第32話 魔法の粉
あきらの奴、本当にどうしようもないよな……。
処遇についてはまだ決定しておらず、後ほど裁判を行うとのことだった。
メルフィナは王宮では有名人かつ人気者であるらしく、ハイヲーク討伐や現代に迷い込んだときの話をお茶会にて仲の良い貴婦人たちに伝えに行っている。
一方の俺はというとクラシックなホテルのスイートのような部屋にいた。貴賓室といって隣国の王族や外交官などをもてなすための部屋らしい。
調度品のお値段など想像もつかない高級アンティーク店に置いてあるような品々が並んでいた。読書机に本棚、テーブルなどは経年により木材が濃いブラウンの光沢を放っている。
本を読もうにもさっぱりこちらの文字は分からない。なので貴賓室のソファに寝転んで休んでいるとドアがノックされた。
「は~い、どうぞ」
メイドさんでもお茶を出しに来てくれたのかと気のない返事をするとドアが開いて、俺は腰が抜けそうになった。
「やあ、トウヤ殿」
「な、な、な、なんでフレッド殿下がこちらへ……? しかもおひとりでだなんて」
「トウヤ殿と二人で話がしたくてね」
なんだろう、お忍びでやってきてサシで話がしたいなんてこんなイケメン王子さまに言われたら、俺が女の子だったら惚れてしまうかもしれない。
「鍛冶ギルドが高くキミの技術を買っているみたいだね」
「そのようで恐縮してしまいます」
「メルフィナから聞いたところによると、あなたは我々とは異なる世界の住人で彼女の危機を救ってくれたとか……」
「あ、いえ、救われたのは俺の方で……」
「私に謙遜は不要だよ。なんと言っても私の大事な人を助けてくれたんだ。言わば私の恩人でもある」
なんだろう、この知り合ったばかりなのに溢れる旧友感。フレッドリーならぬフレンドリーなイケメン王子さまに俺はめろめろかも。
「このようなことをにあなた伝えるのはどうかと思うのだが、メルフィナは私の憧れだった……。初恋の相手というのが正しいかな、彼女は。あのように気取らずに接してくれる彼女だが、色恋沙汰については常に素気ない態度を取られてしまったものだ」
正直なところ、俺はメルフィナの男の趣味というものが分からない。なぜフレッド殿下じゃなく俺なのか? メルフィナに聞いてみたいけど、怖くて聞けない。
「私はあなたがうらやましい。だが、それ以上にメルフィナにはしあわせになって欲しいと思う。どうか一日でも長く彼女と添い遂げていただきたい」
フレッド殿下から差し出された手を俺は握る。
なんと言うのだろう? 初めて会った人なのに固い友情というか、体温以上に熱いものを感じた。それだけ殿下はメルフィナに本気だったんだろう。
「もちろんです! 俺はメルフィナをしあわせにしてみせます」
さまぁーーーッ! さまぁーーーッ!
俺たちが話しているとなにか呼ばれているような気がした。
「メルフィナがあなたを呼んでいるようだ。私はお暇するとしよう」
殿下は聡明な方だと聞いていた。メルフィナに相手にされていなかったとは仰っていたが国を預かる者として彼女を諦めたんじゃないか、なんとなくそう思えてくる。
しかも俺を立てるような伝え方で……。
殿下の退出を見送ったあと、バルコニーへ出るとメルフィナが下の庭園から無邪気に手を振っていた。
「旦那さまにいただいたお菓子がみんなに大好評なんです!」
異世界でチョコレート無双を決めても良かったのだが、どっちかって言うとヨーロッパからナーロッパでは芸がないな、と思い俺が遠足のおやつよろしく選んだのは……、
パリピーターン!
丁銀というべきか、ナマコ型というべきか、黄金色の米菓でひとくちでも口に入れれば、飛ぶ粉がまぶしてあるヤバいアレだ。
ダンジョンでもしもの場合に備えて、用意しておいた。危ないときはモンスターに与えて、奴らがキマっている間に逃走できるんじゃないかと。
幸い危機に陥ることはなかったがメルフィナがお茶会に招かれたというので、余り物だけど食べて感想でももらおうと思って渡してみたのだ。
「メルフィナさま! こちらにいらしたのですね。ささお早くラブロマンスをお聞かせくださいまし」
「こんな美味しいお菓子は初めて口にしました。私も今からお稽古に勤しんで騎士になりたいです」
「それは無理ですわよ、おほほほほほ!」
「ああん、みんなちょっと待ってぇぇ……旦那さまと……」
メルフィナは貴婦人たちに手を引かれ、背中も押され、文字通り引っ張りだこだった。俺は鞄の中に入れていた残りのパリピーターンの袋を持って、メルフィナに渡しに行ったのだった。
――――数日後。
落成式とでも言うのだろうか?
「火の精霊よ、目覚めを迎えたかの地に加護を与えたまえ!」
メルフィナが祈りを捧げると火床にくべたコークスがゆっくりと赤くて鈍い光が輝きを放ち始める。
「じゃあ、行くぞ!」
メルフィナとジュリが頷き、外から俺たちを見守る騎士や鍛冶ギルドの人たちが息を飲む。ジュリが鞴を踏むと黒いコークスが真っ赤になったのを見て、心鉄を火床へ投入していた。
俺の異世界での工房は鍛冶ギルドと大工ギルドの頑張りにより完成し、新しい門出を迎えられていた。
―――――――――あとがき――――――――――
コトブキヤさん、罪深い美プラを出しちゃいましたね。ガチなウマ娘と言いますか、ケンタウロス娘のエレーナを……。
NUKE MATRIXの機甲少女にもケンタウロス娘がラインナップされているのですが、そちらはメカメカしい馬でしたからね。
ケンタウロス娘の次のモン娘は
えっ!? 作者は決してZトン先生のロケットおっぺえにヤられたわけじゃ……。
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