第45話 王子とメイド

――――【あきら目線】


「えっ!? 刀哉があの耳長女と旅に出た?」


 ちんちくりんのジュリから伝えられた言葉に目の前が真っ暗になる。


「どうして止めないのよ!」

「あきらはトウヤの応援ができない子なの? 私はトウヤが立派な刀鍛冶になるなら、たくさん応援したい」


 あうう……くやしい。


 ちんちくりんのくせして、痛いところを突いてくる。


「で、でも刀哉はあの耳長女といちゃいちゃしてるって考えただけで胸が痛くなるのっ! あなたは痛くならないの?」

「トウヤがメルフィナさまに飽きたら私の番。ずっと待つつもり」


「馬鹿なの? 待っていたら愛してもらえるとか! ボクはずっと待ってるつもりなんてないし、刀哉が成功なんてしなくてもボクが養ってあげるんだから!」

「奴隷にトウヤは養えない」


「うるさいわね! 今は奴隷だけど、いずれは刀哉の正妻に収まってやるんだから!」

「どこに行くって言うの?」

「どこでもいいでしょっ!」


 口うるさいジュリを置いて、工房の外に出た。


 刀哉を探すために馬を借りようと騎士団の厩舎に来たんだけど、


「ちょっとその馬貸してくれる?」

「なんだ? トウヤさまのメイドかよ……」


 ブラッシングしていた馬の世話係は素っ気ない返事をする。


 馬の世話係ごときにぞんざいに扱われるとか許されないわ!


「馬を私に貸しなさい」

「ああん? 団長かトウヤさまの許可は取ってんのか? 取ってねえだろ……」

「刀哉の物は私の物なの! 貸さないと刀哉に言いつけてやるんだから!」


「トウヤさまはメイドがなにか言ってきても聞かなくていいって言ってたぞ。だから馬は貸せねえ。とっとと戻って、ジュリの手伝いでもしとくんだな」


 むかつく! むかつく!


 どうして、みんなボクの刀哉へのピュアな愛を否定すんのよ!


「あっ! こら! なにするんだ!」


 ボクは世話係の目を盗んで馬に跨がった。ボクに男装を強要し、男として育てようとした大嫌いな父親だったけど、乗馬を習わしてくれたことには感謝だ。


「いくよ!」


 ヒヒヒーーーーーーーーンッ!!!


 大きく前脚を上げていななく芦毛の馬。柵をサクッと飛び越えて、ボクは厩舎をあとにする。


「馬泥棒ーーーーーーーーーッ!!!」


 世話係が慌てて、厩舎の外に出てくるがボクが操る馬に追いつくはずもなく、地団駄を踏んでいた。


 ざまぁみろ!


 偉大な社長であるボクを馬鹿にするのが悪いんだ。


「待てぇぇーーーっ!」

「草! 待てと言われて、待つ馬鹿がどこにいるんだよ!」


 まんまと世話係を出し抜いて、ボクは騎士団の駐屯所を突破していた。



 ごそごそ……ごそごそ。


「この辺にあるはずなんだけど……」


 騎士団を出たボクは、キモい男爵の屋敷の付近をうろつき探し物をしていた。


「あった!」


 洞窟にいたときはたまたま取り回しに難があったけど、これさえあればボクは刀哉探しに行ける。



――――王都の城門。


「いま外に出たいだと? 馬鹿を言え。ブリビンの尖兵が潜り込んでいるかもしれないのに兵士以外が外に出るのは危険だ」


 門番がボクの行く手を阻んだ。


 ボクと刀哉との仲を引き裂こうとするなんて、なんて奴らなんだ!


「なんだなんだ? うわっ!? 無理やり突っ込んでくるなぁ!!!」

「あっ! 待て! いま外に出たら身の保障はできんぞ!」


 ボクは通行証を持った隊商キャラバンが城門の中へ入ってくるのに合わせて、馬を駆り外へ出た。



「ひゃっほーーーーーーーー!!!」


 何人なんぴとたりともボクと刀哉の愛を阻むことなんてできないんだぁ!


 しばらくは何事もなく街道を疾走していたけど、何か雰囲気がおかしい。街道を行けども行けども人とすれ違わなかった。


 まさか本当に門番たちの言う通りなんてことは……。はは! でも大丈夫! ボクにはこの猟銃が……って。


 洞窟のそばまでようやくたどり着いたかと思うとそこに西洋鎧を着た兵士がいた。


「でゅふふふ……村に女どもがいないと思ったら、メイドがいるとはなぁ!」

「み、醜い豚の怪物だぁぁぁーーーーっ!」


 でもそいつはどう見ても人間ではなく、豚だ!


 茂みに潜んでいたのかボクの周りに見るに耐えない醜い兵士たちがわらわら出てくる。


 ヤられるっ!


 猟銃を打とうとショットシェルを装填しようとするんだけど、焦ってポロポロと落としてしまう。


 馬に向かって剣が迫ったときだった。


 気づくと兵士が吹っ飛んでいて、ボクの前にイケメンが立っていた。


「大丈夫か……あなたはトウヤ殿のところの……」

「あああーーーっ! ボクを捕まえ牢屋に入れた王子じゃないか!」

「誰しも国法を犯せば、そうなる。それよりもいまはそんなことを言っている場合ではない」


 ボクたちが言い合っているとあの醜い豚男が何か言っていた。


「でゅふふふ……これはこれはフレッド殿下ではありませんか!」

「貴公は……そういうことか……まったく兄上は手の込んだことしてくれる」


「は? どういうことなの? 説明しなさいよ! 彼らはブリビンの兵士たちではない。兄上の手勢だ。狙いは私らしい」

「ちょっと意味が分かんないんだけど!」


「とにかくあなたには関係のないことだ。ここは私が食い止めるので、早くここから立ち去る方がいい」

「あんた一人であの数の相手するって言うの? 頭おかしいわよ!」


「かもしれないな。だが私にはトウヤ殿から受け取ったタチがある。なにを怖れることがあるだろうか?」


 王子は刀哉の太刀を抜き放つと、


「ハアーーーーーーーーーーーーッ!!!」


 掛け声とともに突撃していった。


 なんて無謀なのっ!?


 でもボクは驚いた。初めて見る刀哉の太刀が活躍している姿に。


 あんなに硬そう鎧を切り裂いているなんて!?


「殺すんじゃないぞ! 生け捕りに……」

「ギャァァァァァーーー!」

「なんて強さなんだ!」


 ボクが刀哉を馬鹿にしていたのは採算度外視、美術性皆無ということだけ。


「馬鹿なっ! 剣が切り裂かれるなんて聞いてないっ!」


 こんなに凄い物が作れるのに自分から埋もれるなんて刀哉は馬鹿なのよ! 私がこの変な世界で刀哉をプロデュースして売り込んであげないと!


「なにをしているんだ! 早くここからっ! うっ!!!」


 ボクに注意がいった王子は肩に矢を受けてしまう。


「あんたこそ、なにしてるのっ!」

「私に構わず、早く逃げるんだっ!」


 ボクは怖くなって、その場から逃げ出していた。


―――――――――あとがき――――――――――

イケメン王子さまがヤベえ! 二人はどうなるの? 戦争の勝敗は? 気になる読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。

作者はまだまだ寒いくせに花粉だけはしこたま飛んでることで目がかいかいです。皆さまは花粉症に悩まされてませんか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る