第40話 異能者
――――【刀哉目線】
煽ってきた車が横転炎上、その結果搭乗者が火だるまに……って、まるでゆっくり事故事例動画でぎゃぁぁーーー! って叫んでしまうような光景だ。
そして
グラセフかよ。
元の世界かと思って戻ってきたら、グラセフのようなゲーム世界転移とかじゃないことを祈りたい。
「よおよお! あいさつがてら鉛玉のプレゼントしてくれるなんて、泣けてくるぜ」
男の声が響いた。男は火だるまになっているのに叫び声ではなく、至って普通の声で……。
思わずメルフィナと車内で顔を見合わせた。
「異世界にあんなヤバそうな奴いる?」
「サラマンダーの類なら……。でも人型では聞いたことがありません」
男は熱がった様子もなく火だるまのまま横転したミニバンの上に立ち、轟さんたちを見下ろしている。その様子に拳銃を構える沖津さんの手は震えいるようだった。
「沖津、なにをしている。撃て!」
「は、はい!」
パン! パン! パン! パン! パン! パン! パン! パン! パン! パン! パン!
二人して、火だるまの男に全弾撃ち尽くす勢いで放つ。だが弾丸が男に届く前に一瞬弾けるような閃光が走って、男に命中していなかった。
溶かしている?
「あは~! ポリ公の皆さ~ん、俺さまを通常弾頭で殺せるとか思ってんのかぁ? 脳みそ腐ってない? ま、俺さまはおまえの脳みそをそこの鉛玉のように溶かしてやるけどな!」
火だるまの男はまるで胸を張って勝ち誇った様子だったが、轟さんは気にも止めていない。
「沖津、援護しろ!」
「はい!」
パン! パン! と車外から乾いた音が響き、沖津さんが弾丸を放っている間に轟さんはトランクからケースを取り出しているようだった。
「まさかあんたたちから襲ってくるなんてね! 正直驚いちゃったじゃない」
「ナンパだよ、ナンパ!」
「ばっかじゃない? 誰があんたみたいな変態サディストについていかないといけないのよ!」
「そうかよっ!」
沖津さんから袖にされたことで腹を立てたのか、火だるま男は手を伸ばす。すると腕から炎が火炎放射器のように伸びてゆき、沖津さんの持つ拳銃へと接触してしまった。
「
素早く手を離した沖津さんだったが地面に落ちた拳銃は真っ赤になり溶け、弾倉に残った薬莢の火薬がパンっと音を立てている。
「残念無念の記念におまえらの墓標にはこのレッドさまに頑張ったけど勝てませんでした~って刻んでやるよぉ」
「ひっ!?」
ゆっくりと後退りする沖津さんを笑いながら、火だるまの男は追う。一方の轟さんも準備がまだ整っていないらしく、なにか対物ライフルのような物を組み上げている最中だ。
車の中で待機するように言われていたが、どう考えても轟さんたちはピンチだってことは分かる。
「メルフィナ、俺……役に立つかどうか分からないけど、あの人たちを助けに行ってくる」
「私も行きます!」
「いやメルフィナは車の中で……って!?」
ファーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!
俺は話終える前にドアを開け、メルフィナの手を引いて即座に車から降りる。
後ろからけたたましいクラクションを立てて、大型トラックが路肩に停めた俺たちの乗る車に躊躇なく突っ込んできたのだ。
「なっ!?」
「えっ!?」
ガッシャーーーーーーン!!!
そのままトラックは俺たちの乗っていた車にぶつかる。ハンドルを左に切っていたお蔭か、高速道路の側壁で車体がガリガリ削られる音がしていたが間一髪、俺たちは無傷でいられた。
「大丈夫?」
「ええ、私は。それよりも旦那さまは……」
「俺も無事。だけど……」
さすが日本のトラック! と言うべきだろうか、傷こそあるものの、ぶつかってきたトラックは原型を留めているが俺たちの乗ってきた車はトランクと後部座席付近がひしゃげて、廃車っぽい雰囲気。
「大丈夫ですか?」
「私は大丈夫だ。それより沖津が……」
尻餅をついた沖津さんの顔めがけて、火だるまの男はアイアンクローをかまそうとしていた。
「メル……」
俺がメルフィナにお願いするまでもなく、彼女は精霊魔法を放つ。
「【アイシクルアロー!】」
弓の弦を引くようなモーションから弦を離すと鋭く尖った
「うぐっ!? 俺さまに手傷を負わせるなんざ、なにもんだ、てめえらぁぁっ!!! なっ!?」
「俺たちを狙って襲ってきたんじゃないのか?」
俺は男がメルフィナの魔法に気を取られている間に間合いを詰め抜刀、男の喉元に切っ先を突きつけていた。
「んな、なまくらで俺さまを倒せるとでも?」
「どうだろう? だけど、あんたが動きを止めてるってことは効くんじゃないか?」
「くそっ! 煮るなり焼くなり好きにしろっ」
火だるまの男は観念したのか、纏っていた炎を消していた。金に染めた頭髪にスカジャンにジーパンというチンピラ風の姿……歳は俺より若いくらいだろうか。
あんな激しい炎を纏っていたのに煮たり焼いたりしても効果なさそうなんだが……。
男は腕組みしながらアスファルトに胡座をかいてしまっている。
俺が轟さんに手錠を……いや効果あんのか? とか思っていたら、俺に向かってなにか飛んできたのでさっと避ける。
トッ、トッ、トッ!!!
リズムよくアスファルトに刺さっていたのはクナイ。
「赤猫、遊んでるんじゃないわ」
「しずり! 遅いぞ、ゴラァ!!!」
男の救援に来たのは対○忍ですって感じの網目の忍者スーツを着込んだくノ一だった。
「ふ~ん、あんたが刀磨先生の息子ねえ」
「……なんで俺の親父の名前を?」
「それは内緒。今日のところは勝ちにしておいてあ・げ・る」
くノ一は丸っこい玉を転がすともうもうと辺りに煙幕が広がっていた。
メルフィナが風の魔法で煙幕を吹き飛ばしたあとには俺たちを襲ってきた二人の姿はなく、ぶつかってきたトラックも消えていた。
「室長、私たちの行動が把握されてるなら……」
「その懸念はあるな」
轟さんはスマホを胸ポケットから取り出し、連絡しているようだったが……、
プルルルル……プルルルル……。
コールだけが響いて、ずっと応答がない。
「おかしいな……、先発した花房たちと連絡が取れない」
「それって優希が乗っている車ですかっ?」
「あ、ああ……」
―――――――――あとがき――――――――――
ぬは~っ! 作者、迷っておりまする~。ヨルさんみたいになったDを引くべきか……。いやなんもなけりゃ石使うぜっ! ってなるんですが、来るんじゃないですかね、本命のシンデレラが……。
今は耐えるときなのだ。まあ、ピルグリムは引いても出ない可能性大なんですけどねwww
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