第42話 挑戦状
俺たちは官公庁が集まる霞ヶ関の一角にある中央合同庁舎のエレベーターに乗り込む。
沖津さんは
「沖津、頼む」
「はい」
轟さんが沖津さんに呼びかけると彼女はエレベーターのメンテナンスボックスのキーを開ける。彼女がなにかボタンを操作するとエレベーターは地下へと降りてゆくが、通常のボタンにはその階数はない。
メルフィナは始めて乗るエレベーターに驚いて不思議そうに触ったりしていた。なんだか小さな子どもみたいで初々しい。
「旦那さま、箱が魔法の力でもないのに動いています! 不思議です」
「うん、エレベーターっていって、箱の最上部にモーターがついてるんだ。そいつは雷の魔法を浴びせると仕事をしてくれる」
すると俺の言葉を真に受けたのかメルフィナは手を天井にかざして、
「へえ~! スゴいんですね。じゃあ、ちょっと試してみま……」
「い、今はちゃんと動いてるからっ! だからあまり無理させるようなことは止めようね、ね」
「は、はい……」
雲の精霊を召喚しようとしていたので全力で止めておいた。
チーン♪
エレベーターのボタンは地下二階までしかないのに階数表示は地下五階と出ている。俺が戸惑っていると轟さんが教えてくれた。
「我々は自衛隊の別班と同じく非公開組織だ。表向きは存在しないことになっている。我々は三人の優秀なエージェントを失った。彼らの死は家族にも通常の事故死と伝えられる。もちろん、異世界情報室に勤めていたという事実も伏せられてな……」
情報室の
エージェントたちの惨状を見て、メルフィナなら回復できるのか訊ねたが、
「メルフィナなら彼らを蘇生してあげたり、回復させてあげることができたのかな?」
「残念ながら、息を引き取ってしまった方々の回復は私の能力では不可能です。それに……」
「それに?」
彼女は俺に対する恋心からか顔を真っ赤にして火照っている。
「わ、私は……旦那さましか……癒やして差し上げることが……」
「ご、ごめん……」
「いえ、また旦那さまがお怪我されたときはいつでも……頼ってください」
メルフィナは別にえっちなことを考えているわけじゃないんだろう。けど俺は彼女にされている行為……実質○精管理のことを考えると急に恥ずかしくなり、股間もおっきしそうになる。
彼女のつらい生い立ちを考えると回復行為は轟さんたちには内緒にしておこうと思うのだけど……。
「室長、なんか今日はやけにエレベーター内が暑くないですか?」
「馬鹿なことを言ってないで、早く出るぞ」
「は~い」
沖津さんは轟さんに促されるとキーボックスの中にIDカードのような物を差し込むとエレベーターのドアが開いた。
周囲は打ちっぱなしのコンクリートの壁……。
エレベーターの先には警備がおり、またIDの提出を求められるという厳重な警戒を通り過ぎると、いくつかの部屋が並んだ廊下に出た。
「は?」
ふとドアの前に出ていたプレートに目をやると点になる。
「ああ、それか……沖津、説明してあげてくれ」
「はい、ウチは『小説屋になれる』の運営をしています」
しれっと沖津さんはとんでもないことを答えた。
「いやいやいや、なんで警察庁がそんなことを……」
「それだけじゃない。カキヨミとベータハイムへの出資も行っている。異世界の知識を緩やかに国民へ周知し、サバイバル方法を伝えている。場所によっては我々が介入できないために苦肉の策というわけだ」
『なれる系』を知っていようが知っていまいが、どうなるか分からないけど、知らないよりはマシって話なんだろう、たぶん……。
「かつてアメリカがSFブームの際、その手の映画を多く作ったのは宇宙人との遭遇を想定していたためだ。我々はそれを真似ているだけにすぎない」
轟さんの顔は真剣そのもので冗談で異世界の情報を国民へ周知しようとしていることが伺えた。
――――異世界情報室々長室。
「委嘱状。右の者、今般警察庁、警備局外事情報部、外事課異世界情報室巡査部長に任命す」
「謹んで拝命いたします」
轟さんは隣の秘書官から書状を受け取ると俺に渡した。なんだか学生のときに賞状をもらったような気分だ。
委嘱状の端と端を畳んでまとめて持っていると眼鏡をかけた秘書官の女性が何か俺たちに渡したいようだったので受け取る。
委嘱状とともにIDカードが発行されるようだ。もちろんメルフィナの分も。
「メルフィナさんの扱いは済まないが伊勢さんの使い魔ということにさせてもらった。それでいいだろうか?」
「えっと……」
一瞬エルフは使い魔に入りますか? と戸惑ってしまったが、メルフィナを見ると満更でもないらしい。
「旦那さまには私をいっぱいいっぱい使って欲しいんです」
うん、なんだかとってもいけない気分になってしまう。
結局、優希は家にも戻っておらず、誘拐された線が濃厚ということで全力で捜索に当たることになった。
一旦俺たちは家に戻ったのだが、
「伊勢さん、郵便で~す」
「あ、いつも……ご苦労さまです」
赤い郵政カブに乗った局員さんから直に封筒を受け取る。見かけない顔で新しく入った人なんだろうかと思っていると切手には温泉マークみたいな浪線と丸の中の日付と局名が書かれた消印がないことに気づいた。
ふと見上げるとさっきまでいた郵便局員の姿は忽然と姿を消していたのだ。
恐る恐る封を開け、中の便箋を見る。
●優希は生きている
●返してほしくば勝負をしろ
●どちらが優れた刀匠か決めたい
要約するとそんなことが書かれてあった。優希は俺と勝負をしたいという変わり者に攫われてしまったようだ。
便箋は読み終えると端に火の粉がついて、燃え上がってしまう。慌てて手を離して、メルフィナに頼む間もなく灰と化していた。
「メルフィナ、俺はクローディスに戻ろうと思う。いっしょに来てくれるかな?」
「もちろんです!」
あまり気乗りしない勝負だが異世界でチー牛ならぬチー刀を打ち上げて、人の命を弄び、つまらないことを考えた奴らに一泡吹かせてやろうと思った。
―――――――――あとがき――――――――――
デ、デ、デ、デストロイ! デストロイガンダムが発売されたみたいなんですが、あのデカさとお値段で売り切れ続出というのがなんともスゴいですね。
ディスティニーからみんな待ってたんだろうか? 作者はスペースと金銭に余裕がなかったので無理でしたが、買った方のご感想お待ちしておりますw
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