第21話 ガキ巨乳ドワーフ女の誘惑

「はぁ……はぁ……」


 ジュリは呼吸を荒くして、全裸のまま俺に迫ってくる。おっぱいの大きさだけなら、メルフィナにも匹敵するくらいのデカさだ。アンバランスな巨乳は漫画などのフィクションでもなければ、なかなかお目にかかれない。


 年齢ははっきりしないが小学校高学年か、中学入学間もないくらいの身長の女の子に迫られるなんて……。俺は決してロリコンではないのだが、ジュリの身長のせいでその疑惑が持たれてしまいそう。


「ちょっと待って! そんな今日初めて会って、いきなりそういうことをするとかあり得ないから! ほら、なあ、ご両親が怒ったり、心配したりするだろ?」


「相手がトウヤならお父さんもお母さんも大歓迎する。ドワーフ以外の種族と結婚するなら鍛冶屋しか認めないから」


 なにそれ? 鍛冶屋優遇されすぎでしょ!


 ダウナー系低身長美少女はそれらしいことを述べながら、ずんずん俺に迫ってくる。背は低いのになんという乳圧だ。一四〇センチもないのにおっぱいは九〇センチくらいありそうだ!


「それに私がトウヤの子を身ごもれば、私たちギルドの繁栄は約束されたようなもの。ぜったいにいい刀剣ができる」

「あれは俺が打った物じゃない、俺の親父が打った物なんだ!」


「うそ……」


 俺の膝裏がベッドの縁についたとき、咄嗟に出任せを言うとジュリはピタリと足を止める。ジュリが俺の出任せに反応して、呆けている間に、俺は彼女の脇をすり抜けるように逃げ出した。


 ギルドから逃げ出したあと、回収した俺の太刀を撫でて安堵する。メルフィナと婚約しているのに他の女の子と浮気するわけにはいかなかった。


 刀鍛冶としてはドワーフたちと仲良くするのが一番なんだけど、ジュリに恥をかかせてしまったようなものだ。これで異世界に工房を作る夢は潰えてしまった。



――――村の岩戸。


 モンスターとの戦いに馴れない俺をメルフィナが送ってくれていた。


「また一週間後に会おうな」

「旦那さまぁぁ……メルフィナは一週間も旦那さまと離れ離れになって過ごすなんて耐えられるかどうか分かりませんんんん……」


「大丈夫。ちゃんと戻ってくるから。それまで大人しく待っていて欲しい」

「はい……」

「お別れの耳撫でをして欲しいですぅ……」


 メルフィナと一週間後、風穴で再会することを誓い分かれた。騎士たちが言っていたことから、メルフィナの世界の一日が俺の世界の一時間……。戻ってきて、スマホの時刻を見ると七時間ほど経過しており、すっかり深夜になっていた。



 片付けた蔵で仮眠を取ったあと、俺はトレジャーボックスという貴金属買取店を訪れていた。


「見たことのない金貨ですね。鋳型の質も良くない。うちでは偽物は買い取れませんよ。どうせ偽物でしょうけど、まあ一応判定機にはかけてみようと思いますが」

「そ、そうですか……」


 ルーペでクローディス金貨をまじまじ観察しながら細身で神経質そうな店員さんは伝えてくる。だるそうに立ち上がると金貨を手にして、金の真贋と純度を測るテスターにかけていた。


「そんな馬鹿なっ!?」


 明らかに俺を疑いの目で見ていた店員さんの表情が変わっていくのが手に取るように分かる。


「金の純度は桁違いです! これほど高い純度の金貨にはお目にかかれないです。美術品としての価値は低いですが、延べ板としてみれば……」


 ポチポチと電卓を叩く店員さん。


「現在の金相場は一グラム当たり、一万と五〇五円となり、金貨一枚で一〇グラム……お客さまが持ち込まれた枚数が一〇〇〇枚ですので、一億と五百五万円ですね。当店としましても直ぐに現金をご用意できないので、とりあえず身分証明書のコピーを取らせていただいて……」


 あああーーーーっ!?


 予想外の買い取り価格に腰を抜かしそうになる。


 さっきまでの態度とは一転、店員さんは身を乗り出して買う気を見せていた。


「しかしこれほどの量、お客さまはどうやって手に入れられたのでしょう? 最近は密輸などが横行しておりますし……」


 や、ヤバい……。


 身分証明を求められ俺は躊躇する。


「す、済みません……せっかくなんですが、他のお店でも見てもらおうと思うので返していただけますか?」

「いやいやうちがこの周辺どころか都内でも一番高値で買い取ってますから!」


「いえ、帰らせてもらいます」


 店員さんは俺の袖を引いて、買い取りの約束を取り付けたかったみたいだが、下手に脱税容疑なんてかかったら堪らない。


 とりあえず本物の金かどうか確かめたかったという目的は果たせた。


 あとはどう現金化するかだけ……。


 だけど、それが一番難しい。


 あいつに頼ればいとも簡単にやるんだろうけど、できれば頼りたくなかった。



 帰宅すると見慣れない軽バンがうちの駐車場に停まっている。


「よお、刀哉! どこ行ってたんだよ」

「あ、いや野暮用があって……」


 いかにも社用か、公用かって感じのシルバーの軽バンの前には中須賀がいた。


「おまえに朗報だ。こちらは文化庁の葛西さん」


 少しくたびれたスーツを来た腰の低そうなおじさんは自己紹介した後、名刺を渡してくれた。名刺には文化財第一課々長と書かれてある。


「お忙しい中、大変恐縮です。この度、文化庁では伊勢刀哉先生を無形文化財保持者候補として検討に入りました」


「は? 俺が人間国宝?」


 爺ちゃんや親父が人間国宝の候補に挙がったなんて話、聞いたことがない。そもそも俺の作刀レベルなんて二人に比べればまだまだ発展途上にあるんだから。


 俺の混乱をよそに葛西さんはうんうんと頷きながら話を続ける。


「そこで折り入って、伊勢先生の作刀された逸品をお譲りいただければ、と思い参った次第なのです。ご存知かと思いますが伊勢家は上古より古刀作りを脈々と受け継いでこられました。他の工房では最早再現不可能なレベルにある。是非ともご検討いただきたいのです」


「そうですか……」


 太刀と人間国宝はトレードって関係か。葛西さんは今、うちにある刀をすべて寄越して欲しいそうだった。


「もちろんただとは申しません。一振りにつき五〇〇万円はどうでしょう? 決して悪い価格ではないかと……」


 葛西さんから値段を聞いた途端、瓦礫と貸した工房を見て、身体が勝手に太刀が保管してある蔵の金庫へ向かいそうになったが、踏み止まる。


 確かに俺の打った太刀の値段とすれば破格すぎるし、値段だけならあの有名な長曽祢虎徹にも匹敵する。ただし異世界へ行く前だったなら、という条件つきで。


「大変ありがたい申し出ですが、今の俺に人間国宝をいただけるような技量はありません。申し訳ありませんがこのお話はなかったことに……」


 喉から手が出そうになるが、残りを文化庁へ譲り渡してしまうと王宮へ持ってゆくものがなくなる。そもそも異世界なら十億もの価値になる物を五百万で売ってしまうのはもったいない。


「そうですか、それは残念です。今日のところは引き上げますが、まだ私たちは諦めたわけではありません。またお考えが変わられましたら、いつでもご連絡お待ちしております」


 葛西さんともう一人の男が頭を下げた。葛西さんの隣にいた目つきの鋭い男は俺に会釈こそしたものの名乗ってはいない。オールバッグの髪型にパリッと仕立てられたスーツ。


 オーダーのスーツからなかなかの筋肉質な体型で文化庁というより体育庁の方が似合ってる。


 それに中須賀の様子が怪しい。暑くもないのにだらだらと大量の汗をかいている。そもそも文化庁の役人に警察官が帯同していることがおかしいのだ。


 葛西さんが軽バンの運転席に着き、エンジンをかける。目つきの鋭い男が助手席に乗り込もうとしたときだった。


 男はピラーアシストグリップに手をかけながら、俺に訪ねてくる。


「ひとつ訊ねたいのですが、伊勢さんはお父上から斬魔刀という言葉はお聞きしたことはありませんか?」

「いえ残念ながらありません」

「そうですか、それなら結構です」


 軽バンを見送ったあと中須賀に問い詰めてやろうと思ったのだが、中須賀の姿が見当たらない。


 あいつ……都合が悪くなるとすぐに逃げるんだから!


 時刻を見るとメルフィナと落ち合う時間が近づいていた。


 仕方ない……刀剣を持ち出そうと蔵の鍵をポケットから取り出した。


 ポトッ。


 そのとき無造作に入れていたクローディス金貨がこぼれ落ちてしまう。


「なんだよ、それ……」

「あきら? おま、なんでここに?」


 あきらは金貨を見て、わなわなと震えている。面倒くさい奴に見つかってしまった。


―――――――――あとがき――――――――――

日本に金を持ち込んで脱税で捕まっちゃう事件が俄かに賑わしておりました。刀哉は大金持ちにはなったものの、出所不明の金貨をどうマネーロンダリング……げふんげふん。どう使っていくのでしょうか? 気になる読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。

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