もし彼女がオラオラ系の私TUEEEだったら、彼が首を跳ねられていたかもしれない。


 正直でしゃばった真似をしてしまったが、最低限の礼節は必要だと思った。


「旦那さま……ありがとうございます」


 そっと俺の耳元でメルフィナがささやいてくる。


「やり過ぎたかな?」

「とんでもありません。彼はいつもそうでちょうどいい薬だと思います」


 クスッと口に手を当てて笑ったメルフィナだった。



――――王宮。


 眩しいっ!


 ホルヘ殿下の部屋に入った途端眩いまでの光に思わず手で目を覆った。さすがクローディス王国は金が算出するだけあって殿下の部屋は総金造りと言ってよいほど金の装飾であふれている。


 おまけにホルヘ殿下の衣装まで金ピカでいかにも成金趣味みたいな感じ。まあ顔は俺が言うのもなんだけど、フレッド殿下に比べたら芋っぽい。


 全体的に太ましくアルミホイルが金色に変わった感じで、さながら金時芋と呼ぶにふさわしかった。


 そんな金時芋が俺たちを手招きして呼び寄せた。


「来たか、耳長女!!! ずいぶんと遅かったなぁ、銀狐の名が泣くぞ。狐は素早さが売りなのだからなぁ!」

「申し訳ありません、殿下……」


 金時芋は明らかにメルフィナを見下していることが分かる。


「ふん、まあ良い。耳長女とそっちの下郎を呼び出したのは他でもない。我が愚弟がブリビン帝国の者の手に落ちたのだ」

「「えっ!?」」


 フレッド殿下が人質になってしまったというのか!?


 俺とメルフィナは思わず顔を見合わせた。それを見た金時芋はぽむほむできそうな顎に手をやり俺たちを呼びつけた真意を語る。


「そこでおまえらに愚弟とブリビンの貴族との人質交換を行ってもらいたいのだ。嘆かわしいことに奴め、ブリビン帝国の手に落ち、我の手を煩わせおる。だが奴も血を分けた兄弟。救ってやるのが兄として、次期国王としての役割なのだ。もちろんやってくれるよな?」


 言うまでもなく俺たちの意志は固く通じ合っていた。


「「はい! もちろんです」」

「そうか! そうか! これで我がクローディス王国も兄弟手を取り合い、ブリビン帝国からの外圧を跳ね除けられるというもの。おまえらの忠心に感謝するぞ、くくくくく……」


 金時芋は俺たちが人質交換に立ち会うことを了承するとオタク特有のキモい笑いを浮かべていた。



 王宮から騎士団の駐屯所に戻ると早速メルフィナは団員たちに勅命を伝える。


「我々銀狐騎士団シルバーフォックスはフレッド殿下の人質交換に立ち会うことになったわ! なんとしても殿下を私たちのところに戻ってきてもらうの!」


「「「「ウオオォォォォォーーーーー!!! 殿下ぁぁぁーーーーー!!! お労しいぃぃぃ」」」」


 フレッド殿下を慕う団員たちは各々叫び声を上げて、号泣している。やはりみんな殿下のことが好きらしい。


 俺もだけど。


 団員たちの士気が上がる仲、俺とメルフィナは二人でひそひそと話していた。フレッド殿下をよく思わない金時芋が人質交換というのがそもそもおかしい。


「でもなんで俺たちが任されたんだろう? 確かに殿下に恩顧があることは確かなんだが……」

「はっ!? 言われてみれば旦那さまの言う通りです……気づきませんでした、ごめんなさい」


 そのまま拘束されていた方が金時芋にとって利があると思えるから。


 読みが浅かったことを悔いたのか、メルフィナはしょぼん顔になってしまったが、頭を撫でてあげるとにぱぁと笑顔になってくれた。


「人質交換ですって? それならもちろん私もついてゆくわ」


 地獄耳なのかセルフィーヌが顔を出し、俺たちに告げてきたのだった。


―――――――――あとがき――――――――――

いやっほーい! ずっと待ちわびていた千束の銃が届きました! バンザーイ!

発売が決定されてからかなりの時間が経ってしまいましたが、超人気のようでエアガン業界も予約を締め切ってしまったりとてんやわんやのようです。

一応現在は供給不足ですが、きちんと再生産されますので高額転売に手を出されないようお気をつけください。

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