第20話 大金を手にした俺
「それでは僭越ながら団長付き秘書官のエイシアがこの競売を取り仕切らせていただきます。まずは
メガネをかけ、ブラウスに蝶ネクタイをしたいかにも聡明そうな女性の司会で競売が始まる。メルフィナの秘書官は冒険者ギルドの受付のお姉さんといった雰囲気だ。
「五本なのです!!!」
開始早々、誰よりも早く手を挙げた者がいた。
「メルフィナッ!?」
「団長……申し訳ございません。すでに団長はトウヤさまの太刀をお持ちのはず。団員の戦力強化をお考えください」
「だって旦那さまの打った太刀ならすべて欲しいのですぅ……」
エイシアからの
「あ、いや……ぜんぶ俺が打った太刀じゃないからね。親父の分もあるから」
「そ、そうなんですね……」
がっくり肩を落としたメルフィナがなんだかかわいそうに思えてくる。そんなにも俺の刀を好きになってくれるなんて、うれしいしかない。
「今は工房が潰れてしまったから、打てないけどまた再建できたらメルフィナのために打つよ」
「本当ですか!? それなら、今回はみんなに譲りたいと思います」
「流石、団長だ! じゃあいくぜ、十本だ」
「十五本!!!」
「三〇本」
・
・
・
「九〇本……ありませんか?」
観覧席を見回したエイシア。入札したが競り負けた者は歯噛みして悔しそうに雪白を見つめていた。
「では雪白は一万ゴールドで落札となりました」
雪白を落札した騎士は従者にお金を持ってこさせて、即金で支払って受け取っていた。金貨の入った袋は、それこそ土嚢を入れた袋みたいに膨らんでいていかにも重そうにやり取りしていた。
「なあメルフィナ、一万ゴールドあれば、どんな物が買えるんだ?」
「はい、小さいですがお城が買えちゃうと思います」
「は? 騎士ってそんなお金持ちなの?」
「ええ、
「い、いや裕福でも一振りでお城が買えちゃう金額をポンと出していいものなのか?」
「それだけ旦那さまの太刀が素晴らしい物なんです」
とりあえず持って来れた五振りの太刀は八万ゴールドほどになっていた。確かに長曽祢虎徹のような有名な新刀だと数百万になってもおかしくないんだが、家が買えてしまうような刀はなかなかない。
まあ俺の刀が現代で売れなかったのは新刀のような扱いやすい打刀じゃなく、太刀だったからだ。打刀は護身用、太刀は戦闘用。拳銃とアサルトライフルぐらいの違いがある。
「はは……まったく評価されなかった俺の家の刀がそんな高値で売れてしまうなんて……」
いやいや糠喜びかもしれない。あきらから散々馬鹿にされた俺の刀がそんな高値で売れるはずがない!
そう思うと金貨が並々と入った袋からピックアップして取り出すと駐屯所の井戸へと走っていた。
「旦那さま、どうされたんですか? 急に金貨を洗い出したりして……」
「俺たちの国では、こういう風にするんだ」
井戸に組んだ水でしっかり洗い布で拭き取ると金貨を口に入れ、甘噛みする。鉄なんかだと特有の金属の味がするが変な味はしなかった。それでも俺たちの世界の金と同じかどうか分からないが……。
メルフィナから貸してもらった銀貨や銅貨、大きさは金貨とほぼ同じ。それら三つを同時に水面に浮かべるとボトンと先に金貨の方が底に落ちた。
「マジかよ……」
「クローディス王国は金が産出するので、他国より裕福ではあるんです。ただ……」
「ただ?」
「そのために侵攻を受けることもあるんです……」
ああ……なるほど。
今までメルフィナの世界で体験したことが急にしっくり来た。騎士たちが強い武器を大枚叩いて購入したこと、アンドレアのように秘密警察みたいな騎士団があることを……。
――――鍛冶ギルド。
「なんでなんですか! 私の旦那さまは優れた鍛冶師なんですよ。それなのに登録できないなんて……」
「まあまあ、メルフィナ。彼らも事情があるんだ、仕方ないよ」
大金を手に入れたので、わざわざ元いた世界に戻らなくてもこっちで刀鍛冶ができないかな~って思ったのだけど、甘かった……。
「いくらメルフィナさまの命令でも、できないものはできないんで~す」
背が低くて赤髪を三つ編みにした受付嬢はメルフィナと仲が悪いのか、メルフィナを小馬鹿にするような態度を取っていた。それもそのはず、褐色肌の彼女はドワーフのようでエルフとは相容れないところがあるようだった。
ちなみにドワーフの女の子の名前はジュリ、背は低いがその身長に不釣り合いなくらい巨乳である!
きぃぃーーっといつもの冷静さを欠いたメルフィナは秘書官のエイシアに諫められ、外で待機。俺のこととなるとメルフィナは困ったちゃんになる……。それだけ溺愛されてるとも言えるのだが。
ガキ巨乳なドワーフと二人で交渉することになった。
「ジュリ、俺の懐は温かい。いくら積めばギルドの会員になれるのかな?」
「鍛冶ギルドはお金じゃないの。その人と打った道具を見て判断してるから。そういう意味ではトウヤは失格」
なかなか厳しいダメ出しを食らってしまった……。ただ、金を積まれても動かないという鍛冶ギルドの人たちのマインドが俺に近いことが分かってうれしい。
「だったらこれを見てほしい」
カウンターに細長い紺色の袋を置くとゴトっと音を立てる。ジュリが身を乗り出して注目する中、結んだ紐を解いて、彼女に太刀を見てもらう。
ジュリは俺の太刀を見て一言「スゴい……」と発したあと、無言で眺めていた。
「いいわ、ちょっと待ってて。お爺ちゃん……会頭たちに話してくるから。メルフィナさまがいると揉めると思うから、彼女に帰ってもらっておいて」
「分かったよ」
あれだけ俺のギルド加入に否定的だったのに、刀を見た途端に態度を変えたジュリに違和感を覚えた。
だけど……。
「メルフィナ、ごめん……先に帰っていてくれるかな。ジュリが会頭たちと揉めるって言っててさ……」
「分かりました! 私は旦那さまが認められると信じてます」
なんていい子なんだろうか。
俺は拳を固く握り、ギルド加入を決めてみせると決意する。
メルフィナたちがギルドを去ったあと、俺はジュリから指定された部屋で待機していた。しかし、なぜベッドかあるのか分からない。不思議に思っているとジュリがノックして中に入ってくる。
「お待たせ」
「いや大して待ってないよ」
「トウヤは甘いね。私がただであなたを帰すと思った? トウヤが悪いんだからね!」
しまった! 罠だったか!?
太刀は残念ながら一階に置いたまま。師匠と違い、俺は素手はからっきしなんだ。
異世界で誰にも知られずに人生が終わるかと覚悟したときだった。
不適な笑みを浮かべたガキ巨乳はあり得ない行動を起こしている。
「ジュリ!? なにを……」
「トウヤが悪いの。あんなスゴい武器を作った男をドワーフの女がただで帰すわけないじゃない。子種をもらわないと疼いちゃう」
するっとワンピースを脱いだジュリは全裸だった……。
―――――――――あとがき――――――――――
エルフのお口にパックンチョされかと思ったら、ドワーフの女の子の下のお口に狙われるとかw
異世界に来たら、モテモテ王国の刀哉です。
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