第15話 エルフの凱旋帰還
「どこを探しても団長の姿が見えず、本当に心配したんですよ……あうあうあぅぅぅぅ! でも見つかってよがっだぁぁぁぁ!!!」
目の下に真一文字の傷がある厳つい顔の騎士がメルフィナの無事を泣いてよろこんでいた。
「ほらほら、アンドリュー泣かないの」
「だって三週間以上も行方不明だったんで心配で心配で……」
「それはおかしいわ。私は一日くらいしか経ってないと思うんだけど……」
もしかしたら俺たちの世界とメルフィナの世界では時間経過に誤差があるのかもしれない。アンドリューと名乗った騎士の言葉を信じるなら、俺の世界の一時間がメルフィナの世界の一日なのかも。
一日一時間って、ゲームで遊んでいい制限時間みたいだな……。
「ところでそちらの男は一体……」
一斉に厳つい騎士たちの鋭い視線が俺に集まる。その鋭さは白い紙にマジックで黒い丸を書いて、真夏の太陽を虫眼鏡で集束しているよう。
だけど何を言っているのか、分からなかった。俺が困り顔でいるとメルフィナが祈るポーズを取った途端に自然と彼らの話している言葉が理解できるようになった。
「メルフィナ!? 分かるんだけど……」
「はい、精霊にお願いして旦那さまにも言葉が分かるようにしました」
すげえな……。
通訳がいらないじゃないかと感心するも、言葉が分かったところで俺がメルフィナの世界じゃ異物であることは変わらない。彼らの視線に焦げそうになっているとメルフィナが口を開いた。
「みんなに大事な話があるの。まずは兵舎に戻りましょう」
メルフィナが深刻な顔をして、いつ襲いかかってきてもおかしくなさそうな騎士たちをたしなめた。
そりゃそうか……あのメルフィナの美貌と慈愛と強さ、それに加えて親しみやすさなら、騎士たちから慕われてて当たり前だろう。いや慕われているどころか、メルフィナと再会したときの彼らの目は聖女を見るかのような信仰に近かった。
「ダンジョンの奥に魔物用の結界を張ってあります。ですが危険ですのでみだりに出入りするのは騎士団長命令で禁じます」
「「「はっ!」」」
メルフィナは居並ぶ部下たちに命じていた。彼女が指示を出すときは彼らは直立不動で、規律がしっかりと保たれているようだ。
メルフィナ曰わく電気柵的な結界らしくモンスターが通ろうとすると強い電撃が走り、侵入を防止するとのこと。内緒だが人間は通れるようにしてあるらしい。
用意された馬車に乗ったんだが、海外旅行すら行ったことのない俺には新鮮な体験だ。メルフィナが乗り込むときは、周りの騎士たちはニコニコして紳士だった。
だが俺がメルフィナと同じ
それだけメルフィナの人望が厚いとも言えるのだけれど。
彼らを刺激しないよう、なるべく現代にいたときのように身体接触は避けねばと思って、メルフィナと距離を置こうとしたのだが……。
ちょうど馬車の座席の真ん中から少し右に寄った位置に腰かけた俺、左隣にはメルフィナが座っていた。対面にはアンドリューが座っている。
ぴとっ。
俺とメルフィナとの間には拳一個分の隙間が空いていたはずがいつの間にか詰められ、互いの太股と肩が触れ合う。
そうなるとアンドリューの表情は強張る。奥歯を強く噛んでることがよく分かり、目は「メルフィナさまから離れろ!」と訴えかけてくるようだった。
ガタン! と馬車が揺れる。
なにか石でも踏んだのかも、とか思っているとメルフィナは……。
「きゃっ」
と年頃の女の子のようなかわいらしい悲鳴を上げて、俺に抱きついた。
「ごめんなさい、旦那さま」
「いやいいんだ。それよりも大丈夫?」
少し大げさのように思えたのだが、かわいらしいから許す。
「ああっ、め、めまいが……旦那さまさえよろしければ、メルフィナをこのまま抱き締めたままでいてくださいませんか?」
あうう……。
騎士たちの視線が痛い。
アンドリューは御者に伝えると俺たちの乗る馬車の前後にいた騎士たちの乗る荷馬車が左右に並んで、俺とメルフィナをガン見してくる……。みんな、俺がメルフィナに手を出そうものなら、即座に斬る! と言った目をしていた。
メルフィナから治癒のことは秘匿してほしいと頼まれているので俺からバラすことはないが、もし騎士の誰かにでも見つかったら、俺は彼らから吊し上げられて串刺しの刑に処されそう。
揺れる馬車の中で俺はメルフィナの体温に温められながら、ガクガクと震えていた。
馬車に揺られること、半日ほどで王都アルトハイムへとたどり着いた。王都の外周には城壁が張り巡っており、中世ヨーロッパの古都を思わせる。
「
城門の前で先頭の騎乗した騎士たちが停止していた。アンドリューはメルフィナに一礼すると馬車を降りた。
俺とメルフィナは馬車の一段高いところから様子を窺っていたのだが、アンドリューは衛兵たちと親しげに会話しており、袋から例の物を取り出して見せる。
すると衛兵たちの目の色が変わった。
衛兵たちが俺たちの乗る馬車の方を向くとワーッと大きな歓声が上がる。
「メルフィナさま、バンザーイ!!!」
「さすが銀狐の剣姫だ!!!」
衛兵のひとりが手を掲げると城壁の天辺に詰めていた者たちは腕を振って下を覗き込んで歓声を上げている。城門の中からも衛兵たちがぞろぞろ出てきて、騎士団の周りに集まりメルフィナを賞賛していた。
「こ、これだから嫌だったんですぅ……」
当の本人はというと白い肌がどんどん真っ赤になって、まるで完熟リンゴのよう。メルフィナは彼らから賞賛されるのが恥ずかしいのか、近くに置いてあったしのむらのレジ袋をほっかむり顔を隠してしまった。
「メルフィナ、どうしたって言うんだ?」
「もごもご……あうう……騎士団の人たち以外から誉められるのに慣れていないんですぅ……」
メルフィナはなんとも謙虚な恥ずかしがり屋さんだった。
―――――――――あとがき――――――――――
中華フィギュアメーカーに『
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