第14話 ゴブリンとエルフ
俺に見えた最悪の結果。かつて読んだダークファンタジーではゴブリンたちに新米パーティの女武闘家と女魔法使いが蹂躙され、忌み物になってしまう。
そうなってしまった原因はパーティのリーダーがゴブリンを侮り、狭いダンジョンにそぐわない長剣を選んだことにあった。
メルフィナの持つ太刀は優に一メートルを越える刃渡りで、リーダーの持っていた長剣よりも遥かに長く大きい……。
俺に夢のよう初体験を与えてくれたメルフィナがゴブリンたちの孕み腹になんかされたくない!
覚悟を決めた俺は用意していた脇差しを抜いてゴブリンたちの群れの中に突撃する構えを取った。
「おまえらにメルフィナをヤらせるかぁぁーっ!」
ダメだっ! 弾かれるっ!
メルフィナの太刀がダンジョンの側壁にヒットして弾き返され、ゴブリンの持つ棍棒で殴られると思った。
「メルフィナっ! 太刀を捨てて短い剣で……」
ズシャーーーーーーーーッ!
えっ!?
もうゴブリンの最悪の事態を考えたときだった。メルフィナの扱う太刀は俺の予想を裏切り、先頭列のゴブリンたちをすべて両断していた。
ウギャッ!?
獣のような断末魔を上げて、斬られたゴブリンたちは息を引き取った。メルフィナの斬撃を目の当たりにした生き残りのゴブリンたちは彼女の強さに慄いて、後ずさりしている。
俺の心配をよそにメルフィナは振り返り、不思議そうに訊ねてくる。
「旦那さま……どうされました?」
「い、いや、なんでもないよ」
ははは……岩が紙のようだぁぁ……。
俺の心配など不要だったみたいでメルフィナの斬撃はダンジョンの岩壁を物ともしないで、というかまるで岩壁が存在しないかのようにモンスターごと切り裂いてしまっていた。
シギャァァァーーー!!!
それだけじゃない。
メルフィナは俺が声をかけるまでもなく後ろを向いていた彼女に襲いかかってきたゴブリンを一刀の下に斬り伏せた。
胴体と下半身が真っ二つにされたゴブリンの亡骸が転がっていたが、緊張感からか気持ち悪さよりもメルフィナのことの方が気になっていた。
「コブリンは美味しくないので一気に片づけます!!! 【エレメンタルエア】」
メルフィナが魔法を唱えたかと思うと、俺と彼女の身体はふわふわとした膜に包まれている。それだけに止まらず、メルフィナは俺の手を引き地底湖へ走っていった。
ジャポンッ♪
二人で地底湖に入り、上半身が水中に沈み込もうかとしたときにメルフィナは追加で魔法を放つ。
「【イクスプロージョン】!!!」
沈み込むときに響いたボンッ! という炸裂音。だが水中にいるのにも拘らず、空気の層が俺とメルフィナの身体を包み込んで、衣服は濡れておらず息も地上にいたときのようにできた。
メルフィナは指で地上を差して、湖から上がるように伝えてきた。上がった光景を見るとなかなかのホラー映画だった。
ゴブリンたちは白目を剥いて喉をかきむしり、すべて絶命している。
「これは……」
「ゴブリンたちが呼吸できないようにしました」
「それで爆発の威力を控えたのか。メルフィナは戦闘の才能にあふれていて、スゴいね!」
「は、はい……あ、ありがとうございます……」
もじもじと人差し指の先同士をすり合わせて、上目づかいで俺を見てくる。メルフィナほ誉められるに馴れてないのかもしれない。
もっといっぱい誉めて、メルフィナのかわいい顔が見たいと思った!
ゴブリンの群れを片づけたメルフィナは地底湖を見つめて鞄からごそごそと何かを取り出す。
しのむらで売っていたビキニだ。
水浴び大好きな彼女のビキニ姿は見たかった。だがここはダンジョン。いつ危険が危なくなるか分からないので、彼女の肩にポムっと手を置いた。
「メルフィナ……えっと今は先を急ごうな」
「は、はい……」
寂しそうなメルフィナの顔に俺も心が痛む。だが水浴びが大好きな彼女には申し訳ないが、またモンスターが襲って来ないとも限らない。
「またよかったら二人で泳ぎに行こう」
「はい! ぜひ旦那さまとご一緒したいです!」
メルフィナと約束を交わすと彼女はぱぁっとひまわりのような笑顔へと変わっていた。
一応弁明しておくと下心があってメルフィナに水着を買ってあげたわけじゃなく、その逆だ。放っておくと裸で泳いでしまうので、まだ水着の方がマシだと思ったから。
途中RPGでお馴染みのスライムやおおねずみ、大コウモリなど雑魚モンスターと出くわすが……。
「【エレメンタルウィンド】」
斬撃と魔法の両刀使いの彼女に敵うモンスターはおらず、あとは順調にダンジョンを進んでいった。
山歩きをして心地よい疲労が溜まったのと同じくらい歩いたかな、と思ったときだ。ダンジョンを進んだ先にメルフィナの明かりとは違う光が見えた。
「旦那さま! 出口です!!!」
俺は息を飲む。
転生や転移で異世界へゆくパターンは腐るほど、読んで履修済みだった。しかし、まさか自分が異世界へゆくとは思ってなかったから、緊張と興奮がない混ぜになった想いがどっと押し寄せる。
「行きましょう、旦那さま」
「ああ!」
ゴブ○レのジンクスを粉々にぶっ壊したメルフィナは俺の手を引き、笑顔で光差す方向へと駆けていった。
だがダンジョンから出た途端に盾とプレートメイルでガチガチに固めた重装騎士たちが俺たちを取り囲んだ。ランスを構え、いつでも俺たちを突き刺せる位置取りを見るに精強な騎士団なのかもしれない。
なんてことだ、せっかく日の光の当たるところに出たというのにダンジョンに逆戻りしないといけないのか?
不安になってメルフィナの顔を見ると、彼女は意外な表情をしていた。
めちゃくちゃ笑顔だったのだ。
重装騎士たちはメルフィナを前に一斉に跪いて、ヘルムのバイザーを上げ、敬礼をしている。
「だ……団長ォォォォォーーーーッ!!!」
「よくぞご無事で!!!」
「うん、みんなただいま!」
えっ!? 団長!?
異世界に来まっする~!!!
異世界に来て早々の情報過多に俺はバグっていたと思う……。
―――――――――あとがき――――――――――
団長ということで、やはり添い寝ASMRをしないといけませんかね? 巨乳エルフ騎士団長の添い寝をご希望の読者さまは是非フォロー、ご評価お願いいたします。
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