第27話 弟子の反撃開始

――――【優希目線】


「どうも文化庁、文化財第一課々長の葛西と申します。本日参ったのは単刀直入に言って、水野さまに伊勢先生を説得していただきたい、その想いただひとつなのです」


 葛西と名乗る男性は名刺を私に差し出したかと思うと立ち上がり、深々と頭を下げてお願いをしてきた。


 私の持つイメージでは政府の官僚というのは居丈高でいわゆるジョーキューコクミンさま。愚民どもは我に平伏せ! というステレオタイプなお役人を想像していたのだが、完全に覆された。


 なんと言っても師匠をちゃんと【先生】呼びしていて、私の鼻はとっても高くなる。ただ師匠の説得というのは何の説得なんだろう? 


 まさか私が師匠の下を去ったことで自暴自棄になった師匠は郵便局強盗に入り、立てこもっているとか……師匠に限ってそれはないか。


「あの話が読めないのですが説得というのは……」


「はい、伊勢先生に無形文化財保持者になっていただきたいと思っていたのですが、固辞されてしまいました。我々も少々困惑しておりまして、伊勢先生と懇意にされていた水野さまなら、と白羽の矢を立てさせていただいた次第です」


 師匠が人間国宝ぉぉぉ!?


 スゴいとは思っていたけど、師匠の技量はそんなレベルなの? ああいうのって、お爺ちゃんになってからだと思っていたのに……。


 師匠を持ち上げられたら、説得するも、しないもない!!!



【私は監禁されいます。ここから出してくれるなら師匠を説得します】



 ただここから出ないことには、説得どころではなかった。盗聴されてるかもしれないので葛西と名乗る男性に一縷の望みを託して、メモを渡す。


「それは良かった。ご協力いただけるというなら、彼ならなんとかすると思います」

「轟です。よろしく」

「こ、こちらこそ」


 今までずっと沈黙を保っていた猛禽類に似た目つきの鋭い男性が口を開いたことに驚く。


 葛西さんの隣に座っていた轟さんは文化庁の職員にはとても思えない。さながらスパイの夫、アサシンの妻、サイキッカーの少女が疑似家族となるスパイホームの夫役、ロードを思わせる風貌だ。



 そこからの轟さんの行動力には目を見張った。両親を応接室に呼び出すと轟さんは手帳を見せた。


「私はこういう者です。しばらくお嬢さんからお話をお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「なぜ警察がうちに!?」

「うちの優希がなにか事件に!?」


 彼が見せたのは、桜の代紋エンブレムとPOLICEと表記された手帳。両親は何事かと慌てていたが、自分たちのやっていることにはまったく気づいていない。


「いえね、優希さんからご相談がありまして、彼女がご両親から軟禁されていると仰られているんです。それは事実でしょうか?」


「そ、そんな! 滅相もありません。私たちが優希を軟禁するだなんて。なあ、母さん」

「もちろんですよ」

「では優希さんはうちでしばらくの間、お預かりしてもよろしいということで、構いませんね?」


「それは……」


 両親は互いに顔を見合わせた。


「いいですね?」

「「は……はい……」」


 あいつを使って私を半ば強引に連れ戻した両親。都心の閑静な住宅街に住み、暮らしぶりは豊かといえた。私を軟禁こそしていたが決して毒親などではない。


 ただ大学卒業仕立ての私と三十路で売れない芸術家的存在の師匠が結婚することに反対していたのだ。


 だけどそれも変わる。


 師匠が本当に人間国宝ともなれば、周囲はきっと手のひらを返す。それは私の両親も同じだろう。


「パパ、ママ……ごめん。私、行ってくる」

「優希!」

「優希ちゃん!」


 葛西さんに伴われ、轟さんはお目付役を睨みつけていた。その剣幕に気圧され、両親もお目付役も金縛りにあったように動けないでいる。



 師匠からいただいたご縁で私は捕らわれの身から晴れて自由になった。いつも黒塗りの高級車で送迎されていたけど、銀色の軽バンの薄くて固いシートか新鮮だ。


 私の男を見る目が狂っていなかったことを今から証明しにゆくんだ。


 でもその前にひとつやっておかないといけないことがある。


「協力するには、もうひとつ条件があります!」

「条件というのは?」


 助手席に乗る轟さんはシートとシートの間から顔をぬーっと出して訊ねてきた。


「師匠の名声を貶め、名誉を毀損する会社経営者を逮捕してほしいんです」

「ほう、それは聞き捨てならないな。詳しく教えてもらおうか」

「はい、いくらでも証拠はあります!」


 私はあきらと彼が経営するソードアーティスティックワールドが数々の脱税と詐欺を行っていることを訴えた。


 師匠はぜったいにあいつになんて渡したりしないんだから!


 師匠は私の鞘でないと上手く収まらないと思う。他の誰よりも彼のそばにいた私こそ師匠に相応しい存在だと信じている。


「私が国税局に連絡しておきましょう。轟さんは詐欺の方をお願いいたします」

「分かりました。関係部署へ根回ししておきます」


 これであきらも終わり。


 でもなんで師匠の人間国宝就任に警察が関係あるんだろう? 


 ああ! そっか銃刀法の関係なのかも。


 そんな思いが頭をよぎったが、それよりあきらが二度と私たちの邪魔できないようにすること、その方が大事だった。


―――――――――あとがき――――――――――

Boom! boom! boom! 指揮官氏、ムチムチえちえちヲタ娘エレグがきたですぞ。もう引いたですかな?

作者は爆死しましたorz

ふひひひ、性能云々は置いといても、目隠れ、ヘソ出し、太もも……引かずにおれぬかわいさですぞ。

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