第33話 異世界工房

 叩いて焼いて、叩いて焼いて……。


 何度繰り返したことだろう?


 異世界初の作刀の素材は俺が斬った騎士たちの剣。これは剣の命を絶ってしまった供養でもある。


 日本刀の折れず曲がらずと言われているが、扱いが悪いと普通に曲がってしまう。だが俺の先祖から爺ちゃん、親父と受け継がれた太刀はその限りにない!


 打ち始めると俺はぶっ続けで作刀するくせがある。親父も同じ……あんまりいいくせとは言えないが、それが俺たちのやり方だった。


 それでもやっぱり疲れてきて、まぶたが重みで自然と下がってくる。ふと相鎚を打ってくれていたジュリは寝落ちしてしまっていた。


 俺の汗を拭いてくれたり、水を飲ませてくれたり、と献身的に尽くしてくれていたメルフィナもす~す~っとかわいらしい寝息を立てしまっている。


 ジュリを工房の休憩部屋のベッドへ寝かせた。メルフィナとは反りが合わないっぽいけど、工房で寝落ちしてしまった二人は肩を寄せ合っていた。


 本当は喧嘩するほど仲がいいのかもしれないな。


 ジュリを運んだあと、奇しくもメルフィナをお姫さま抱っこで運んでいるときだった。


「えっ!? 旦那さま?」

「ごめん、起こしてしまったね」

「申し訳ありません……私、寝ちゃってたんですね……」


「気にすることないよ。メルフィナは団長職をやりながら、俺を手伝ってくれてたんだから」

「でも旦那さまのお手を煩わせてしまってます」


 メルフィナはキュッと唇を噛んで自分の不甲斐なさを責めているようだった。悲しそうな瞳を見ると堪らなく愛おしくなって、彼女を抱えた腕に力がこもり強く引き寄せていた。


「旦那さま?」

「気にすることないよ。俺とメルフィナは婚約したんだ。お互いに支え合っていこうよ。失敗なんて思わないで」

「やっぱり旦那さまは優しいです」


 悲しみの表情を浮かべていたメルフィナはふふっと笑顔になる。


 まさか三十路童貞彼女なしの俺に、こんな日が来るなんて思いもしなかった。メルフィナみたいに天使か、女神か、判別がつかない美少女とまるで恋人のような会話をしているのだから。


 メルフィナをベッドに送り届けると彼女は、


「旦那さま……あの……その……頬を私に近づけていただけませんか?」

「あ、うん。いいけど……な、に……っ!?」


 チュッと音がしたかと思うと頬に当たる柔らかくて暖かい感触。


「メルフィナっ!?」

「おやすみなさいっ、旦那さま!」


 俺のほっぺにチューしたメルフィナは真っ赤になったあとお布団でガバッと顔を隠したが、そーっと下げて目元だけ俺の様子をうかがっている。


「おやすみ、メルフィナ」


 俺もうれし恥ずかしかったが、お休みのあいさつを返すと彼女は微笑んでいた。キスされたことに加えて、かわいらしい仕草で疲れがすべて吹き飛んだような気がする。


 気がしただけじゃなく、夜通し鎚を振るえてしまった……。


「完成だ……!」


 朝になり起きてきたメルフィナとジュリといっしょに打ち上げる。


 カン! カン! カン!


 まだ研ぎの作業が残っているが、たがねで俺の銘を切っていると、メルフィナたちが不思議そうに見ていた。ちなみにうちは他の刀匠とは違い、分業ではなく研ぎも自分たちで行っている。


「旦那さま、それはもしかして名前を刻んでいるのですか?」

「そうだけど……」

「剣には名前を刻まない。やっぱりトウヤの国の剣は不思議」


「そうだな、銘を切るっていうのは俺が責任を持って打ちました、って使う人たちに伝えるためなんだ。やっぱりダメな仕事をしたら恥ずかしいし、長く使われたら後世にまで残って馬鹿にされちゃうからね」


 作刀に関してあまり厳しいことを言わなかった親父だが一言だけ、言われたことがある。


 ただ一言……、


【恥ずかしくない仕事をしろ】


 だった。


「すごい! 私の目に狂いはなかった。やっぱりトウヤの赤ちゃん産みたい」


 なっ!?


「ダメです! 旦那さまは私の婚約者なんですから、そんな破廉恥なことさせません」

「予定は未定。トウヤが私と浮気したら婚約破棄になる。私頑張る」


 うーっ! うーっ! とメルフィナは強かなジュリを前にして唸っていた。だが、メルフィナはポンと手のひらに拳を落とすと、俺に身体を猫のようにすり合わせてくる。


「汗だくになっちゃいました……」

「メルフィナさまはお風呂に入っていればいい。私はトウヤとベッドに入って休むから」

「なんでそうなるんですかっ! 旦那さまは私とお風呂に入るんです」


「トウヤはお風呂に入りたい?」

「ああ、かなり汗をかいてしまったからなぁ……」

「だったら私も一緒に入る」

「なっ!?」


「私、おかしなこと言った? 仲間ならいっしょにお風呂で汗を流す。それともメルフィナさまはトウヤとお風呂でいかがわしいことでもするの?」

「あうう……旦那さまぁぁ……」


「ふふっ、メルフィナさまはチョロい。新しいタチだけじゃなくて、新しい命も作るの」

「ジュリ? なにか言った?」

「ううん、何も」


―――――――――あとがき――――――――――

あのですね……あのウマ娘はスルーするつもりだったんです。だけど迷っていたときにカクヨムさまからインセンティブという餌が撒かれ、まんまとポチってしまいました。

ロケットおっぺえには勝てなかったよ(≧Д≦)

作者はどノーマルなんですが、急に異種族レビュアーズの話を始めたら、そっち系に種割れしたと思ってください。

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