第24話 異世界刀鍛冶

「ブヒー!」

「旦那さま?」


 豚の声真似をすると何事かとメルフィナが俺を心配してくる。


「いやね、俺たちの世界で三匹の子豚がそれぞれ家を作るんだ。藁と木とレンガでね。そこへ狼がやってきて子豚たちの家を壊そうとするんだけど、最後に残ったレンガの家だけ残って、煙突から侵入してきた狼を釜茹でにするって童話があるんだ」


 そう元いた世界では木造だったけど、ドワーフたちは耐火レンガで工房を建ててくれていた。こじんまりした工房でいいって言ってたのに、鍛冶ギルドの人たちは張り切ってしまっている。


 これならヲークやウェアウルフが100匹来ても大丈夫! って感じに……。



 工事を手伝っていると夢中になっいる内に空は茜色に染まりつつあった。


「それじゃ解散じゃ~! 皆の者ご苦労であった」


 鍛冶ギルド長のドグマさんが労いの言葉をかけると鍛冶ギルドや大工ギルドの人たちは帰り支度を済ませ酒場で一杯やるつもりらしい。


 モンスターに襲われたり、戦争があったりするようだけど、なにもないときの仕事っぷりは現代の日本とは大違い。


 陽が暮れたら仕事はしない人がほとんどだ。


 手伝ってくれたみんなに寸志としてひとりクローディス銀貨を十枚渡そうとすると……、


「あははは! 兄貴は冗談が過ぎますぜ! あっしらを酒樽にでも沈めるつもりですかい?」

「い、いやそんなつもりは決して……」


 結局みんなで十枚ということになってしまった。俺自身は工房さえできれば、大金はいらないのでみんなに金配りおじさんをしようと思ったんだが、まさか多すぎると返されてしまうとは思わなかった。ちなみに銀貨十枚で金貨一枚と同等の価値。


 あとで両方のギルドにタイガーマスク名義で寄付しておこう!


「んじゃ、トウヤの兄貴、親方、ジュリお嬢、お先に失礼しやす!」

「「「「しゃーす!!!」」」」


 職人たちが帰ったあと、ドグマさんは俺にいきなり頭を下げた。


「お願いがあるですじゃ。トウヤさまに孫娘のジュリを弟子として入門させてくれませんかのう?」


 その提案に心が揺れた。


 もちろんジュリと子作りなどという邪な考えは一ミリも考えてない……と言えば嘘になるが……。


 いやそうじゃなくて、ひとりで作刀するのはなかなかに手間なのだ。現代ならベルトハンマーで単純な作業ならダダダッて、こなしていた。だけどドグマさんの工房を見る限り、こちらではほぼ人力だったのだ。


 ジュリは身体こそ小さいが下手をすれば俺よりパワフル。そんな彼女が手伝ってくれれば助かるんじゃないかと思った。


「反対ですぅ!!!」


 逡巡したのち俺が首を縦に振ろうと思ったときだった。メルフィナから矢のように鋭い意見が飛んできたのだ。


「まあまあ、抑えて抑えて。俺も正直人手が欲しいんだ」

「だったら、私も手伝います! それなら許可してあげてもいいです」


 メルフィナはジュリに向かって言ったが敵もさる者、一筋縄ではいかない。


「決めるのはトウヤ。メルフィナさまは関係ない」

「なっ!?」

「分かった。二人とも仲良くできるなら、認める」

「私、トウヤにいっぱい尽くす」

「あうう……」


 二人に握手を促したが、しばらく蛇とマングースの戦いのように硬直状態だった……。


 大丈夫か? 俺の新たなる工房の先行きは……。


 一応震える手で握手を交わした二人だったが、ドグマさんがジュリに耳打ちしていた。


「ジュリよ、次からいきなり男の前で脱いではいかん。女がヤる気まんまんだと女馴れしておらん男は引いてしまいおる。もっと焦らしてやるんじゃ」

「うん、お爺ちゃん。私頑張る」


 やめて! そんなレクチャー、ここでしないで……。しかも俺、軽く貶されてるし。


 汗でびしょびしょになったときは狙い目とか余計なことばかり孫娘に教えるエロじじいとジュリには一旦お引き取り願った。



 翌日。


「トウヤ・イセを銀狐騎士団付きの鍛冶師ブラックスミスに叙任します!」

「謹んでお受けいたします」


 なんだか大勢に見守られながら壇上に上がるなんて学生以来だから、目の前の人がメルフィナでも緊張してしまう。


 メルフィナから手渡された書面には意味不明な文字が並んでいたが、彼女が読み上げてくれることで事なきをえた。


 俺は騎士団々長のメルフィナから正式に鍛冶師と認めてもらった。みんなが拍手する中、メルフィナの横で座っていたアンドリューは気だるそうに拍手しており納得いってなさそう。


 ただ拗ねて休んでいた彼が再び騎士団に戻ってきたのには理由がある。メルフィナは団長職を辞任しようとしていたが、エイシアの機転により王宮へ知らせる前にメルフィナの家族へ伝えることで慰留させていた。


「いっぱい怒られちゃいました」


 ぽかっと頭を叩いて、てへぺろするメルフィナ。愛らしい仕草だけど、団員からすれば辞任の言葉を聞いたときは気が気でなかったろう。


 アンドリューの隣に座っていたエイシアと目が合うとメガネのブリッジをクイっと上げていた。彼女は戦闘以外ではどこか抜けているメルフィナをきっちりとサポートしている。


 優秀すぎる秘書官だ!



 その夜のことだ。


 団長室は有事に備えて、宿泊できるようになっているようで当然お風呂もあった。


「メルフィナ、ありがとう。ちょうどいい湯加減だよ」

「そうですか、それは良かったです」


 現代ではメルフィナにお風呂沸かしてあげたが、異世界では逆に彼女から沸かしてもらっている。浴室の広さは俺の家と大差ないが、使われている建材が大理石みたいな石でできており、なかなかにゴージャス。


 温かいお湯にのんびり浸かっていると一日の疲れが身体から溶け出すように抜けていくような気かする。


 現代では刀を打つことより野鍛冶と呼ばれる生活用具を作ったり、雑事に追われることも多く、作刀する時間は限られていた。だけど異世界では作刀に専念できそうで、俺の考えた最強の太刀も作れそうな気がしてきている!


「旦那さま、お背中流させていただきますね」

「メルフィナ!? なんて格好を……」

 

 大きなバスタオルだけを身体に巻いたメルフィナの姿があった。


―――――――――あとがき――――――――――

次回ついにあの気になる人の再登場の予定です! あきらにヤられてしまったのか、しまってないのか? あきらに徐々にざまぁの足音が近づいて参りましたwww

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