第2話 庭に落ちてた巨乳エルフを拾う
【師匠を裏切るような真似をしてしまい、ごめんなさい。あきらさんに誘われたことは事実です。あきらさんからもっと広い世界に目を向けるように、と言葉をかけてもらい、気づいたんです。師匠は私を弟子としか見てくれませんでした。私じゃ、ダメだったんですね……】
あきらが残していった紙切れには優希から俺への想いがつづられていた。今更彼女の想いに気づいたところでどうしようもない。
A4ほどの大きさの紙切れに滴がぽたぽたと垂れて、視界が歪む。奪われたことよりも、優希の想いに応えられなかったことが何よりも悔しかった。
どうして、俺はこんなに馬鹿なんだろうか?
イラつくとき、悲しいとき、552の豚まんがないときはぶった斬るしかないよな!!!
悲しみを払拭するように座布団から重い腰を上げると猟銃を保管しているような横にも縦にも長い金庫の鍵を開け、稽古用の刀を手にした。
【それは刀というにはあまりにも長すぎた】
というほど長くはないんだけど、打刀よりは長くて刃渡り九十センチくらいある。どこから噂を聞きつけたのか分からないが俺や父さんの打った刀を見た客は一言こう残して帰っていった。
『人斬り包丁』と……。
鞘から抜いて白刃をぼーっと眺めていると優美さとは皆無で、ただ戦うために生まれてきた愛刀が確かにそんな風に思えてくる。
「それであの子を奪い返そうってのかい?」
「おわぁぁぁーーーーっ!?」
縁側には制帽をかぶり、青のYシャツ、紺のベストを着込んだ男が床板に腰掛けていた。
「脅かすなよ、中須賀……」
「はっはっは! 国家権力舐めんな! オレはいつでも神出鬼没だ」
村の駐在所に勤める俺のもう一人の幼馴染、中須賀健太郎が訪れていた。
国家権力という大層なことを言っているが、牧歌的なこの村で支配やら抑圧みたいなことを感じたことがない。
「おいおい、オレはこの村山村の警察官なんだぜ。村の個人情報はぜんぶオレに筒抜けってわけさ」
「うそつけ、いくら警察官でもぜんぶは知らねえだろ」
「バレたか……あれだ、ここに来るときに神崎とおまえの弟子の優希ちゃんに会ったんだよ。あの妙に仲の良い感じ、優希ちゃんはすでに神崎に寝取られたとオレは見たね」
「それで腹を立てた俺が二人を斬殺みたいなシナリオ?」
「そうそう、かわいい弟子を村の王子さまに寝取られた刀鍛冶の怒りは頂点に達し……」
あまりにも事件がなさすぎて、中須賀は脳内で勝手に事件のストーリーを練り始めている。俺に語り聞かせる代わりに図々しくも俺にコーヒーとお茶請けを要求するように手のひらを上に向けてい指を動かしていた。
「はあ、また油売ってると蓮美さんに怒られるぞ。俺はただ裏山へ稽古に行くだけだから」
中須賀はこうやって村の各家を回って、家の人と駄弁るのがお仕事になっている。それでも村のお年寄りたちには話し相手になってくれる良い警察官で通っているのだから、人事の配置の妙と言えた。
いただき物のうなぎパイを頬張りながら、中須賀は旧友というか悪友っぽく痛いところを突いてくる。
「だよな。おまえにそんな無謀な勇気があれば、今ごろ若妻と子作りに励んでるよなぁ」
冗談抜きで中須賀は奥さんの蓮美さんと勤務が終わると駐在所兼自宅で勤しんでいるようで、ふらっと立ち寄ったときに蓮美さんの喘ぎ声が聞こえて、慌てて引き返したほどだ。
交番でそんなことしてるところが見つかったら、懲戒処分物なのに……。
それを指摘すると「だから駐在所勤務を希望した」と返ってきて、何も言い返せなかった。
いつの間にか居間に上がり込んで日曜の親父のように座布団を折り曲げ枕代わりして横寝しながら、テレビを見るマッドポリスに言い放つ。
「俺はもう行くぞ」
テレビに夢中になっていた中須賀は手だけ振って、俺を見送っていた。
『今日は榊の木を出荷する農家さんのところに来ています』
だがテレビのアナウンサーの何気ない一言に反応し、中須賀は普段のぐうたらさとは雲泥の素早さで飛び起きた。
「待て待て。榊で思い出したんだが榊原先生から連絡はあったか?」
「いやないな。まったくどこに行ったのやら……」
中須賀から出た榊原先生というのは俺の剣術の師匠で流派や伝承こそ詐称していたが、人間とは思えないほど強かった。
あるときは剣術、あるときは空手、あるときはMMAと得物だろうが、素手だろうが相手の土俵で戦っても道場破りに来た連中をぼこぼこに返り討ちにしてしまうほどの人だった。
まあ私生活はだらしなく、稽古してないときは短パン、タンクトップで過ごし、部屋にはビール缶が転がってるような残念さだったけど。
家に不良警官を残して敷地内の裏山へ足を運んで剣を存分に振るう。
【刀哉! 技を放つときは必ず技名を叫ぶんだ!】
俺がわざわざ裏山に出向いてまで稽古する理由は簡単……重度の厨二病を患った師匠からの言いつけを守るためだった。あまりにも恥ずかしくて中須賀の前でも剣技は披露したことがない。
正伝次元無双流【
鼻からスッと軽く息を吸い、息を止めた瞬間に太刀を一気に抜き放つ。すると俺の周りを覆っていた
威力はスゴいんだ、威力は……。
だが日本刀のくせして英語の技名はないだろ、と自称一○八代目の継承者に文句の一つでも言いたくなる。
いや昔に言った。
言ったら、幼気な子どもに「破門するぞ」と泣きながら脅すような人だった。子どもながらに残念な人だと認識しつつも、唯一の弟子に逃げられるのはかわいそうだと思ったのがそもそもの間違いだったのかもしれない。
ちなみに師匠のお父さんもお爺さんも誰一人、正伝次元無双流をやっておらず、完全に我が流派は師匠の創作妄想の類であることは間違いない。
ただ一つの真実として馬鹿げた威力だけはホンモノだった。
チャキン♪
ぶんと血振りの所作をしてから納刀した。昔に比べれば一薙ぎで斬れる範囲も増えた方だけど、師匠からすれば「刀哉はまだまだだな」とたしなめられることだろう。
って!?
ひと息ついたら気づいたのだが、村の岩戸と呼ばれる岩にかけられたしめ縄が切れてしまっていた。さすがに俺の実力で斬撃を飛ばせるわけがない。
おそらく経年劣化で切れてしまったんだと思う。そう思いたい。
ここでライフハックをハックする! いや発揮する。まずは重曹をしめ縄の切れ目にまぶし、あとは
直径三〇センチくらいあるしめ縄の端と端をつなぎ合わせるとちゃんと元通りくっついた。文明の勝利である。
昔、悪さをしたときに爺ちゃんに言われたことがあった。村の岩戸がなかった古の時代には岩戸の奥の洞穴から物の怪の類があふれてきて、近隣の村々を荒らしたと。悪い子の下にはいまでもその物の怪が現れて、食ってしまうんだそうな。
小さかった俺はそんな作り話でもタマヒュンになって、爺ちゃんに良い子になる宣言をしたもんだ。今思えば、子ども騙しもいいところだが……。
愛刀を袋に仕舞い、ケースに入れる。さらに鍵をかけて背中に背負った。家の敷地内なら差して歩けるが、外ともなるといくら中須賀がいい加減な警察官と言えども、さすがに法の網に引っかかってもおかしくない。
村唯一のコンビニ、セブンーセブンで買い物をして帰宅すると戻ってきたときに庭に人が倒れていた……。
「だ、団長!?」
うつ伏せに倒れていたが、陽に照らされ銀色に輝く美しい髪に、白くて大きな腰巻き、肩と腕と脚に装着された白銀のプレートアーマーから思わずそんなフレーズが漏れてしまう。
「大丈夫ですかっ!?」
慌てて声をかけるが返事がない。
ちょっと失礼させてもらい、脈があるか首筋に触れようとすると耳の形が明らかに違っていた。もふもふしていないが、猫ようにピンと先が尖っていたのだ。
ぐぅ~っ。
倒れている人のお腹の辺りからそんな音が聞こえてきて、生きていることが分かり安心した。
―――――――――あとがき――――――――――
こんまっする~、作者です。なにやら某財団が動き始めたようで和製ファンタジー界隈はてんやわんやになりそうです。
以前からホBットについて使用が難しくなり、グラスランナーなどに置換しているとは知っていたんですが、その他についても厳しくなるっぽいです。
本作では、
Oーク → ヲーク
ミSリル → ※ミススル
の表記で書いていこうと思いますので何卒よろしくお願いいたします。
※ネタのための表記ですwww
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます