第22話

 祭も、夜になると静まるかといえばそうでもない。


 夜になれば夜の活気というのに包まれる。


 あちらこちらで酒盛りが繰り返し行われている状況だ。


 そんな情景を眺めながら、肉串を口に含んでは生ぬるいエールを流し込む。



「……プハァ、やはり肉にはコレだな」



 キンキンに冷えている訳でもないが、肉串の脂っこさを炭酸とアルコールが取り除いていく、そして、かるく酔いしれる状況。

 そして、鼻にはサッパリとさせるための香料の匂いが軽く残っては、爽やかな気分を多少なりとも作り出してくれる。



 ……この一時のために生きているといっても過言ではないな。



 ただ、目の前に蜂蜜酒数杯で酔いつぶれている金床長耳と、舟を漕いでる女史がいたりするのは、なんだかなぁと思うのだが……



   *   *   *


「ここにいたかヴォルグ!早速だが話がある!」

「こんばんは、お邪魔してもよろしいでしょうか?」



 何時もの面子とは違う街の商売関連知人たちと飲んでいたら、唐突に二人が現れる。

 知人たちは、金床長耳と女史のタッグが現れたとたん、酔いが冷めたのか、そそくさと席を譲る格好で離れていった。



「……祭なんだから、商いの話は無しでもいいだろうに」

「そういう訳にはいかんな」


 どういうこった?と、つきそいの女史に視線をむけると


「昼の便にて、ご依頼の品が到着しまして、それで業務が終わり次第家にむかったのですが、不在でしたので……」

「……?なにかあったか?」

「コレだコレ!!」


 といって取り出されたのは、瓶詰めされた代物


「……中を見てもいいのか?」

「かまわん」



 許可をとったので、ふたを開けると、そこからはほんのり香りでてくる甘ったるい匂い。

 これは不味いと思い、すぐに蓋をする。


 そして、周囲を見渡せば、この匂いは行き届かなかった安堵する。



「……というか、これを見つけてくるとは」



 たしかに、香料としてこういうモノがあれば、種類を増やせれるという話をした覚えはあるが、実際に探してくるとは……




「それを知った今では、さっそく試食してみたいと思ったぐらいだ」

「そうですね、ここまで甘い匂いとなると、わたしもお願いしたくなります」



 細長く、やや色が褐色になりつつある豆みたいなもの。

 種子は小さく細かいのだが、乾燥と発酵をすることで独特な香りを出す代物である。

 場所によっては、お香として用いられているそうだ。



「……にしても、よく見つけたな。いくらだ?」

「条件次第でロハでいいぞ?」

「……どういうこった?」

「貴様が使えば美味くなることは確定の匂いだ。私の感がそう言っている!」

「そうですね、ツヴォルグさんでしたら、美味く調理してもらえそうですしね」

「話だけで涎……いや、興味がつきなかったからな!」

「そうですよねぇ、話だけであれほどでしたから」



 ココアも偶然流通として入ってきたのを見つけ、それでチョコレートを作成しては雑談程度に話ていたのだが、本気で取り組んでいたのか?


 そりゃぁ、氷菓子から始まってドリンクまで、使い方は色々みたいな話はしたが……



「……わぁったよ、まずは試作してみっから、しばらくまっとけ」

「うむ!よろしくたのむぞ!!では、私たちも祭りを楽しもうか」

「そうですね」



 と、二人して蜂蜜酒を頼んでは冒頭の状況になってしまっていた。

 その顔は、どことなくやり切った表情とでもいうか……



 ……いや、ほんと女性のお菓子への執念って恐ろしいわ、マジで見つけてくるのな



 そう思いつつ、 瓶の中身を眺め見ながらエールを一口飲んでは、その執念に笑うしかく、その代物をみながら思った。

 似てはいるが、微妙に違うかもしれないが……






 この世界にも"バニラビーンズ"があったんだな。

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ツヴォルグ zaq2 @zaq2

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