第44話 行方不明

――――王都の城門。


「そんな……王都まで攻め込まれていたなんて……」


 王都の城壁を見たメルフィナは手を口に当てて、驚きを隠せないでいる。もちろん俺もそうだ。


 前回訪れたときは綺麗に整えられた堅牢な城壁だったが、最上部は欠けたりしている。城門は破城槌や魔法攻撃を受けたのか、割れた部分を応急処置していたり、焦げた部分が見られた。


 それでも陥落していないことが救いだったが。


「メルフィナさまとトウヤさまが戻られたぞ!」


 俺たちが城門を守って警戒任務に当たっていた門番に声をかけると城門がゆっくりと開いていった。


「団長ぉぉーーーーーーーーーーーーっ!!!」

「メルフィナ、遅かったじゃない!」

「アンドリュー! それにアンドレア!」


 城壁の中にはアンドレア姉弟がおり、どうやらメルフィナの帰還を待ちわびていたらしい。


「大変なことになったのよ」

「うん、それは見てきたから……」


 ダンジョンから王都近隣の街や村を見てきたが酷いものだった。不幸中の幸いなのか街や村の人たちと思しき亡骸はほぼ見なかったので、戦闘になる前に疎開できていたようだ。


「ううん、そうじゃないのよ、そうじゃ……」

「姉上……」

「ありがと」


 アンドレアが泣くのを見て、アンドリューがハンカチで彼女の涙を拭っている。なんだかんだありつつも姉弟仲は良好らしい。


「あのね、落ち着いて聞いて。村や街の人たちが無事に逃げられたのはフレッド殿下自ら出撃し、彼らを守ったからなの」


 いやいや殿下……イケメンいや名君すぎないか?


 言葉では国民を守るとか言えても、実践できる政治家なんて現代じゃ絶滅危惧種……異世界で素晴らしい為政者に巡り会えたことがうれしい。


「アンドレアもアンドリューもいるのに……二人がいれば、帝国にいいようにされてなかったはず……」

「私たちももちろん殿下と出撃することを望んだわ。でも許可が下りなかった」


「団長も分かってると思うが全部あいつのせいだ」

「こら、アンドリュー! 口を慎みなさい、誰かに聞かれたらどうすんのよ」

「姉上さえ黙っていれば、バレない」


 アンドレアは敵性分子の摘発が任務だけど、フレッド殿下に肩入れしているのが分かる。


「あの……あいつってのは?」

「第一王子のホルヘ殿下だよ。奴は人気のあるフレッド殿下を死地に追いやったんだ」

「滅多なこと言うんじゃないよ。フレッド殿下は行方知れずになってるだけなんだからね!」


 えっ!? 


 俺の頭は真っ白になる。


 フレッド殿下が生死不明だと?


 殿下と会談したときのあの柔和な笑顔が思い浮かんできて、胸が苦しくなる。そんなことを思っていたら意外な人物に誉められた。


「あんたのタチって言う奴のお陰でオレは助かった。一応礼は言っておく」

「あ……ああ……」

「だがな! オレはあんたと団長の婚約は認めてねえからな!


「まったくあんたったら諦めの悪い子ねえ……」

「ちげえよ! オレはこいつがマジで団長を幸せにできっか心配してるだけで、そんなんじゃねえよ」


 もしかしてアンドリューはツンデ……いやいやキモいから考えないようにしよう。


「そうだ。諦めが悪いってことで思い出したんだがな、おまえんとこの奴隷、おまえを探して外に出て行ったきり見つかんないそうだぞ。オレらも出撃のついでに捜索したが見つかってねえ」

「えっ!?」


 フレッド殿下だけじゃなくて、あきらまで行方不明なのかよ! 


 くそっ、あきらに何も告げずに現代に戻ってしまったのがまずかったか……かと言って、指名手配のかかったあきらを連れ帰るなんてことは無理だ。


 刀作りどころじゃない、とにかく二人を探しにいかないと……。


「詳しくはジュリが知ってるわ。早く行ってあげなさい」

「団長! ホルヘの野ろ……ホルヘ殿下から銀狐騎士団うちも招集がかかってます。ひと休みされたら、お願いします」


「うん、アンドリュー……ごめん、大事なときにいられなくて」

「大丈夫っすよ、銀狐は誰もやられてませんから。そいつのタチって武器のおかげで」


 親指で俺を指差して、アンドリューは皮肉混じりにメルフィナに伝えていた。


「ところでメルフィナ、そのは誰?」

「あ、この娘? 親戚だよ!」


 アンドレアが俺と手をつないだセルフィーヌを見て、疑問を投げかけてくる。


 声がもの凄くうわずってしまい、不自然極まりないメルフィナ。真っ直ぐな性格だから腹芸は得意でないのは分かっていたから、対策をしておいたけど……。


「あたし、セラ!」

「お~、よくごあいさつできたね~」

「うん!」

「アンドレアよ、よろしくね」

「あい!」


 アンドレアに向かって、子どもらしい無邪気な笑顔で答えたセルフィーヌ。


 敵性分子のあぶり出しを担うアンドレアのことだ、ブリビン帝国の四魔将という重鎮の顔を知っていてもおかしくないと思い、ダークエルフの魔法で幼い姿に変えさせておいた。


 舌足らずの口調と相まって上手くアンドレアの注意をすり抜け、俺たちは混乱の中、工房に戻ることができた。


 課題は山積していたが……。


―――――――――あとがき――――――――――

なんかですね、無事に3.06を通過し、生き残ってましたよ、垢BANを食らわずに……。いやそれが普通なんですけどね。

読者のみなさま、運営さまに多大なるご迷惑をおかけいたしましたが、無事去年の愚挙を犯すことなく乗り越えられたことに感謝申し上げます。

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