甘くて苦い貴方へ
杉島蓮歩
第1話
貴方はイケメンと聞いて何を思い浮かべますか?
高身長ですらっとした体型、二重でスベスベな肌といったところか。
しかしこの世界の男性のイケメンという基準は、低身長で肌荒れしてて、ぽっちゃり体型な方のことを差す。
人はそれを“価値観逆転”、もしくは“美醜逆転”という。
それ故、女性やイケメンに貶され差別される不細工も近年多いとの。
そのためこの世界の男性は、モテる為にわざと太ろうとしたりする者もいるとか。
これはそんな世界で、パーツフェチな女と不細工な自分がトラウマになりかけている男の話である。
「ここの本棚やっと制覇ッ!!」
そう言いながら図書館でバンザイして喜ぶ、前髪ぱっつんな黒い長髪の少女。
彼女の名前は府川乙姫(フカワ・オトヒメ)といって、この町の図書館の常連である。
「乙姫ちゃん、声大きいからボリューム下げてッ!!」
「あ、ごめんごめんッ!!」
今乙姫を注意した赤毛の女性は、この図書館の司書で乙姫とは知り合いである。
注意された後、乙姫は溜め息を吐きながら帰り支度を始める。
「あーあ、私のお眼鏡に叶う男性ってなかなかいないな」
「乙姫ちゃんは、イケメン好きじゃないないの?」
「私は綺麗な眼とイケボな男性なら、イケメンとか不細工とかどうでもいいし」
「何それ~。所謂パーツフェチじゃんッ!!」
司書の女性に訊かれ、パーツフェチなことを暴露してしまう乙姫。
彼女と司書の女性が楽しく雑談していると、茶色い短髪に眼鏡をかけた女性が話しかけてくる。
「あの……ホントにイケメンとかじゃなく大丈夫なんですか?」
「え?あ、はい」
「そうなんですね。よかった……」
「はいはい花丸さん、休憩終わり。じゃあね、乙姫ちゃん」
そう言うと司書の女性は、乙姫に手を振りながら本棚の整理をしに向かう。
一方、乙姫は花丸と呼ばれた女性司書の方に話しかけていた。
「えっと……」
「花丸心(ハナマル・ココロ)です。よろしくお願いします」
「こちらこそ。府川乙姫ですッ!!」
「府川さんは、どうして綺麗な眼とイケボの男性が好きなんですか?」
突然心に何故その様な嗜好なのか訊かれ、唖然となる乙姫。
すると彼女は、自身の過去についてゆっくりと話しだした。
「実は私、虚弱体質な時期に小学校殆ど行ってなくて。そんな時この図書館に通うようになったんだ」
「それとパーツフェチが結びつくんですか?」
「それで図書館にある児童文学やラノベを読んでた時、向かいの席に座ってた男性が綺麗な眼だったの。借りる時喋ったらイケボだったし」
そう言いながら当時のことを、笑顔で嬉しそうに語る乙姫。
するとそれを聞いた途端、心は彼女にいくつかある質問をする。
「その男性って、茶色い短髪でグレーの瞳でしたか?」
「確かそうだったけど?」
「イケメンと不細工なら、どっちよりでしたか?」
「基準で言えば不細工かもしれないけど……て、どうかしたの?」
急に心が質問ばかりしてくるため、首を傾げて彼女に訊ねる乙姫。
すると心は真顔で乙姫を見つめ、彼女に最後の質問をする。
「最後に……僕が男で不細工でも、悲鳴上げたり泣き叫んだりしませんか?」
「へ?はは、冗談言っちゃって。花丸さんは女でしょ?」
「ちょっと来てください」
そう言うと心は、乙姫の腕を掴み図書館の外へ連れ出す。
そして離れた場所で彼女の手を放し、乙姫と向かい合うように立つ。
「やっと会えました。僕の初恋の人」
「何のこと?私は花丸さんとは初対面で……」
「これを見ても、そう言えますか?」
そう言うと心はポケットから袋を取り出し、中に入ってるクルミを食べる。
すると突然彼女の周りが激しく光り、姿が見えなくなる。
光りが収まるとそこには、茶色い短髪にグレーの瞳で、高身長のすらっと体型な男性が立っていた。
「えッ!?あの時の……どストライクさんッ!?」
「こんな不細工な僕を見ても、ホントに大丈夫ですか?」
「ああッ!!ヤバいッ!!イケボじゃんッ!!濁らず透き通るようなグレーの眼も素敵ッ!!」
「オーバーな方ですね。府川さんは」
そう言うと心は乙姫に微笑みかけ、彼女を方へと歩み寄る。
それを見た乙姫は、ドキドキする自身の胸の鼓動を静めようと深呼吸する。
「でも、君ならホントに僕を愛してくれるかもって期待しそうだな。しない方がいいのに」
「大丈夫ッ!!私も、花丸さんを探してたからッ!!」
「ふふ、期待しないで待ってるよ」
そう言うと心はポケットから飴玉を取り出し、包みをめくり食べる。
するとまた突然眩しく光り、光りが収まると彼は女性の姿に戻っていた。
「僕はね……甘味を摂ると女に、苦味を摂ると男になるんです。これからよろしくお願いしますね。府川さん」
こうして再会を果たしたズレ少女と不細工男性。彼らの恋はどうなるのやら?
甘くて苦い貴方へ 杉島蓮歩 @49mo10
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