第41話 拉致られた弟子【閲覧注意】

――――【刀哉目線】


 優希はっ!?


 優希を乗せた車の下へ駆けつけたが、現場は見るに堪えないものだった……。ニュースで言うところの全身とか、頭とかを強く打って……といった感じ。


 うおっぷ……。


 沖津さんも慣れないのか、俺と同じように吐き気を催しているようだった。血だらけになった運転席と助手席の人だった物体にメルフィナは祈りを捧げている。


 だけど優希の姿は見当たらない。


 まさか……。


 俺に考えたくない思考が巡ろうとしたとき、轟さんは淡々としていたが後部座席に目を止めた途端にドアを開ける。後部座席に座っていた俺の先輩になるエージェントは命こそあったみたいで、轟さんの顔を見ると彼に手を伸ばした。


「し、室長ぉぉぉ……」

「おい! どうしたんだ! しっかりしろ! 何があった!?」


「み、水野……水野さんがぁぁ……【深淵なる緋色クリムゾンレッド】の奴らにぃぃ……攫われて……しまいましたぁぁ……」


 えっ!?


 優希が攫われただと?


 俺は優希の名前が出た途端に止められると思いつつも轟さんの脇に寄っていた。頭が真っ白になっていると息のあったエージェントはホラー映画の何者かに取り憑かれたかのように震えだした。


「ああああああ……イヤダァァァァ……じ、じ、じにたぐなぃぃぃ……うぐぐ……あう、あう、あううーーーーーーー!!!」


 かと思うとピタリと止まり機械的な声を発した。


「このメッセンジャーは自動的に消滅する」


 ボンッと弾けるような音がした。俺の顔や轟さんの全身に飛び散る返り血……。さっきまで人の形をしていたエージェントの胸元から上がごっそりなくなっていた。


「旦那さま……」

「あ、いや、ちょっとびっくりしただけ」


 メルフィナが布で俺の顔を拭いてくれる。まったく現実味が湧いてこないのに、生々しい臭いに吐き気だけがこみ上げてきていた。

 

「一度本部に戻り、体制を立て直す。そのあと水野さんの緊急手配を行うつもりだ」


 轟さんはこういう警察用語で言うところの臨場に多く立ち会っているのか、部下の死を見ても眉一つ動かすことはなかった。ただ拳だけが強く握られ、震えている。



――――【優希目線】


 交通誘導員が誘導ライトを水平にかざし、私たちの乗る車を停車させた。師匠と離れ離れにされ、家へ連れ戻されているときだった。あと三十分ほどで私の家に着くと思ったら、マンホールの工事に引っかかる。


「ルートに工事なんかあったか?」

「ないな」

「それにしても室長がスカウトしてきたあのかわいかったな~!」

「あっ、おまえもそう思った? オレもだよ!」


 思いきり運転席の背もたれを蹴飛ばしてやろうかと思ったが堪える。


 師匠までメルフィナ~って、鼻の下を伸ばしてるんだから嫌になっちゃう。だけど師匠はあの女になにか妖しげな力で籠絡されたに違いない。


「おせえな……」

「たしかに」


 運転席の警察官はイライラからか、ハンドルをトントンと叩き出していた。それもそのはず、停車してから五分ほど経過していたが片側通行なのに対向がまったく来る気配がない。


 助手席の警察官が窓を開けて、若い交通誘導員に訊ねる。


「お~い、まだか?」

「は、はあ……ちょっと向こうでトラブったみたいですんません」


 ペコペコと頭を下げて彼は謝っていたが、警察官は鼻息を荒くして腕組みしていた。


 交通誘導員の彼がトランシーバーでやり取りしていたので、もうそろそろ通れるかと思ったときだった。


「下水のような臭いのする国家の犬どもはここで消えるがいい!」


 助手席のウインドウガラスが割れる。弱々しかった交通誘導員が警察官をガラスごと殴ったみたいだったけど、運転席の警察官の顔が真っ赤に染まっていた。


「ひっ!?」


 助手席の警察官を見ると、そこにあるべき物がついてなかった……。


「くそったれぇぇーーーーッ!!!」


 運転席の警察官が胸のホルスターから拳銃を抜き、即座に交通誘導員に発砲したが……。


「うそっ!?」


 交通誘導員は発砲された弾丸のすべてを避けていた。


「水野さん! 逃げてくださいっ!」

「はっ、はいっ!」


 なんで師匠から離されたのにワケの分かんないことに巻き込まれなくちゃいけないのよ!


 全部、あきらと耳長女のせいよっ!!!


 私がドアを開けて車外へ出ると車がグラグラと揺れた。バシャと赤い液体と固形物が散らばって……。


「イヤァァァァァーーーーッ!!!」


 叫び声をあげると急に身体の力が抜けて、道路にへたり込んでしまった。


 逃げなきゃ……。


 そう思っても足が動かない。


 私が動けないでいると警察官を馬鹿げた力で撲殺した男が立っていた。さっきまでの弱々しさは演技だったんだ……。ヘルメットから覗く顔はかなりの筋肉質で、まるでボクサーみたいだった。


 そんな男が私の顔を見て、言った。


「あんたが水野優希か?」

「ひっ!? 人殺しっ! 殺されるっ! 犯されるっ! 近寄らないで!」

「時間がない。答えなければ殺す」


 ググッと拳を握った男。


 なんで! なんで! なんで!


 私が何か悪いことでもしたの? ただ師匠と結ばれたいと思ったことが罪なの? 死にたくないっ!


 逆らったら殺される。素直に答えても犯されそう。でも選択肢はなかった。


「私がその水野優希よ! 文句ある?」

「そうか、あんたを先生のところに連れて行く」

「私をどうするつもりなの? 私はただの求職中のニートよ」


「今はな。しかし水野優希……おまえには利用価値がある」


 男におんぼろで汚れたバンに乗るよう促される。手錠こそされなかったが目隠しをされ、車は動き出し、どこかへ走ってゆく……。



 感覚として一時間ほど走っただろうか? 目隠しを外されるとどこかの地下駐車場のような場所にいた。不安だったけど、あきらみたいに私をホテルに連れ込むなんてことはなかった。


 ううん、まだ油断はできない。


 男の仲間と思しき者たちが集まってきた。男と同じタイプの人間ばかりかと思いきや年齢性別は様々で小さな子どもに老人、果てはキャバ嬢みたいな格好をしてる人までいた。


 それでも警戒を解かずにいると後ろから声をかけれる。


「刀哉の弟子って言うのはあんたかい?」

「えっ!?」


 振り向くとそこには師匠に似た人懐っこそうな男性が立っていた。私は男性の写真を師匠の家で見たことがあった……。


―――――――――あとがき――――――――――

千束の銃がなかなか発売されないことに痺れを切らし、ストライクウォーリアーを買ってしまった○漏作者です。来週届くのか、届かないのか……。

いやそれよりも作者の垢は来週も生き残っているのか!? 次回、作者垢死す! デュエルスタンバイ!

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