第26話 軟禁からの脱出
――――【優希目線】
腹立たしいことに私はあいつの仕組んだ罠にまんまとはめられたのだ。しかもトラウマになるような変態行為を植え付けて……。
「ねえ、ここらか出して」
「それはなりません」
「ケチ!」
はあ……しかも最悪なことに私は監視つきの部屋に軟禁されてしまっている。ドアの向こう側にいるお目付役に訊ねるも返事はつれない。
出かけられるのは仕事のときのみ。
もちろんその仕事の行き帰りも送迎という名の下、私が逃げないように見張られていた。
あいつは私を師匠から引き離すために、小芝居を打ったのだ。どうしてもっと早くあいつの本性に気づけなかったんだろう? 気づいていれば、あんな下手な演技に騙されるわけなかったのに……、ホント馬鹿だ。
あいつが師匠から好かれないなんて知ったことじゃない! 自業自得って奴なのに私が原因というわけの分からない理由で相思相愛だった私たちを引き離すとか信じらんない。
なんであいつがいつも師匠のところにほぼ毎日通ってくる理由が分からなかった。いつも馬鹿にするようなことばかりしてくることが許せなかったのだけど、今なら分かる。
師匠はあいつの幼馴染だから、どんなにあいつが馬鹿にしようとも嫌いにならないんだよ、って私に見せつけたかったのだ。
そんなのただの歪んだ愛情……いいえ、ただの私に対する嫉妬でしかない!
あいつは知らないんだ。離れれば離れるほど愛が深まるということを……織姫と彦星のように。
師匠と出会うまでのことが走馬灯のように浮かんでくる。
最初は擬人化された刀剣のイケメンさに飛びついた。子どもっぽかったけど、中学生ならそんなもの。それから段々と本物の刀剣に興味が移っていった。
時代によって違う長さや形、反りや波紋。それぞれの刀剣で個性を持ち、
詳しい人に教えてもらいながら、いつしか博物館や歴史資料館で刀剣を愛でるが趣味になっていた。
こんなことを言っても誰も信じないと思うけど……。高校の受験を控えた十二月の終わりに遭遇した事件。後輩たちが部活の引退と受験の壮行会を兼ねてパーティを催してくれた帰りのことだった。
カラオケボックスで後輩たちが巷で噂の電話番号にかけると面白いとのことだったが、私は子どもじみた彼女たちに少し辟易していた。
彼女たちは二次会に行くと言っていたが、私は付き合いきれなく駅前の裏通りをひとりで歩いていた。
でも次の瞬間、ひとりで返ったことを激しく後悔する。
『私……メリーさん、いまあなたの後ろにいるの』
キャァァァァァーーーーーーッ!!!
後ろから声をかけられ、不審な物言いに振り返ると二メートルを越える巨体に岩のようなごつごつとした筋肉、顔はひとつ目の化け物がいた。妖怪、怪異と呼ばれるような奴だ。
声を出したはずが恐怖のあまり声がまったく出ず、心の中で叫んでいるだけ。逃げようとするのだけど足が竦んで動かない。無理やり動こうとしたら、尻餅をついて転んでしまった。
『こ、来ないで……こ、来ないでったら……』
人の言葉をしゃべる怪物は私の胸ぐらを大きな手で掴もうとした。
殺される!
そう思った瞬間だった。
『次元無双流【
朝ご飯? と女の人の叫び声を聞き、首を傾げそうになった。おかしなことに怪物の手が私の目の前に落ちている。
『おいおい、中坊をナンパするにしちゃ、乱暴だなぁ!』
地面に転がった腕から恐る恐る視線を上げてゆくと私の目の前には長い黒髪にセクシーなライダースーツに身を包んだお姉さんがいた。
『嬢ちゃん、すぐ終わらせてやっから、大人しくしてな』
『は、はい……』
顔だけこちらに向けたお姉さんは人懐こそうな笑顔を見せたかと思うと大人の男の人でも扱うのが難しい太刀を軽々と掲げ蜻蛉に構えた。
『チェストォォォォォォォーーーーーーッ!!!』
危ないっ!
お姉さんに腕を斬られたことに怒った怪物はお姉さんに突進してくるが、彼女は臆することなくそのまま走りながら怪物に猛然と向かっていった。
怪物の棍棒がお姉さんに当たると思い、怖くて目を閉じてしまったがまぶたを開いたときには怪物は胴体と下半身が分かれていた。
『はははっ! 大したことねえな! B級
お姉さんは怪物の胴体に足を乗せて勝ち誇っている。その片手には怪物を一刀両断した太刀が握られていた。
彼女の太刀の輝きを見た瞬間、親に引かれたレールをただ惰性で進んでいた私はずっと探してきたものが見つかったような思いがした。
『あの……私、ひと目惚れしちゃいました』
『あははは……参ったなぁ。あたしは女だから』
『いえ、そちらの太刀にです』
『あ、そう……』
『その太刀の名前はなんというのでしょう? 同田貫にも似た雄々しさ、虚飾を廃した中にある美しさ、そしてなにより禍々しい物を断ち切る強さ……私はいろいろな太刀を見てきましたが、これほどスゴい太刀に出会ったことがありません』
『おおっ! お嬢ちゃん、見る目があるねえ。この子はなぁ、あたしの一番弟子が打ってくれたんだよ。あんなのいっぱい切ってきたけど、刃こぼれひとつねえ、すげえ最上大業物で名前は
お姉さんは太刀を誉めるとライダースーツのファスナーを開け、ふくよかな谷間からロリポップを取り出し私に差し出していた。
どこに仕舞ってるのよ! と口に出かかったがお姉さんの勢いに負けロリポップを受け取ってしまう。
『村山村ってとこに住んでる。良かったら、見に行ってやってくれ。おっと、あたしから聞いたってことは内緒でな』
さっとお姉さんが手を上げた途端、辺りに霧が立ちこめる。霧が晴れたときには彼女と化け物の姿はなかった。
格好いいお姉さんの名前は聞きそびれてしまったが私は師匠との出会いを作ってくれた彼女のことをセクシーお姉さんと呼んでいる。
ネットにすらお姉さんの言う工房の情報はなく、出たとこ勝負でお姉さんに聞いたとおり、村山村にゆくとすぐに件の刀鍛冶は見つかった。
なぜなら鍛冶屋自体が一軒しかなかったから。
駐在さんから地図をもらい訪ねると、
『ごめんくださ~い』
『は~い』
『ごめんくださ~い、刀匠の伊勢刀哉さんはいらっしゃいますか? 名匠だってお聞きして』
『あ、俺ですが……名匠ではないと思います……伊勢刀哉です、わざわざこんな辺鄙なところまでお越しいただいて恐縮です。良かったら工房を覗いていきますか?』
『はいっ!』
アポなしで凸したのに応対に現れたお兄さんは腰が低くて、優しい。絵に描いたような神対応で、どこか偏屈な職人のイメージを抱いていた私の予想は覆された。
カン! カン! カン!
真剣な目で鎚を振るい、滴る汗を腕で拭う師匠にキュンと心を奪われる。彼は惜しげもなく私に刀剣作りを見せてくれ、休憩時間には私の質問に丁寧に答えてくれた。
受験そっちのけで師匠の下に通い詰め、私は両親の猛反対を押し切り、村山村の唯一の高校に山村留学を決めのだった。
『私は水野優希っていいます。ここで働かせてください』
青春のすべてを師匠に捧げたことに後悔はない。
本当は師匠との交際に反対する両親の下を離れて、師匠との既成事実を作るつもりが、予想外に奥手の師匠に困ってしまった。
師匠の作刀テクニックは私が見てきたどの刀匠よりも優れている。
けど恋愛に関しては小学生以下……。
いまどき幼稚園児でもキスするくらいなのに。
超奥手だった師匠に不満が漏れてしまいそうなときだった。私を見張っていたお目付役から声がかかる。
開かずのドアが開いて……。
「お嬢さまにお客です」
「お客?」
「文化庁の葛西という方があの男の件で話があるそうです」
お目付役如きに私の師匠をあの男なんて呼ばれる筋合いはないと思ったけど、それよりも師匠のことで私に会いたいというお客さまのことが気になった。
「分かりました、すぐにお通ししてください」
「畏まりました」
―――――――――あとがき――――――――――
そろそろ優希があきらに反撃します! あきらにはきっちりけじめをつけてもらいましょうwww
どんどん落ちぶれてゆくあきらを見たい読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。
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