第35話 BSSされた幼馴染【ざまぁ】

「誰か買ってください……」


 あきらは司会から売れなければ死刑という事実を知り、ブラを隠していた手を取り払う。


「色気が足りねえぞ!」

「四つん這いで媚びてみろ!」

「あうう……」


 なんだろう? あきらの姿を見ていると、なにかいけない扉を開けて変な性癖に目覚めてしまいそうな気がしてくる。


 俺を罵倒し、いつも強気なあきらが涙ながらに女豹のポーズを震えながらしており、観衆からは「もっと乳を揺らせ!」と怒鳴られている。


「買って欲しかったら、自分から脱いでみろ~!」

「アピールもできねえ女なんて誰が買うかよ!」

「ははは、本当そうだな!」

「おい司会者! 金貨一枚とか高過ぎだろ、値段下げろ」


 さっげろ! さっげろ! さっげろ!


 一人の男の提案でオークションに参加していた観衆はみんな親指を下に向けて、値引きコールを始めてしまった。


 買い手はつかないのにヘイトは買ってしまったあきらが不憫ふびんでならない。それだけあきらはヘイトを買ってしまうようなことをしてしまったんだろう。


 俺は奴隷売買についてはまったく知らないのでメルフィナたちに訊ねる。


「金貨一枚って高いのか?」

「まったく高くない。むしろ安い」

「だったら何で買い手がつかないんだ?」

「男みたいな女は人気ないから」


 ジュリらしくなかなかの辛辣な感想を寄せていた。


「まれになんですが貴族の隠し子に生活魔法を使える子などは人気で五〇〇ゴールドになったりしますね。でもあの人はまったくの無能のようです」


 俺は読めないが、メルフィナたちによると競売のサポートをしてる人が持ってるフリップカードにはあきらの罪状や性格、スキルや魔法が使用可能かなどの取り扱い説明書みたいなことが書いてあるらしい。


「下着も脱げよ!!!」

「全裸になったら入札を考えてやってもいいぞ」


 常に男装で過ごしてきたあきらなので、男に媚びるのは上手くない。


「で、できない。そんなことをするなら……!?」


 プライドが高くて、観衆たちの要望に応えられずにもじもじしていると観衆の中から俺を見つけたあきらは俺の方へと歩み寄る。衛兵に舞台から降りることは阻まれてしまうが会話することぐらいはできそうだ。


「刀哉! なに、ぼーっと見てるんだ! ボクを助けろ! 岩戸に開いた洞穴を通って刀哉を追ってきたら、ワケの分からないところに出た。かと思ったら、おかしな連中に殺されてしまうとかおかしいだろ!」


「あきら……おまえ……」

「私を買ってくれ! おまえは大金持ちになったんだろ? なあ頼むよ。じゃないとボクはこいつら野蛮人に殺されてしまうんだ!」

「……」


 俺はあきらが反省して、傷害を負わせた相手に謝罪する気持ちがあるなら助けようと思っていた。



 だけど、なんなんだ!



 反省するどころか、上から目線とか……。


「あなた! なんなんですか! あなたのせいでどれだけ旦那さまが苦労させられたか分かってるんですか? あなたは旦那さまが困っていたときに手を差し伸べるどころか、馬鹿にしていたくせに!」


 俺が怒るまえにメルフィナがあきらに憤りを露わにしてしまう。


「おまえは一体誰なんだよ!!! これはボクと刀哉の問題だ!」


 メルフィナとあきらの言い争いに気づいた観衆は何事かと騒ぐのを止めて聞き入っていた。それは司会も同じでオークションを進める気はないらしい。


「私は彼の婚約者です! 病めるときも健やかなるときも常にいっしょなんです。あなたのように都合よく旦那さまを利用しようなんて思ってません」

「婚……約者? 刀哉とこの耳長女が? 嘘だっ! 刀哉がおまえなんかと婚約するわけがないだろ!」


 あきらが俺を見ると周りの観衆の注目まで俺に集まってしまう。


「あきら。メルフィナが言ってることは本当だ。彼女は俺の婚約者だ」


 未だに誰からも愛されるようなメルフィナが俺のことを想い、婚約者だと明言してくれていることが信じられないんだけど、そんな彼女のためにもと思い俺ははっきりとあきらに告げた。


 その瞬間、あきらは……。


「えっ? 刀哉……今、なんて言った? 頭が真っ白になって聞こえないんだけど?」

「何度でも言ってやる。メルフィナは俺の婚約者だ」


 語気を荒げて言い争っていたメルフィナとあきらだったが、俺が堂々とメルフィナとの仲を宣言した途端、がくりとあきらの膝が崩れた。


「刀哉が……婚約? 婚約した刀哉……? ボクはどうなる? ボクの刀哉が……?」


 あきらは壊れた機械のように俺と婚約のことを死んだ魚のような目をして、ぶつぶつとつぶやいていた。


「演技でも嘘でもありません。嘘をついているのはあなたです! 本当は旦那さまのことが好きなのに素直になれなくて、嘘で心を塗り固めていたのは……」

「なんでそれを……」


 メルフィナを見たあきらのまぶたから、つつーっと涙がこぼれ落ちていた。


―――――――――あとがき――――――――――

あきらの性別からしたらWSSなんですが、ボクっ娘なんでBSSでお許しください。さてさてあきらの生殺与奪は刀哉に握られてしまってたんですが、どうなることやら……。先が気になるという読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。

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