第8話 神と話をする
あの後、少しの騒ぎを経て、皇帝に会った。
暫く王城を離れるが、結界は維持する事を彼に伝え、そのまま転移魔法で城下町の自宅まで戻ってきた。
正直、動揺が隠しきれない。
なんで、彼女がいるんだ?
俺にとっては、遥か昔の出来事だが、優奈はあの時の姿のままだった。
少し、大人になってはいたが、時の流れが違うのか?
もう二度と、会うことはないと思っていたのに。
思わず、涙が溢れる。
彼女の側に、また居ることができたら。
あの時のように、他愛のない話をしたい。
優奈は、勇者として呼び出された。
魔王を倒すため、これから戦う事になるだろう。
今もまだ日本が平和な国なら、戦いになれてないはずだ。
こうなったら、俺がサクッと魔王を倒してしまおうか。
暫く考え込んでいると、窓辺に置いている、鉢植えの花から、突然ユグじいの声が聞こえてきた。
「エルハイド目が覚めたようじゃな。目が覚めたなら、まずわしに連絡をよこさんか!」
ユグじいは、この世界の全ての植物と繋がっている。意識を向ければ、植物をとおして、声を届けることも可能なのだ。
チートすぎる。
「ユグじい、ごめん。今度お土産を持って帰ろうと思ってた所だよ。」
「口で言うのは、簡単じゃが、どうだかの~」
「本当だって!それより、連絡してきたってことは、なにか用があるんだろ?」
「そうなんじゃ。お前、前世の知り合いに会ったじゃろ。主が、人族に勇者召還の信託を出したら、エルの魂と縁がある者が召還されてしまったと言っておった。」
「・・・そうなんだ、前世の幼なじみが、勇者の中にまざっていた。何とかして、助けたい。ユグじい、どうしたらいい?」
「・・・・エル、実はの。その事に関して、主が話があるそうじゃ。」
「神のじいさんが?」
珍しい。俺は、神と話をした事はあるが、神がユグじいに会いに来たとき、たまたま俺がいたというだけだ。
それを、個人的に呼び出すなんて。
嫌な予感がするな~
「今日は、早く寝るのじゃ。夢の中で、エルの意識と神界を、結ぶそうじゃからの。」
そう言ったのを最後に、ユグじいの声は聞こえなくなった。
俺は、さっさと夕食や水浴びを済まして、布団の中に潜り込んだ。
昼間の出来事を何度も思い出してしまい、なかなか寝付けなかったが、日付が変わるか、変わらないかの頃に、ようやく寝付けた。
気がつくと、真っ白な空間に立っていた。
暫くすると、金色の蝶が一匹飛んできた。
導かれるまま、蝶の後を付いていくと、荘厳な建物がいくつも建っている、白と金色の町にたどり着いた。
今まで見たこともないような、建材で立てられ、ごみの一つも落ちていない。
なんて、美しい所だろう。
きょろきょろ、辺りを見回しながら、蝶の後を付いていく。
その間、ただの一人も住人を見ることはなかった。
狭い路地を通り、一際豪華な教会のような所を通りすぎる。
さらに、奥に進んでいくと、小さな一軒家が現れた。
蝶は、その中に入っていく。
俺も、続いてドアを通り抜ける。
シューシューと、やかんの沸く音が鳴っている。
生活感のある、どこか懐かしい空間。
俺は、少しだけ、息をついた。
どうやら、知らず知らずのうちに、とても緊張していたようだ。
「おや、エルハイド。やっときたか。」
奥から、長い白髪と髭のおじいさんが出てきた。
「お久しぶりです。アルデロイド様」
「まぁ、まぁ、ここに座りなさい。今、お茶の支度をするから。」
俺は、言われた通り、イスに腰かけた。
アルデロイド様は、紅茶と茶菓子を持って、俺の向かいに座った。
「ユグドラシルから聞いていると思うが、エルハイドを呼び出したのは、私の管理する世界に呼び出した勇者の事なんだ。」
「はい、私と魂の縁がある者が呼び出されたと聞いています。実際に、前世の知り合いが呼び出された事を確認しました。私は、彼女を助けたいです。」
「そう言うと思って、呼び出したんだ。実は、今回の魔王騒動には、邪神が絡んでおる。かの神は、最高神により、追放された者だ。今は、最高神の地位を狙って、各世界を順に侵略している。とうとう、私の管理する世界も狙われてしまった。それが、件の魔王騒動だ。」
「そうなんですか。」
神の世界も、大変なんだな。
「神界にも、最高神の定めた掟がある。その一つに、神は他の神が納める世界に関与してはならない。というものがあるんだ。今はまだ邪神も、その掟を破る事はできない。破ると、神としての格を落とされる契約をしているからな。だが、神自らが手を下さなくても、外部の同じような志しを持つものを導く事は出来る。邪神も、私の管理する世界に、その方法で、害を及ぼそうとしている。対抗するため、勇者召還の信託を出し、魔王を倒したいと願う人間に、儀式を行わせたんだ。そのせいで、エルハイドの友人が巻き込まれてしまった事、申し訳なかった。」
「いえ、謝らないでください。」
神が、謝るなんて!
絶対に、謝ることなんてない存在だと思ってた。
「実は、問題はここからなんだ。今回、魔王は邪神の加護を受けている。人間が、魔王を討伐する分には問題ないが、私や私の眷属が魔王を討伐してしまえば、邪神はそれを言い訳に、自ら私の世界にやってくるだろう。先の掟は、破れないが、こちらから先に攻撃したとなれば、話しは別だ。掟は効力を失ってしまう。そうなれば、私では、もう世界を救う事は出来ない。昔ほどの力は残っていないんだ。お前は、長年私の眷属ユグドラシルと共に過ごして来た。エルハイドは、私の眷属ではないが、それと同じような存在だと世界に認識されている。そんなお前が、魔王を倒したらどうなるか。邪神は、嬉々としてやってくるだろう。」
なんか、複雑な話だな。
つまり、俺が魔王を倒してしまうと、更なる強敵がやってくるという事か。
じゃあ、彼女を助ける事は、ができないのか?
「では、私はどうしたらいいのでしょうか?」
「手助けする事は出来る。だが、直接魔王や魔王軍と戦ってはならぬ。」
「そんな・・・。」
「本当に、申し訳なかった。私が至らないせいだ。勇者たちには、出来る限りの加護を与えよう。」
仕方ないでは、済まされない。
俺は、何も出来ないのか?
優奈には、死んだり傷ついたりして欲しくない。
黙り込んでしまった俺に、アルデロイド様は申し訳無さそうに、もう一度謝った。
アルデロイド様が、悪いわけじゃない。
それは、分かっている。
力はあるのに何も出来ない。
すごく、虚しい。
最強龍(ドラゴン)は、幼なじみの少女勇者を陰ながら応援したい 青色絵の具 @Mana2023
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