第18話 俺の刀に斬れない物はない

 団長室に入ってきたアンドリューはメルフィナを見て、その変化に驚愕していた。


「団長!? その格好は……」

「こ、こ、これは旦那さまがプレゼントしてくれたものだから……」


「あいつ! 絶対に魅了の呪いでもかかってる服を着せやがったんですよ! 俺たちの団長があんな奴に落とされるはずがねえんだ!!!」


 しのむらで売ってる既製品にそんな効果があるなら、上下セットで五○○○円以内に収まらないんじゃないかな? それに地雷系ファッションはメルフィナが欲しいと言ってくれたものだからなぁ……。


 出るに出れない状況でアンドリューの物言いに心の中で反論していると、彼はメルフィナに切り出した。


「オレが決闘であいつを倒したら……考えを改めてください。団長がいなきゃ、銀狐は回らねえっすよ」

「アンドリューと旦那さまが対決?」


「そうですよ! オレがあいつをぶっ倒して、化けの皮を剥がしてやります」

「待って! そんなことしたら絶対に負けちゃう。私はボロ雑巾みたいになった姿は見たくないよ」


 うんうん、恐ろしいモンスターたちと戦ってきた騎士団の副団長と素人の俺が戦ったら間違いなく負けるし、メルフィナの言う通りボロ雑巾にされて元いた世界に帰れるかどうかも怪しい。


 メルフィナが決闘を断ってくれるようで俺はほっと胸を撫で下ろした。


 平和が一番!!!


 机の下に隠れて頷いていると……、


「アンドリューがね」


 ふぁっ!?


「旦那さまは私より強いんだから、アンドリューがいくら頑張ったって勝てっこないよ。それこそ指先ひとつでチョンってやられちゃうよ」

「ぐぬぬぬぬぬぬーーーーーーーーーーーーっ!」


 メルフィナはあろうことか、アンドリューを煽って焚きつけてしまう。


「だってこんな強い武器を作ったスゴい人だからね。そりゃあ、アンドリューは頑張ってるよ。でも旦那さまはもっと頑張ってるの。それに旦那さまは馬車より速い乗り物をすいすい操れちゃんだもん。アンドリューは馬に乗るのは上手くても馬車は苦手でしょ?」


「うっうっうわぁぁぁーーーーーーーーッ!!!」


 アンドリューは頭をかきむしって、反り返ったあとしゃがみこんでしまう。


「それにね、旦那さまは強いだけじゃなくて、とっても優しいの。そ、それに……て、手先が起用であんなことも、こんなことも、ああっ思い出しちゃう……」


 耳しか撫でてないからっ!!!


 俺の心の中での弁明虚しく、メルフィナは手を両頬に当て、腰を振って「いや~ん」と恥ずかしがっていた。惚気話は、すでに死に体のアンドリューに酷というもの。


 死体蹴りされたアンドリューはしばらく起きてこなかった……。


 

――――訓練場。


 俺は剣を構えたアンドリューと対峙していた。


 どうしてこうなった?


 訓練場はちょうどテニスのウィンブルドンで使われるテニスコートのように四方には観覧席が備わっていた。聞くところによるとあとで戦技戦術を観察して改善させるためにあるという。


 片手で剣を突きつけながら、アンドリューは俺に言い放った。


「団長には悪いが、オレはあんたの言ってることは全部嘘だと思うな」

「俺は何も言ってないんだが……」


 アンドリューにはかなり誤解されているが、メルフィナにああまで応援されて断るに断りきれなかった。


 メイド服を着て俺を応援してくれているのだから……。


「うるさいっ! おまえが魅了チャームかなにかで団長を落としたに違いねえ!!! あの人はなぁ、俺たち騎士団員どころか、王侯貴族が落とそうとしても難攻不落の名城だったんだよ。それが……ううっ、ううっ……どこの馬の骨とも分からねえ野郎の牝奴隷になっちまうなんて……」


 なんも言えねえ……。


 だが騎士団々長のメルフィナがメイド服を着ているということは俺が彼女を良からぬ方法で籠絡したと取られてもおかしくない。そりゃアンドリューに限らず騎士団員なら自分たちの慕う団長さまがぽっと出の俺にBSSされたのだから怒るのも当然だ。


 だがもう四の五言ってられる場合じゃない!


 俺も自分の打った刀が売れないと人生詰んでしまう。そうなったらメルフィナを悲しませてしまうに違いない。


「オレがあんたに勝ったら団長から手を引け。弱い奴にオレたちの団長は相応しくないからな」

「分かった。だけど俺が勝つことがあったら、あの子の好きにさせてあげてほしい」


「あんたがオレに? どうせなにか怪しげな魔法でごまかしてるだけだろ? オレにはぜんぶ分かってるんだよ」


 う~ん、ここまで見当外れだと緊張するどころか、なんだか笑えてきてしまう。


「アンドリューと言ったかな? キミは俺の前では瞬きする間すらちゃんと構えていられないだろうな」

「なんだと!? 馬鹿にすんな! それくらいやってやる!」


 ぐっとアンドリューが力を込めて柄を握ったときだった。


 スパッ!


 こちらの剣を見せてもらったが、鋳造したあとに炭で焼いて浸炭させ強度を増しているようだった。


「なんだと……!?」


 俺の剣技だと長期戦になればアンドリューに押し込まれてしまう可能性が高い。


 なので剣とともに心を折らせてもらった。彼の持った剣は剣身ブレードの真ん中から先がなくなっている。


 剣をしっかり前で構えてくれたことで助かった。あれなら俺にとっては据え物斬りと大差なかったから。


「まだやる?」

「バカなぁぁーーーっ!?」


 驚愕するアンドリューだったが、それは観衆たちも同じだったようで……。


「さすが旦那さまです!!!」

「太刀ってすげえぞ!」

「いやトウヤがすげえんだ!」

「おれは絶対にトウヤの太刀を買うぞ!」

「待て、私が先だっ」


 このあとアンドリューは予備の剣を次々出してきて、試したが何度やっても結果は同じ。


「くそっ、ぜんぶなまくらじゃねえか……どうなってんだよ! 王国の鍛冶屋どもは弛んでやがるっ」

「そうじゃないだろ。違いの分からないキミが悪いだけだ」

「なっ!?」


 アンドリューは激高していたが、叩く剣と斬る刀じゃ違いがあっても仕方ない。俺の刀はよく斬れるが、やっぱり作刀に時間がかかる。だけどこれらの剣は鋳造して、刃の部分を焼き入れしてあるだけだから、時間はかかってなさそうだ。


 俺が切った剣の残骸が散乱していて、少し胸が痛い。せめて、これらを集めて刀に転生させてあげるのが俺にできることなんじゃないかと思った。


「オレは団長を諦めたわけじゃねえ! おまえが団長を泣かせるようなことがあったら、即寝取ってやるからな!!!」


 捨て台詞のようにアンドリューが言い放ったあと、訓練場を立ち去ろうとしたときだった。



 パッシーーーーーンッ!!!



 乾いた音が訓練場に響いた。


 メルフィナの平手打ちがアンドリューの頬を捉えていた。


「アンドリュー、たとえあなたでも私の旦那さまを侮辱することは許しません! 彼にきちんと謝罪しなさい!」


―――――――――あとがき――――――――――

ようやく半分の5万字が書けました。締め切りの8日まで突っ走っていきたいと思います!

ついにアルカナディアのウマ娘、エレーナの発売ですね。コトブキヤさん……ロケットぺぇのZトン先生を採用されるとは恐ろしい子!!! ちなみに私は買ってないのです。人型の下半身とウマの頭部パーツがあれば……orz

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