第36話 奴隷を泣く泣く買う【ざまぁ】
「殺せ! 殺してくれぇぇぇーーーーーーーッ! 刀哉と結ばれないなら死んだ方がマシだぁぁぁ!」
今まであきらが断頭台にかけられることを望んでいた観衆は、急に態度を変えたあきらに戸惑っていた。
「うわぁぁぁぁーーーーん……。ずっとずっと刀哉のそばに居たのに、気づかれずにぽっと出の女に攫われてしまうなんてーーーーーーッ!!!」
舞台に拳を打ちつけながら号泣するあきらをなだめようと司会が歩み寄るが……、
「触るなっ! ボクに触れて良いのは刀哉だけだっ! だけどそれももう叶わない。早くボクを殺せ!」
とても面倒くさいことになった……。
さも俺が悪いみたいな言い方に腹が立つ!
小学生男子みたいな好きな女子をいじめてしまうという恋心に誰が気づけるっていうんだよ!
自意識過剰と思われてしまうかもしれないが、集まった観衆や奴隷オークションの担当者たちが俺を見る目が『知り合いならおまえが買って事態を収集しろよ』な感じに見えてならない。
「はあ……買います……」
こんなところ中須賀にでも見られてみろ、あいつは絶対にエロいこと目的にあきらを買ったとか言いかねない。
お……俺はあきらに性的興奮なんか絶対に覚えないんだから……な。震えながら媚びたポーズには、ゾクゾクって来たけど……。それは俺があきらに散々こけにされてきたからであって……いや言い訳がましいから、この辺でやめておこう。
あのまま誰も買わずに断頭台にでもかけられたら、あきらは確実に化けて出てくる。そして俺の枕元に立って、恨み言を散々言ってくるに違いない。
「おおっ、救世主だ」
「やっと面倒くさい奴を買ってくれる勇者が現れたか……」
「よかった……」
観衆やオークション主催者たちは俺の入札にほっと胸をなで下ろしたようだった。
カンッ!
「イセ氏が【異邦の
司会がハンマーを鳴らし、オークションは終了する。
「こちらに名前の記入をお願いします」
「あ、はい……」
司会に促され、あきらの首輪に名前を書いた。クローディス王国の決まりで落札者は犯罪者の管理という名目で書かないと引き渡しはできないようだ。
「あうう……あうぅぅ」
首輪には鎖がついていて、涙目で俺を見つめるあきらがペットショップにいる子犬のように思えてならない。
かくして俺はあきらのご主人さまになってしまった。
ただこのまま、あきらを買いました、では収まらないだろう。集まった観衆は娯楽を求めてきたのだから……。
ドンッ!
「これはいったい?」
「済まないがこれを集まったみんなに分配してもらえないか?」
メルフィナたちから聞いたビエール男爵の施しの話が耳に残り、あきらの入札代金が想定していたものより、かなり安かったのでその残りをすべてオークションの司会に預けた。
「とおやぁぁぁぁ……あうっ、あうっ……」
「もういいから黙ってなって」
半裸のあきらに外套をかぶせるとグジュグジュになった顔を布で拭いてやる。不運にも異世界に迷い込んでしまったあきらを回収して、俺たちは工房に戻った。
だが工房では早速問題が発生している。
「いい? あきらはトウヤに変な気を起こしたらダメ」
「なんでボクがおまえに指図されなくちゃならないんだ!」
ジュリがあきらに工房の掃除方法などを教えていたのだが、なぜか俺に手を出す、出さないで揉めていた。
「それよりもなんなんだよ、この格好は!」
「あきらはトウヤを敬う心が足りない。まずは形から入るのが筋」
ジュリはあきらにメイド服を用意し、それ以外着ることを禁止しているらしい。
「じゃあジュリはどうなんだよ! メルフィナが婚約者ならおまえは……」
ペシッ。
「あいたっ!」
「あきらは先輩に失礼。必ずジュリ先輩と呼ぶこと。それに仕事もポンコツ。私はトウヤの愛人。あきらはただの使用人、身分の違いを理解して」
いつからジュリは俺の愛人になったんだ?
「ジトーーーーーーーーーッ」
メルフィナが俺をジト目で見てきて、怖い。
「メルフィナも知ってると思うけど、ジュリにはなにもしてないから」
「ジュリにはだと? じゃあ刀哉はその女にはもう手を出したって言うのか! ボクには指一本触れようともしないのに、その女には口には出せないようないやらしいことをいっぱいしてるんだな!悔しい……死んで呪ってやるっ!」
いや口には出してる……。
なんてことを言えるはずもなく、メルフィナをなだめようとしたら口が滑ってしまい、あきらが勝手に妄想を膨らませ、誤解を深めていた。
はあ……。
無能だと思われたあきらは断頭台にかけられるかもしれないという窮地でスキルを習得してしまったらしい。
スキル【
あきらが俺に想いを募らせて自死を選んだら、俺も死にそうで怖い……。
ヤンデレ奴隷メイドとか嫌だ。
ペシッ!
俺が頭を抱えているとジュリがあきらのおしりを叩いた。
「あきらは死ぬ前に仕事を片づけること。そのあと勝手に死んで」
「死ぬわけないだろ! おまえらから刀哉を奪うまでは!」
俺にはさっぱり分からなかったが、あきらは独占欲を俺に発揮していたようだ。優希の件もあきらは優希の両親から話を持ちかけられ、彼女を家に連れ戻すことに便乗する形で俺から遠ざけたかったらしい。
かれこれ二ヶ月近く異世界で過ごしたのだが、家のことが気になり、戻ることにした。
「お留守番とあきらの面倒を頼むな」
「分かった。でも帰ってきたら、ご褒美がほしい」
「ご褒美?」
「うん、トウヤの子種をくれたら頑張る」
「却下です」
あきらには告げず、早朝から騎士団の駐屯所を立つ。あきらは今ごろ、お布団の中で夢の中だろう。どんな夢を見ているのか想像もつかないが。
あきらにバレると「どうせ、私に隠れてえっちするために二人で出かけるんだろう! 私は刀哉が戻るなんて許さないからな!」って言われるに決まっている。
戻れなくなったのは自業自得だろうに。
辺りは暗くフクロウみたいな鳥が鳴いているのか、ホーホーと動物の鳴き声が響いた。そんな中、王都を出る際に城壁の外で
「なんかあったのかな?」
「はい……実はあきらさんがビエール男爵を公務できないようにした影響が出てきているようで……彼らは国境の警備に駆り出されているのです」
あいつはまったくとんでもないことをやらかしてしまったんだなぁと俺は笑ってしまったが……。
「……」
「メルフィナ?」
「あ、いえ気にしないでください。それよりも先を急ぎましょう」
俺はメルフィナとともに現代へ通じるダンジョンへと入っていった。
―――――――――あとがき――――――――――
あと数千字で十万字! コンテストの都合で連投しておりましたが、なんとか間に合いそうで胸をなでなでしております。そうこうしている内にもうそろそろカクヨムコンの中間発表が近づいてきました。現在、エロ警告は届いておりませんが、念のため既出作品の原稿を手直しいたしますので元原稿が読みたい読者さまは今の内に読んでいただけますと幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます