第7話 ちょっと挨拶に行く

ダルカンさんの教え方は、とても上手だ。

最近は、荷物持ちとして、ダルカンさんの冒険についていく事が多い。

たまたま、純粋な腕力を封じていなかった為、人間としては、かなり力持ちだ。

冒険者としては、その方が色々楽なので、腕力に関しては、このままにすることにした。



あと、じゃらじゃらと、邪魔だった呪いのアイテムは、魔法で何個かにまとめて、だいぶスッキリさせた。

そして、自らに掛けた弱体化の呪いも、分かりやすく腕に魔法紋を刻んでおいた。

手にメモをしてみるみたいで、恥ずかしい。

これで、どれがどの効果か分からなくなる事はないはずだ。



ちょっと、冒険者として落ち着いた頃、城を勝手に出てきた事を思い出した。

そろそろ、一回帰っておかないと、余計な騒ぎになるかもしれない。

それは、面倒だ。


仕方ないから、一度帰るか。

ダルカンさんに、明日は休む事を伝えておかないと。



次の日、俺は早起きして王城に向かった。

近くまで行くと、何時もより警備が厳重な気がする。


なんだろう?

俺が、姿を消したのとは、関係なさそうだけど。


城壁沿いに歩いて、死角を見つけると、こっそりいくつかの呪いのアイテムを取った。



そして、変身魔法を解除。


さらりと、銀の髪が揺れる。

よしっ、と気合いを入れて、城壁を飛び越えた。


スタッと着々をすると、周囲を見回して、誰にもばれてないのを確認。

気配を消して、柱に隠れつつ、皇帝の部屋を目指す。

けして、人にばれてはいけない。


なぜなら、この姿の時は、神秘的な麗人を装っているので、神出鬼没を気取りたい。


ふと現れて、ふと消えるみたいな。

魔法で、出来ないこともないが、城内は魔法が使えないようアンチマジックが常に発動している。

俺が設置した魔法だから、普通に内部でも魔法を使えるが、そんな事したら大騒ぎになる。


それは、スマートじゃない。


なので、こんな忍びみたいな真似をしている。


こそこそと移動していると、玉座の間辺りに警備が集中しているのが、分かった。

入ってくる者を警戒するというより、中にいる者を出さないようにしているような、警備の仕方だ。


違和感を感じた俺は、行ってみることにした。




厳重な警備を掻い潜り、室内に侵入するのは、大変だった。

極限まで、気配を消し、魔法使いの一団が中に入る隙に、一緒にもぐり込んだ。

急いで、柱の影に隠れる。


いったい、なにをするつもりなんだ?


魔法使い達が、詠唱を始めたようだ。

徐々に、魔方陣が展開され、魔力が収束していく。


そして、一段と強い光を放った。


しばらくして、ようやく光が収まると、魔方陣の中には、40人くらいの少年少女が現れた。


これは、もしかして異世界から勇者を召還する魔法だったのでは?

転生前、読んだ小説に、似たような話があった。

彼らをよく見てみると、全員が同じ制服を着ていた。

これは、クラスごと転移に巻き込まれたパターンか。


なるほど、なるほど。


呆然としている、勇者達に、お姫様ぽい人が近づいていく。

どうやら、お決まりの説明をしているようだ。


ん~、俺は勇者とか興味ないけど、せっかくファンタジー世界に来たんだから、同郷の先輩として、彼らの物語を盛り上げてあげよう。


俺は、こそこそと丁度良い位地に移動した。

そして、勇者達真上に転移。

それっぽく、天使の羽を魔力で作成。

(本来の姿では、翼はないけど、雰囲気を出すための特別演出だ。)

さらに、光輝く粒子を空気中に撒き散らした。


「我が名は、エルハイド。この国、シルベスタイン帝国の守護龍だ。異世界の勇者達よ、歓迎しよう。私も出来る限りあなた達の力となろう。どうか、この世界の希望となってくれ。」


守護の魔法を使い、勇者達全員に、白龍の守護を付ける。

この世界の神の守護も、きちんと付いているようだったが、俺のも上乗せしといた。


神の爺さん、腰が痛いっていってたけど、大丈夫かな~最近会ってないな。


これで、勇者達には、回復能力の向上や防御力の向上等、守り方面の能力が追加されたはずだ。


ぶっちゃけ、魔王なんて俺がいれば、どうにでもなるけど、それっぽくやっておくのも、大切だ。



俺は、神聖な守護龍を上手く演じられて、大変満足した。

そろそろ、かっこよく姿を消そうと思ったその時、懐かしい彼女の姿を見た。


「えっ、嘘だろ」


美しい黒髪に、切れ長の瞳。

凛とした姿は、あの時のまま。

記憶にある姿よりも、少し大人びている彼女。


夏目優奈


俺がかつて、まだ人間だったとき、淡い恋心を抱いていた少女だ。


思わず、じっと見つめてしまったが、これでは不味いと、急いで魔法を使い、もともとの目的地だった、皇帝の私室に転移した。


皇帝の私室に、直接転移すれば、騒がれるのは確実だが、そんな事もうどうでも良かった。



*一部、王国となっていた部分を帝国に変更しました。


アンチマジックは、皇族のみ一部解除可能です。

その為、王座の間で召還魔法が使えました。
























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