第6話 姫様と模様替え

正直、姫様は部屋の片付けが苦手だ。

客人が来る際など、短時間で整頓された空間を演出するにはモノの数を減らすのが一番である。

余計な物は限られた収納スペースに押し込め隠し或いは捨てればよい。

だがそれでは見かけは良くても実際に生活するには支障があることは否めない。

ブランケット、クッション、予備のマグカップ、積ん読している本…姫様の生活の質を底上げするアイテムが彼女の部屋には溢れかえっている。

「…実に由々しき事態だ」

姫様はひとりごちた。

彼女が暮らす寄宿学校では、部屋に親しい者を招いてお茶会やお泊り会を開催している。

姫様も何度か参加したことがあるが、珍しい舶来のお菓子やお酒が振る舞われ、異国の地の土産話から果ては赤裸々な恋愛事情まで互いに語らうサロンのような場だ。

姫様自身はそこまで社交的でなく、人付き合いが少ない方だから招待がなければそのような場に出向くことはほとんどない。

だが、寄宿学校で過ごす時間は限られている。ここに集う個性豊かで刺激的な人々との繫がりは、今しか築くことのできないかけがえのないものだ。

たまには自分から親しい友人や同室の後輩を招いて交流の場を設けてみようと静かに決意する彼女であった。

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塔の上の姫様は今宵も甘い夢をみる 長谷川 千秋 @althaia

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