第8話 白き血潮

 積極的なメルフィナを前に俺の頭に新聞の紙面が浮かんでくる。


【三○代の男、外国人の未成年を家に連れ込み、わいせつ行為】


 しゃ、洒落にならん……。


 中須賀がテレビレポーターのインタビューに答えようものなら、「オレは前々からやると思ってたんすよ」とか言いかねない。


 とにかく、この危機を脱しないと。


 メルフィナが男慣れしているかどうかは別として、彼女の俺に対する献身というか積極的な態度だといつ接触事故が起こってもおかしくない。


 俺はメルフィナの気を逸らすために話題を振る。


「あのさ、俺ってあのヲークの牙で身体を貫かれたよね?」

「はい! しっかりと傷は貫通していました」


 これが姦通とならないことを願いたい。結婚を前に男女が性行為するなんて破廉恥極まりないのだから。


「だったら、なんで俺の傷が塞がってぴんぴんしてるのか教えてほしい」


 ちなみに俺の下半身はびんびんしてる……。


「はい、私が舐めて治しました!」

「は? 舐めて?」

「はい」


 メルフィナはれろ~っと舌を俺に見せてきていた。えっちだ……。


 いや、清い清いメルフィナの舌を見て、えっちなことを想像してしまうのは俺がえっちなだけか。一部の極端なフェミの人くらい妄想肥大になってしまっていたが、そんなことよりもメルフィナの治癒力。


「しかし、これ……唾つけときゃ治るってレベルじゃないぞ!」

「こちらでもそんな治療法があるんですね」


 くすっと手を口元に当てて笑ったメルフィナがかわいくて堪らない。


 彼女がヲークを倒したあと、俺は意識が混濁していた。お腹や背中を舐めて治癒される前に涙を流す彼女に頭を抱えられ、口づけされたような気したんだが、俺の願望というか、欲望が夢に出てきてしまったんだろう。


 そもそもメルフィナが俺になんてキスする理由がない。


「あるけどおまじないって感じで、メルフィナが俺に治癒してくれたみたいに、こんなに早く傷は塞がらないよ」

「やはりそうなのですね……」


 こちらの世界での常識を伝えると春の陽気のように朗らかだったメルフィナの表情は曇る。声を震わしながら、俺に秘密の話を打ち明けてきた。


「私がお義父さまの下へ来る前のことです。エルフの持つ治癒力を目当てにエルフ狩りが横行しました」

「もしかして、メルフィナが寝ているときにうなされていたのは……まさか……」


「私はうなされていたのですね……そうです、私の両親はエルフ狩りに遭い、まだ幼かった私は両親を救うこともできませんでした……」


 くっ!


 俺に熱い感情がこみ上げてきて……。


 気づくとメルフィナを抱き締めていた。


「旦那さま……私のために泣かれているのですか?」

「俺になにか手伝えることがあったら言って。刀しか打てない無能だけど、キミの力には少しだけどなれると思う」


「はい……旦那さまから、そう言っていただけるだけでメルフィナはしあわせです」

「これからはお互いに笑顔でいような」


 メルフィナは俺の言葉に頷き、お互いに涙を水で流した。くっついていた俺たちの身体が離れたところで見つめ合っていると、変な気が起きてくる。


 こ、これはキスしてもいいんじゃまいか? と。


 いやダメだ、ダメだ! 未成年淫行は罪!


 性欲まみれの悪魔と理性の固まりの天使が、俺の心の中で独ソ戦のように血で血を洗うような激しい戦闘を繰り広げているときだった。メルフィナは、はっとなにかを思い出したように言った。


「そうです! 大事なことを忘れていました! 旦那さまの下半身の腫れがまだ引いていません。いますぐ治癒しないとっ!」

「メルフィナッ!?」


 メルフィナはじゃぶんと湯船に顔をつけた。俺の目の前には彼女の白桃のような美尻がふりふりと震えている。


―――――――――自主規制―――――――――


 刀鍛冶から一時的に賢者になってしまった。


―――――――――自主規制―――――――――


 長い湯浴みから上がった俺とメルフィナ。


 あのあとメルフィナに治癒してもらった俺だが、彼女は「た、大変ですぅ、患部から白い血が出るなんて!?」と驚いてさらに治癒を施そうしていた。


 ただ性的知識に乏しかっただけでどうも純粋に俺を治癒したかったらしい……。


 賢者化したのも相まって、すげえ罪悪感だ。


 俺に悪の心があればメルフィナに腫れてしまったと申告して、治癒してもらうんだがこれ以上彼女の口を汚すわけにはいかない。



 少し気持ちは複雑だ。


 とりあえず倒壊した家屋から着れそうな服を引っ張りだした。


「ごめん、いまはこれしかないんだ」

「ありがとうございます」


 無事だった蔵には母さんの浴衣もあるはずだけど、すぐに見つかるかどうか怪しい。


 俺のYシャツを渡すと素肌のまま、メルフィナは着込む。メルフィナのおっぱいのサイズから考えて、合いそうなサイズの服がそれしかなかった。


「おかしいです、最後までボタンが止まりません……」


 俺のシャツを着たメルフィナはまさに事後に彼シャツを着た彼女みたいな雰囲気。


 ボタンを最後まで閉じるのはキツかったのか、谷間がくっきり見えていて、美しい輝きを放っておりあまりの眩しさに溶接面が欲しいくらいだった。


 俺よりやや小柄なメルフィナ、一応大事なところは隠れている。


 隠れて……、隠れて……。


 全っ然隠れて、ないぃぃぃっっっ!!!


 ただのYシャツとはいえ、汚れた服から着替えたのがうれしかったのか、メルフィナはくるくるとダンスを踊るように回っていた。回って戻ってくる度に見えてしまうメルフィナの股間……。


 電車で女性のスカートが捲れているとき、教えてあげるべきか教えないべきか、これは男子にとってトロッコ問題以上に悩ましい。


 いままさに俺はそのときにあった!


―――――――――あとがき――――――――――

スカートが鞄に引っかかり捲れて、おパンツが見えてしまってるJKとか声かけにくいよね(≧Д≦)

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