第3話 海外のレイヤーさんですよね?

 脈があるか、ないか確かめようとしていたら、急に倒れていた人から音がした。


 ぐぅ~。


「なんだお腹が空いて倒れてたのか」


 年の頃は高校生くらいか?


 あちらの人は見た目が大人びていて、年齢はなんとなくしか分からない。


 見た目の深刻さと比べ、腹を空かせた滑稽な音に思わず吹き出しそうになるが、このまま放置しておくわけにもいかない。後ろから倒れている人の両脇に腕を差し込み、まずは座った姿勢へ変えようとした。


 うなじを見ると少し汗ばんでいるはずなのに汗臭さは皆無でむしろフローラル系の香水のような爽やかな微香が漂ってくる。


 加えて女の子特有のふにゅっとした肌の感触が服越しでも伝わってきて、とてもしあわせな気分になってしまっていた。


 なんとかかんとか、うつ伏せから長座の姿勢に移し、倒れている人を正面から見た。心を目を閉じている彼女に掴まれ、思わず奪われそうになる。

 

 日本人離れした美しい見た目に驚くばかりだ。


 銀の髪がそよ風に煽られるとゆらゆらとたなびくごとに陽の光が反射して、美しい輝きを放つ。肌は透き通るように白く潤いを保っていた。


 高い鼻に長いまつげ、整った顔立ちにパリコレに出る一流のモデルがレイヤーを趣味でやっているのかと思ってしまう。


 ただ違うのはエルフ耳……フェイクにしてはできがよく、うっすら脈のような物まで見えた。


 止せば良いものを生来の好奇心から俺は気づくと彼女の耳につんつんと指で軽くつつくように触れてしまっていた。


「ううん……」


 触れた瞬間に彼女は喘ぐような声と共にピクッと小刻みに震える。まるで女の子の敏感なところに触れてしまったかのような反応に驚いた。


 まさかホンモノ!?


 そんなわけないよな……。


 コスプレの気合いの入り方も段違いで、肩に鉄甲、脚部のプレートメイルは白銀色であるが、キラキラではなく、くすんだウェザリングが施されているという徹底ぶり……。


 プレートアーマーの上に着ているサーコートには返り血のようなエフェクトまであるとはガチすぎんだろ!


「あうんっ」


 記念にもう一度彼女の耳の先っぽに触れると顔を白桃のようにうっすら赤くして甘い声を漏らしていた。


 かわいい……。


 いかんいかん!


 これはあくまで人助け、邪な想いを抱いてはいけないのだ。お姫さま抱っこで抱えてはいるんだけど……。


 うちの村にはたまにいるのだ。きっとまた青梅駅と青海駅を間違え、さ迷う旅人たちが……。日本人でも間違ってしまうくらいだから海外から来たコスプレイヤーが間違ってもおかしくない。


 こんなにも気合いを入れた衣装なのにイベント会場と間違えて、辺鄙な村で迷い込んで行き倒れになってしまうとか、彼女にとって最悪な思い出になってしまうんじゃないだろうか?


 せめて介抱してあげないと日本の名折れになる!


 勝手に日本を背負い、世界を代表するコスプレイヤーを両手に抱えた俺は縁側から家に上がっていた。


 さっきまで自分の家のようにくつろいでいた中須賀はすでに俺の家から去っているようだった。


 まったく……どうでもいいときに邪魔しに来て肝心なときにいないとか、どうしようもない奴め。


 文句を言っていても仕方ない。まだ意識が戻らない彼女に休んでもらうために客人用の布団を慌てて敷く。


 だけどこのまま寝かすわけにはいかないだろう。そう庭で拾ってきたエルフ騎士のレイヤーさんの装備を脱がさないといけなかった。


 ベルト状になった紐をひとつひとつ外していくのだが、驚いたことにすべて本革でできている。レイヤーさんはコスト削減のために合皮みたいな安物を使っているはずなのに。


 それにこの肩当て……しっかりとした厚みがあるのに物凄く軽い。なんだろう、アルミ合金とも違うし。手足の装備を慣れない手つきでだが、脱がし終えた。すやすやと眠る彼女の太ももとふくらはぎの白い素肌が覗き、変な気分になってくる。


 この子が傍にいると俺の理性がゴリゴリに削られ、野生の男にレベルダウンしそうだ。


 しかし問題はそこじゃない。


 腰のベルトを緩めサーコートをペロンと捲る。なんだか女の子のスカートを捲ってしまったようで、えもいわれない興奮と罪悪感を覚えた。


 更に俺は本丸へと手をつける。背中のベルトを緩めて胸当てを彼女に気づかれずに……違った、起こさず取り外すことに成功した。なんだかブラを外したような気分になってしまう。



 なっ!?



 着やせするタイプだったのか胸当ての下には熟れて柔らかそうなメロンほどの大きさのたわわが二つも実っていた。


 まさか俺の庭で巨乳エルフのレイヤーさんを拾ってしまうなんて……。 


 ぶるぶるふるっ。


 ちゃんと落とし物は中須賀に……いや中須賀の奥さんの蓮美さんに届けるつもりだ。俺はただ彼女を介抱したいだけで、決して連れ込んでいけないことをしようとしているんじゃないと言い聞かせた。



 お腹が空いていたようなので食事の準備を終え、客間に戻る。あちらの人はベッドがないと寝れないらしいのだが、彼女は俺が用意した客人用の布団でそんなこと関係ないと言わんばかりにスヤリス姫していた。


「ううっ、うう、お父しゃん、お母しゃん……」


 座布団の上で正座待機していると彼女はうなされながら、譫言うわごとを言っていた。不思議なことに見た目は完全に西洋人そのものなのに日本語のように聞こえた。


 目を閉じたまぶたから涙があふれてきたので、ハンカチで拭っていると、


「い、行かないでぇぇぇ……!」


 寝ているにも拘らず、手を伸ばして何かに縋っているようだった。


 彼女の見ているとギュッと胸が締め付けられるような想いと必ず両親の下へ届けてあげないといけないという大人としての責務みたいな感情がふつふつと湧き上がっていた。


「ううん……」


 眠り姫は腕を伸ばして、艶めかしい声を上げたかと思うとエメラルドのような瞳が開いた。むくりと上半身を上げた彼女は横を向き、俺と彼女の目が合う。


「こんまっする~!」

「……?」




「ここはどこでしょうか? それにこれは……貴殿が私を介抱してくれたのでしょうか?」

「あ、ああ……」

「ありがとうございます。私はクローディス王国の騎士エルフィーナ・フォルトナスと申します」


「俺は伊勢刀哉。しがない刀鍛冶さ」


 驚いた……。


 普通に日本語を話し、それで意思疎通できていることに。


 ぐぅ~っ。


 俺にキリッとした表情を見せ、お礼を告げたメルフィナだったが、腹の虫が鳴いてしまったことに顔が真っ赤になり、顔を両手で覆い恥ずかしがる。


 年相応のかわいい仕草が見れたことで俺は安心していた。


「大丈夫、食事は用意してあるよ」

「ホントですか!? あ、でも見ず知らずの方にお食事までいただいてしまうなんて……」


 と彼女は言いつつも、あの長い耳がぴくぴくと動いて、俺には食事を楽しみにしているように思えた。


―――――――――あとがき――――――――――

ご飯にします? それともお風呂にします?

ということでご飯のあとはお風呂ということで次回はお風呂回です! フォローとご評価に応じて、エルフィーナが一肌どころかたくさん脱いでくれることてしょうwww

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