第29話 ゴブリンにリョナ【ざまぁ】

――――【あきら目線】


 ギギギッ!


「ひっ!?」


 気色の悪い声に生理的嫌悪感を覚えた。徐々に近づいてきたことで、明かりに照らされた奴らの姿形がはっきりと分かった。


「そんな!? なんでファンタジーの住人であるゴブリンが風穴の中にいるんだ!?」


 引き返そうにもボクはすでにゴブリンたちに背後を取られていて、進退極まってしまっている。


 シギャァァァッ!!!


 パァァァァーーーーーーン!!!


 背後から気味の悪い雄叫びに恐怖を覚えたボクはショットガンをぶっ放した。


 ギャワッ! ギャワッ! ギャワッ!


 前方にいたゴブリンたちは散弾によって上半身が吹き飛び、残った下半身はピクピク震えている。


「ははははっ! 本当に大したことないな。どうだ、これが文明の利器ってものなんだよ! 思い知ったか、化け物ども!」


 ギーーーッ!!!


 雑魚モンスターに臆してしまったことに腹立たしくなって、ちょっと煽ってやった。するとゴブリンどもは地団駄を踏んで怒りを露わにしている。


 ヒュンッ!


 なっ!?


 なにか頬の横を掠めたような気がして、手で撫でると指にべっとりと血がついていた。


「や、止めろ! そんなものを持ち出してくるな」


 ゴブリンどもはボクの猟銃に対抗するかの如く、弓の弦を引いている。


 ゴンッ!


「痛いっ!!!」


 弓矢だけじゃなかった。ゴブリンどもは卑怯にもスリングショットで石つぶてを撃って、あろうことかボクの足に当てていた。


 ギッ! ギッ! ギッ!


 ボクが痛がったことでゴブリンどもは小躍りして、ボクを馬鹿にしているようだった。


 パァァァーン! ガシャ、パァァァーン!


「人間さまを舐めるなっ! しかもボクはその人間の中でも優れていて愛されるべき存在なんだよ! おまえらみたいな醜い生き物がボクを傷つけることはぜったいに許さないからなっ!」


 矢と石を避けるため、走りつつゴブリンどもに全弾を浴びせてやった。


 だけど多勢に無勢であることは変わりない……。


「はあっ、はあっ!」


 ゴブリンどもをなんとか振り切りると休めそうな場所にでる。ちょうど腰かけやすそうな岩場に崩れ落ちるように座った。


 なんとか洞窟内を進んでいたが、満身創痍だった。肩には矢が刺さっていて無理に引き抜くと出血が酷くなり、このまま息を引き取ってもおかしくない。


 そんなことになったら、ボクはゴブリンどものおもちゃだ……。


 グビッ、グビッ、グビッ。


「これじゃまるでボクが狩られる側じゃないか!」

 

 腹が立って、空になったミネラルウォーターのペットボトルを洞窟の壁に投げつけた。


 カラカラと音を立て、ペットボトルは転がる。



 ギィーーーッ! ギィーーーッ!



 しまった!


 迂闊にも軽いペットボトルの音なんて聞こえないだろうと思っていたら、ゴブリンどもは物音に気づいたようで仲間にボクの居場所を知らせているようだった。



「し、死にたくないよぉ! 助けてよ、刀哉ぁぁ! そんなわけの分からない女じゃなくて、なんでボクじゃないんだ!」


 ボクは鉛のように重くなった足を無理やり動かし、刀哉への恨み節を吐いていた。



 もう意識が朦朧としてきて、ふらふらになっているとヘルメットのライトとは違う光が差してくる。


 出口だ!!!


 ゴブリンどもがボクを執拗に追ってきていたがようやくボクは外に出られるのだと安堵した。



 たが……。



 ヒュンッ!



 ボクの太ももから矢の先端が飛び出してきていた。


「うっ、うぐーーーーーーーーーーーーーーっ!」  


 直ぐに悟る。後ろから放たれた矢がボクの太ももを貫いいたのだ。


「だっ、誰かぁぁぁーーーーっ! 助けてっ! 助けって!!!」


 明かりに向かって手を伸ばすが、うつ伏せに倒れたボクは足首を掴まれ、ゴブリンどもに奥へ奥へと引きずり込まれていこうとしていた。



 や、ヤられる!!!



 もう二度と刀哉と会えないと思ったときだった。


「まあ大変! 人がゴブリンに襲われちゃってるわ。みんな、あの子を助けるのよ」

「「「畏まりました!」」」


 薄れゆく意識の中でカイゼル髭の男が現れ、部下に指を差して指示を出している。西洋の騎士みたいな鎧を着た者たちが剣を抜いて、猛然とゴブリンどもに切りかかっていった。


「あら! とっても私好みのイ・ケ・メ・ン。早速お持ち帰りしちゃいましょ!」


 髭の男がなにを言っているのか分からなかった。


「男爵さま、その者は我らが……」

「いいの。私が運んであげたいの」

「はっ!」


 ボクは身分の高そうな髭の男にお姫さま抱っこされて運ばれたところで意識が途切れた。



 再び目を覚めしたとき、ボクが普段使っているものより数段も勝る豪華なベッドに寝かされていた。


「ここは?」


 それに肩や足は矢で貫かれていたはずなのに傷は塞がっている。


 どうして?




「おほーーーっ!!! 私の求めてきた美青年が目覚めたわ!!! ここはお目覚めのキスで目覚めさせてあげましょう」


 ボクは不穏な声を聞き、慌てて目を覚ました。


 すると髭の剃り痕が真っ青な中年が唇を尖らせて、ボクに迫ろうとしていた。すぐさま両手を使い、青髭の男の顔面を押し返す。


「止めろ! 気色が悪いんだよ!!! なにを考えているっ!!!」

「あらん? どこの言葉なのかしら? でも怖がらなくて大丈夫。愛があればお互いに通じ合えるから」


 キモ髭男は立てかけてあった杖を手に取るとボクに手をかざしながら、なにか呪文めいた言葉を唱えた。

 

「互いの壁を取り払い、心と身体が通じ合え! 【ローカライゼーション】」


 うわっ!?


 急に何なんだ!


 眩しい光に包まれたが、その光は直ぐに消えてしまう。


 なにも変わっていないと思っていたら、


「あらん……ずいぶんと恥ずかしがり屋さんね。私の名前はディルノ・ビエール。この辺りを治める男爵なのよ」

「言葉が分かる……どうなってるんだよ?」


 キモ髭男が何を言っているのか、はっきり分かってしまう。それはキモ髭男も同じらしく、ボクの声を聞いた男はうれしそうに髭の先を撫で満足げな表情を浮かべていた。


―――――――――あとがき――――――――――

作者も詳しくは知らないのですが中華エアガンメーカーにRSリアルソードというところがありまして、56式自動歩槍(AKのライセンス生産品)をモデルアップしていました。

リアルというメーカー名に違わぬリアリティさで、にわかに実銃を生産してるんじゃないか? と噂されていたようです。

それで吹いたのがクレーム対応です。ストックの取り付けが歪んでいるとクレームが入ったそうなんですが、実銃もそのように歪んでいると一蹴したそうな。


なんで銃の話かと言いますと、あれだけあきらは刀、刀と連呼してたのに猟銃を持っていったからですね。そりゃ刀哉から嫌われても仕方ないorz

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