第13話 刀鍛冶、異世界へ

 ざっ、ざっ、ざっ……。


 メルフィナを伴い、裏山の小道をかき分け村の岩戸までたどり着いたのだが……。


「うそ……だろ……」


 村の岩戸は上下真っ二つに割れ、俺のくっつけたしめ縄もちぎれていた。上半分の岩はごろりと転がり、大型重機を持ち込んでも元に戻すのは至難に思える。


「まさかヲークやったっていうのか!?」

「いえ、私がこちらへ来たときには、次元結界は破られていました」

「まさか俺がしめ縄を切ったから、ヲークがこっちにやってきたとか……」


 俺が無残にちぎれたしめ縄を触っているとメルフィナが答えた。


「この太いロープみたいな物は関係ありません。ただのお飾りですね。ですがこのように強力な次元結界を打ち破るなんて、魔王や大賢者さまでも難しいというのに。一体何者の仕業でしょうか?」


 はは……はは……。


 俺がやったなんてことはないよね?


 破邪の太刀とか、次元無双流とか、ただの厨二設定に過ぎないんだから。


 俺に乾いた笑いが漏れる中、メルフィナは綺麗に切断された岩戸の断面に飛び乗る。


「旦那さま、お手を」

「ああ」


 手を引かれて、よじ登った先には巨大な風穴が開いており驚いた。


「おおっ!? 岩戸の向こうにこんな広い空間が広がってたなんて……メルフィナはここを通って、こっちに来たの?」

「はい、ヲークを追ってきたはずが、先に私が来てしまったみたいです」


 天の岩戸は神さまが隠れていたけど、村の岩戸は異世界とつながっていたのか……。


 メルフィナは跪いて、岩の断面をまじまじと見ている。彼女が指を差していたのでそばに寄ると大きな笹の葉っぱが二つ並んだ跡がついていた。


「もしかして、ヲークの足跡?」

「はい、そのようです」


 しばらく岩周辺を探っていたメルフィナだったが、腰を上げて宣言する。


「旦那さま、お待たせしました。どうやらこちら側に流れてきた魔物はヲークだけのようです」

「そっか、それなら安心した」



 先にメルフィナが風穴に足を踏み入れる。


「暗いので明かりを灯しますね」

「ありがとう」


 メルフィナが人差し指を立てると指先からぽわ~っとリンゴほどの大きさの光の玉が現れ、辺りを照らしていた。足下はごつごつとした岩場で彼女の灯した明かりかなければ、俺は確実に転んでいたに違いない。



 風穴内はファンタジーRPGで親の顔をほど見た感じダンジョンそのものになっている。足下に注意しながら、メルフィナの後ろについて行った。


 山歩きには慣れているものの、ダンジョンには慣れてない。そんな俺を気づかい、メルフィナは偶に振り返り、進むペースを俺に合わせてくれている。


 メルフィナが事情を話してくれたとき、ヲーク討伐の任を受けて、こちらの世界に迷い込んだと聞いていた。モンスターに詳しそうな彼女に訊ねてみる。


「それぞれの魔物の足跡とか覚えているの?」

「そうですね、騎士団の主なお仕事が魔物の討伐ですので見れば大体は分かります」

「あのハイヲークって強い方の魔物だったのかな?」


 ちなみにメルフィナは討伐した証にヲークの牙を持ってきている。


「ええ、かなり強くて王国では個体差にもよりますがB級にランク付けされています。あの個体により三つの集落が全滅、他の騎士団ですが死傷者一〇〇名を超えてしまっています」


 んんん? 彼女の言葉に更に疑問が湧く。


「そいつを一人で倒したということはメルフィナは相当強いんじゃ……」

「そ、そんな私など大したことないでよぉ。基本は複数で当たるのがセオリーなのですが、仲間と途中ではぐれてしまったので仕方なく……」


 両手のひらを向けて、全力でぷるぷる振るメルフィナ。俺の言葉に照れてしまったのか顔を赤くして、背けながら全力で否定している仕草がかわいい。


 ダンジョンを警戒しながら、進んでいると微かに音が響いた。



 ぐぅぅぅ~。



「モンスターかっ!?」

「わ、私のお腹の音です……」


 恥ずかしそうにメルフィナが手を上げる。


 どれくらい歩いたのだろうか、彼女の腹時計が鳴ったときにはちょうど広い空間スペースへたどり着いていた。空間には浜があり、その奥には澄んだブルーの地底湖が広がっていた。


「じゃあ食事にしようか」

「はい! 私、もうお腹ぺこぺこだったんです」


 メルフィナは、はにかみながら俺に返事する。


 しのむらに行ったついでに手づくりパンのお店に寄って買ってきたバタールをバッグから取り出した。ハード系の生地のパンを受け取るとメルフィナは目を輝かせている。


 バタールの真ん中に切れ目を入れ、ヲーク肉のベーコンにご近所さんの農具を修理したお礼にもらった新鮮レタスと玉子を挟んでおいた。


「「いただきます」」


 二人で並んでパンにかぶりつく。


「ああん! このあふれる肉汁が堪らないです。それに胡椒という調味料もお肉の美味しさを引き立たせてくれてとっても美味しい!」


 パンをひとくち口にしたメルフィナは現代と異世界の融合飯にふるふると打ち振るえながら、恍惚とした表情になっていた。そんな彼女を見て俺はいけない妄想に及んでしまう。


 メルフィナがイッたときはこんなエロい表情をしてしまうんだろうかと……。


 キューーーーッ♪


「おっと……お湯が沸いてしまった」


 そんな馬鹿なことを考えていると俺を諫めるように薬缶が鳴いた。カップにティーバッグを入れて、お湯を注ぐ。


「旦那さまの世界の物は不思議なものばかりです」

「そうかな、俺にとってはメルフィナの世界も不思議に満ち溢れてると思うけど」


 薬缶を乗せた五徳の下には何も燃料はなく、メルフィナの精霊魔法によって加熱されていたのだから。


「はあ~っ! この紅茶は身体に染み渡ります」

「そっか、それならよかった……」


 買い出しのときにスーパーで買った安物の紅茶なんだけど、メルフィナの国では輸入に頼っていて、作り方などは分からないらしい。まあ日本もインドやスリランカなどからの輸入がほとんどなんだけど……。



 ギギッ! キギギッ!!!



 俺とメルフィナが食後のまったりタイムを過ごしていたときだった。


 暗がりから妖しげな光が段々と増えてくる。


「ホタルかな?」

「旦那さま、私の後ろへ下がってください。どうやら招からざるお客のようです」



 メルフィナが明かりの玉をもう一つ生成し、投げつけると緑色の肌のモンスターがうじゃうじゃ集まっていた。


 ご、ゴブリン!?


 メルフィナは狭いダンジョン内にも拘らず、太刀を抜いて、大きく振りかぶっていた。


「タァァァーーーーッ!!!」

「メルフィナ! そんな太刀を狭いダンジョン内で振ろうとしちゃ、危な……」


 このままゴブリンに敗北したら、メルフィナが分からせられちゃうっ!!!


 ズシャーーーーーーーーッ!


 えっ!?


―――――――――あとがき――――――――――

作者、最近You Tubeの広告を見て驚きました。お願い社長というスマホゲーの広告でしてね、以前は謎のおばちゃんが無一文になった主人公にチート(?)を授けるみたいな感じだったんですが、なんかAI絵で描かれた三人娘が腹ボテで出てくるという特級呪物と化してたんですよ。果たして、あれは誰に向けての広告なんだろう?

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