第11話 美少女エルフとデート

「ん? なんだろう、これ……」


 氷?


 雨も降ってないのに路面がキラッと光ったので指で触れると冷たかった。メルフィナを見るとゆっくりと俺から視線を逸らす。


 俺が中須賀に連絡したのには理由があった。メルフィナから感じた凄まじいほどの殺気を感じたからだ。


「メルフィナ、さっきあきらを殺ろうとしてたよな?」

「……旦那さまを見下す者は看過できませんでした。なぜ旦那さまは止められたのですか!?」


「気持ちはうれしいんだけど、メルフィナにはあいつを斬って手を穢して欲しくなかった、と言ったら納得してもらえるかな?」

「は、はい……」


 たぶんメルフィナは精霊の力で路面を滑りやすくしていた可能性は高い。どうやらメルフィナは俺を仕えるべき雇い主みたいに思っている節がある。


 だけど不思議だ。


 メルフィナは騎士、だったら王侯貴族に仕えてるんじゃないんだろうか? 俺に仕えたら二重契約とかになったりしないんだろうか?


 色々訊ねようと思ったが、先にメルフィナから質問される。


「馬が牽いてもいないのに荷台が動いていました。しかも地を這うようにして……。いったい、あれは……?」

「あれはね、自動車って言うんだよ。くるまとも言うね」


「中に家畜が入っているんですか?」

「家畜はいないけど、エンジンが入ってるよ」

「エンジンってなんですか?」


 メルフィナにちょっと車庫に来てもらい、俺の愛車を披露した。と言ってもあきらみたいな跳ね馬ではないんだけど……。


 シャッターを開けると白いポルシェが停まっていた。ただしポルシェの前にという冠詞をつけないといけないが。


【もしかして刀哉ってば、軽トラでデートに行ったりする? あり得な~い】


 あきらに俺の愛車である軽トラを散々馬鹿にされていた。


「わあっ!?」


 初めて軽トラを見たであろうメルフィナは目を見開いて驚いているみたいだった。彼女からも馬鹿にされるんじゃないかと思った。


 だが……。


「旦那さまの車はとってもかわいいですね」


 なにかもふもふでも撫でるように、メルフィナはミラー周りを撫でている。


「かわいい……?」

「はい! 旦那さまを侮辱した人のものより、私はこちらの方が気に入りました! なんて言ったらいいんでしょうか、あの人の車は刺々しいんです」


 跳ね馬の名誉のために言っておきたいが、単にあきらの跳ね馬の扱いが荒っぽいためにメルフィナによくない印象を与えてしまった感がある。


 ただ……俺の愛車が若い女の子に受けてうれしい!


 ぱかんとリアのハッチを開けて、メルフィナに見せる。


「ほら、これがエンジンだよ」

「なにか金属の固まりにしか見えないのですが……」


 メルフィナは中腰で訝しげに軽トラのエンジンを見つめる。「ちょっと待ってて」と彼女に伝え、キーシリンダーを回すとエンジンはセル一発で唸りを上げた。


「わあっ!? この子、震えていますよ」


 運転席から後ろに戻るとメルフィナが指でエンジンのヘッドカバーに触れようとしていた。


「熱くなるから触っちゃダメだよ」

「は、はいっ」


 ぱっと指を退くメルフィナが小さな子どもっぽくて、実にかわいらしい。


「やっとエンジンのオイルが暖まってきたところだぜ」

「???」


 アキラ……じゃなかった金田のセリフよろしくヘッドカバーに手をかざすとメルフィナもその横で俺の真似をする。


「暖かいです」

「だね」


 二人で微かな熱を感じ取り、微笑み合った。


 なんだろう、メルフィナを奥さんにしたりしたら、毎日がこんな些細なことでも楽しく思えるんだろうか? そんな風に思えたが、俺と彼女は別世界の住人同士。


 それに俺みたいなおっさんがメルフィナみたいに若い子をお嫁さんにするとか土台無理な話だ。



 お出かけ前に彼シャツではマズいのでメルフィナには着替えてもらっていた。上着は俺が高校時代に着ていたスクールジャージ、下はやっと乾いたメルフィナが異世界から着てきていたスカート。長い耳元を隠すためにヘッドホンをつけてもらう。


 後藤さんの花嫁の美玖……いや、ろっくざぼっちのろっくちゃんっぽいファンションになった。


「ど……どうでしょう? 似合っていますか?」


 柔腰をくねくねさせ恥ずかしそうな表情で俺に訊ねてきた。騎士とはいえ、メルフィナも年頃の女の子らしく、ファンションには気になるらしい。ジャージしかなくて本当に申し訳なく思ってしまう。


「メルフィナはかわいいから、何着ても似合うよ」

「そ、そんな旦那さまはお世辞がうまいです……」


 だが、まさか俺のスクールジャージがこんなにも似合って、かわいくなるなんて……。



 メルフィナにシートベルトの付け方を教えたのち出発したのだが、俺の集中力は一点に注がれてしまう。


 メルフィナのおっぱいに食い込んだベルト……。


 俺は一度でいいからシートベルトになってみたくなった。パイスラッシュに反応し、股間にもシフトレバーができそうになっていた。こんなのメルフィナに見つかりでもしたら、腫れてることを理由に治癒されそう。


 前を向いて運転に集中していると、メルフィナは子どものようにはしゃいでいた。


「スゴいです!!! 馬車よりも早くて、揺れなく走る乗り物があるなんて……ちょっと感動しちゃいます。それに旦那さまとこんなにそばでいられるなんて、車ってとっても素晴らしいですね」


 運転する横でメルフィナは俺に肩を寄せ、くっついてきた。いつも狭いと思っていた軽トラの車内がこのときばかりはナイスだ、日本の軽自動車規格! と思ってしまう。


 おじさんキラーのエルフを乗せ、一時間ほど走ったところで隣町にあるファッショナブルセンターしのむらに到着した。



「旦那さま! 私、この服が気に入りました」


 しばらくメルフィナはたくさん並んだ女性物衣料の品数の豊富さに目を見張り、目移りしているようだったが、とある衣装に目をつけると俺の手を引いて指を差す。


「本当にこれでいいの? これって……」

「はい、旦那さまにご奉仕するならこの衣装がぴったりだと思ったんです」

 

「いや……でもメルフィナって騎士なんだろ?」


 恐らくなんだが、彼女は最低でも騎士の爵位は保有していると思われるのによりにもよって、メイド風のワンピースを欲しがるなんて思いも寄らなかった。


「旦那さまはメイド服をお嫌いなんですか?」


 少し哀しげな表情を浮かべ、上目遣いでメルフィナに見られ、俺はしどろもどろになる。


「あ、いや……好きだよ、特にメルフィナが着てくれるなら……」


 試着室があることを伝えるとメルフィナは早速お気に入りのメイド服を持って、カーテンを閉めた。


「旦那さまぁぁ……」


 メルフィナはカーテンの隙間から顔だけ出して俺に声をかけてくる。その顔はさっきまで、うきうきしていたのにまた随分と哀しげだ。


「どうしたの?」

「む、胸が窮屈で合いませ~ん……」


 ぶふぉっ!?


 あろうことかメルフィナは俺に……。


―――――――――あとがき――――――――――

別の人に嫁いでしまったと思われる美プラは帰ってきませんでしたァァーーーッ!!!。゚(゚´Д`゚)゚。

あ、返金という措置にはなったんですけどね。

でもご安心ください、作者の作品は読者の皆さまを悲しませるような結果にはなりません。期待しているという読者さまのフォロー、ご評価お待ちしております。

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