other
結構昔、たしか小学生くらいの頃だったと思う。
俺はいわゆるイケてるグループにもそうでないグループにも普通に話すことが出来る宙ぶらりんな奴だった。
だから関係こそ希薄で放課後誰かの家に遊びに行くこともなかったし昼休みにたまにドッヂボールをやるくらいのある意味ではどこにでもいる男と子だったと思う。
放課後はまっすぐ家に帰るか図書室で本を読んでいた。
静かな空気とそれなりに大きな蔵書量だったから飽きは来なくて快適。
そもそも本を読もうとする生徒の数も少なかった。
司書さんは誰も来ないのを知ってて居眠りしたり併設されてるパソコンでネットサーフィンを楽しんでいた。
ある日、俺がいつもの奥まった席で適当に取った本を読もうと向かうと女の子がいた。多分、同い年。
その子は膝を抱いて泣いているようだった。
席を移ればいいのになんとなく気になってきたし、鼻をすする音も居心地を悪くさせる。
「なぁ、どうして泣いてるんだ?」
気づいたときにはそう口を開いていた。
女の子は一瞬俺の方を見てまた俯いた。
(困ったな……)
そう考え始めていた時だった。彼女の方から小さく、耳を澄まさなきゃ聞こえないくらいの声がする。
「みんないなくなっちゃったの」
「みんなって?」
「みんな…… お父さんもお母さんも」
それは当時の俺からしても今だったとしてもなんて答えていいのかわからなくなる。
しばらくその子を見つめながらどうしようかと考えた結果、俺は手に持っていた本を渡した。
宮沢賢治の短編集だったと思う。
「なぁ、 これ」
そう声をかけると顔をあげてきょとんとした顔で俺を見た。 泣きはらしたかのような目元が少し痛ましく思う。
「どう言ったらいいのか分からないけど……本を読むと周りに壁が出来たようでなんか新しい場所を見つけたようになるんだ。 だから、これ読んでみて欲しい」
彼女は少しおびえたように本に手を伸ばすと小さく「ありがとう」と言って少し離れた場所でページを開いた。
これで良かったのかなと思いながら新しい本を探しに戻って元の位置で本を読む。
それから、彼女とはよく会うようになって少し本の話をした。
あの言葉の意味が分からない。これはどういう話なのか。 もちろん俺たちはまだ小学生で十分な言葉の意味を理解していなかったけど俺としては友達が出来たようでうれしくもあった。
それから数か月後、彼女の姿は見えなくなった。
小さな噂で離れた親戚の元に引き取られたらしい。
それから彼女のことは一度も思い出さなくなった。
薄明の帳に @takaryan060530
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。薄明の帳にの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます