第5話 クッコロ女騎士エルフ

「ただのヲークではありません! ハイヲークです! あれは私が見失った個体です」


 は?


 メルフィナの言葉に俺はゆっくりと彼女の顔を見る。


 もしかして、いやもしかしなくても、彼女は本物のエルフだってこと?


 メルフィナの妄言だと思っていたことが俺の頭の中で整理され、ばらばらだった歯車同士が噛み合う。俺がエルフなんて空想の産物だと思い込んでいたが彼女はレイヤーなんかじゃなかったのだ。



 異世界の住人同士が現代で対峙しているというあり得ない光景を俺は目の当たりにしていた。



 屋根の高さから考えて俺たちの前に現れたモンスターは三メートルは優にある。三毛別羆事件の羆と同じくらいの大きさなのかもしれない。だがそれよりも質が悪いのは棍棒という鈍器を扱っているということ。


 確実に知能らしきものがあるのだ。


「ちょっと待った! もしメルフィナがヲークに敗北するようなことがあったら……」

「はい、もちろん私は犯されます! そして醜悪なヲークの子を身ごもることになってしまうでしょう……特にヲークは女騎士が大好物なのです」


 俺のファンタジー知識がメルフィナの回答と完全に一致してしまう。


 なんてこった……。クッコロ女騎士+エルフなんてマシマシ設定、異世界ファンタジーなエロゲならどちゃシコなシチュがさっきまで親しく話していた美少女がリョナされてしまったりしたら、トラウマになって一生ヌクことなんてできねいぞ!


 いやそんなことはどうでもいい。


 とにかく彼女を守らないと!


 そう思っていたのとは裏腹にメルフィナは自身を犠牲に俺を逃がそうしてくれている。


「ここは私が引きつけます。刀哉さんは私に構わず逃げてください!」

「引きつけるって、武器もないのにどうやって?」

「私には精霊たちの加護があります」


 メルフィナは俺をヲークから遠ざけるために突き飛ばすとヲークに向かって叫んだ。


「あなたの相手は私です! かかってきなさい!」



 グオオオオッッ!!!



 メルフィナの挑発に反応したハイヲークは雄叫びを上げながら二本足でドスドスと砂煙を巻き上げ、彼女に向かって突進してくる。


「異界の精霊たちよ、私に力を貸してください!」


 ヲークに向けた手のひらの前に赤く光る球体が見えたかと思うと、


「【エレメンタルファイア】!!!」


 炎の弾丸となってヲーク目掛け、一直線に飛んでいった。


 うっ!? 喉が焼けそうだ!


 メルフィナと距離があるのに息を吸うと感じた熱さ。まるでサウナの扉を開けたときのような熱い空気が襲う。


 炎の弾丸はヲークにぶち当たると奴の上半身を真っ赤に染め上げた。辺りにタンパク質が焦げたような匂いが漂ってきて……まるで焼き豚だな、なんて思ってしまう。


 頼もしいエルフの呪文みたいな不可思議な現象に俺はガッツポーズを取っていた。


「す、凄いな、メルフィナは……」

「まだです! 皮膚を軽く焦がしただけで効いていません」

「なんだって!?」


 炎が鎮火し黒煙とともに皮膚がただれたヲークは俺たちををロックオンして、巨大な棍棒を振り回してくる。


「二人で固まると危ないです。散開して的を絞らせないでください」

「ああ!」


 ヲークからすれば棍棒で俺たちでモグラ叩きをしているようなものだったのかもしれない。ちょこまかと動きなんとかやり過ごしていたのだが、俺とメルフィナが左右に分かれて棍棒を避けたときだった。



 グァッシャーーーーーン!!!



「刀哉さんっ!!!」

「お、俺の工房がぁぁぁぁーーーーーっっ!!!」


 俺の工房兼住宅に棍棒が振り下ろされ、瓦はもちろんのこと、大黒柱にかかる主要な梁が破壊され、酷い有り様になっている。まるでパワーショベルのバケットで抉られたかのよう……いやそれ以上だ。


「メルフィナ! 剣があればそいつを倒せるのか?」


 くそっ、このまま死んだらやられ損じゃないか!


 俺は恐怖よりも怒りの感情が勝り、工房の仇討ちを考えていた。


「はい! 剣があれば私一人でもなんとか対処可能です」

「分かった、武器を持ってくるから少しだけ時間を稼いで欲しい」


 メルフィナは困難な状況にも拘らず、俺に天使のような微笑みを送ってくる。思わず彼女が俺に特別な感情を抱いてるんじゃないかと勘違いしそうだ。


 早速俺は倒壊寸前の家屋から金庫を引きずり出し、なんとか刀を取り出すことに成功する。俺が刀を手にしたとき、メルフィナは魔法のような不可思議な力を行使していた


「【エレメンタルウィンド】!!!」


 スパッ! スパッ! スパッ!


 風の刃が棍棒を居合いで使う巻き藁のように切り裂いた。細切れになった棍棒のパーツがぽろぽろと落ちてゆく。ヲークは何事かと右手を見るが、柄だけになった棍棒を見てようやく理解したのか、柄を捨てていた。


 あの切れ味ならヲークを……。


 俺と思いを同じくしたのか、メルフィナはもう片方の手のひらを向けて風の刃をヲークへ放つ。プシュッとヲークの皮膚を切り、血が飛ぶが厚い脂肪と筋肉で傷はすぐに塞がっていた。


 傷が塞がったと同時くらいにヲークは走り出し、メルフィナに向かって突進している。まさに猪突猛進って感じに。


 あぶないっ!!!


 メルフィナの機敏さからみて、余裕で避けられると思っていたのだけど、彼女はバランスを崩してしまっていた。


「うおぉぉぉぉーーーーーー!!!」


 もうなにも考えてなかった。目の前の可憐なエルフを助けようと走り出していた。


 保護のためメルフィナの頭に手を回し、抱きかかえるようにして同体になって倒れ込んだ。


「大丈夫だった?」

「はい! 私は……えっ!?」


 俺を引き起こしながら立ち上がったメルフィナが口を手に当て、絶句している。


 熱いっ!!!


 背中から腹にかけて赤く灼けた鉄の棒で抉られたかのような激痛が走った。破れた服の穴に触れるとべっとりと手に血がついている。


「刀哉さんっ!」


 ずるずるとメルフィナの腕から滑り落ちた俺、膝をついてしまったが、ヲークが気になりゆっくりと振り向くと牙は真っ赤に染まっていた。


 ああ……俺はあいつに土手っ腹を貫かれたんだな。


 師匠から猪には気をつけろと教えられていたけど、ヲークに貫かれるとは予想外すぎる……。

 

「あれを……使って……くれ」


 地面に落とした太刀を震える手で指差した。


「はい……はい……」


 ぽつりぽつりと滴が頬に落ちる。まだ知り合ったばかりのメルフィナは俺のために泣いてくれていたのだ。


「少し待っていてください。あのヲークは私の恩人……いえ大事な人を傷つけました。絶対に絶対に絶対に! 許しませんっっっっ!!!」


 メルフィナは俺の手を離したかと思うと姿を消した。再び彼女を見たのは太刀を手にした姿。


 抜刀し、切っ先をヲークに向けた影を見たときにはメルフィナは高く跳躍し、ヲークの脳天に太刀を振り下ろしていた。


 竹を割るように裂けるヲークを見届けた俺はメルフィナが無事だったことに安心したのか、それを最後に意識が途切れてしまった。



 これは夢なんだろうか? それとも死んでしまったんだろうか?



 ちゅぱ♪ ちゅぱ♪ ちゅぷぷぷ……♪


 ペロペロッ。ペロペロッ。れろれろ。



 生暖かくて、くすぐったくて、気持ちいい。


 それになんだろう、女の子が男の子のアレを舐めているかのようなえっちな舌使いの音がしてきて、半死なのに元気になってしまいそうだった。



「なっ!?」


 メルフィナがヲークを倒したときには離れのお風呂と蔵だけ残っていたまでは確認できたけど、なんで俺は風呂に入ってんだ?


 俺は気づくとちょうど良い温度に温められた湯船に浸かっていた。


「よかった……旦那さまの意識が戻って」


 驚いて立ち上がるとメルフィナは泣きながらガバッと俺に抱きついてきていた。


 全裸で……。


―――――――――あとがき――――――――――

作者より読者諸君に指令がある。


_人人人人人人人人人_

>次回まで全裸待機!<

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


難しい場合はフォロー、ご評価でも構わない。諸君の健闘を祈る、以上!

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