第21話
祭
今、街の中では人々が行きかい賑わっていた。
建国記念日という奴である。
そういう事で、ひときわ賑やかになっている中、屋台巡りをしては腹を膨らませていっていた。
目ぼしい店に飛び込んでみては、自分なりに祭を楽しんでいた。
そして、飛び込んだ先の小さな演劇屋台。
演目が流れては、創世物語が語られる。
よくある救世主が現れて、邪神を退ける戦い──
魔族を率いて、亜人を率いて、人族を滅ぼさんとしてくる存在。
人は希望を絶たれ、神にすがった。
そうして、神は慈悲を与えるために、一つの希望を遣わした。
それが、使徒といえる救世主という存在は、苦しまれている人々を救い、亜人たちと説き伏せ、魔族の価値観を変え、そしてその根底にある邪神という存在を打破していく。
という、まぁ教会とか御伽噺で語られる創世物語の末章とでもいえる内容だった。
神話とか、そういう類で聖書などにも記載されているともいえ、逆境から仲間を募り、敵対していた者たちも取り込んでは、絶対悪を打破するという話である。
お祭り物語としては"ありきたり"な王道ではあるし、この世界において真実かどうかは、この物語を書いた奴に聞いてくれというところであろうか。
……あれだな、ベストセラーなファンタジー小説な印象でしかなかったがな。
それを吟遊詩人とでもいうのだろうか?
そういう演目を流している人形劇ではあったが、その凝ったギミックで見ている観衆を湧き立たせている。
魔法というものがある世界なので、演出に関してはこれでもかというほどリアリティに飛んでいたのが、印象的であった。
……ある意味、3D映画みたいなもんだな。
そう思いながらも、酒とツマミを抱え込みながらも、最後まで鑑賞しきっていた。
* * *
次は何をみるかとブラブラとする。
この日に稼ごうという魂胆が見え隠れしている露店をあさりだすが、あまりパッとしたものが見つからない。
ただ、祭りのにぎやかさを盛り上げようとしている露店もあるのは確かではあるので、客引きがあったり、行列があったり、人の足が止まる店もあったりと、多様ではあった。
……ま、普段とは違う雰囲気を楽しむというのは、どこであってもそういう感じではあるが、あるのだが
「……で、お前さんは、ワシに何させようってんだ?」
「いやぁ、ドワーフのおっちゃんならさ、アレ、狙えるっしょ?アレ」
ぶらりしてたところを、頭恋愛花畑の野郎に捕まっては引っ張り出され、酒を今日一日おごってくれるという言葉につられてついてきた先が射的のお店。
そして、景品というのが、これまた昨今の婦女子に人気があるという、流行りのペンダントとかいう代物。
つまり、その景品をとってくれないかという依頼であった。
そうして、店から渡される道具を一通りチェックして言えたことは……
「……無理だろ、コレ」
「出来るって!」
やらされる身にもなってみろ。
粗悪な矢と粗悪な弓。
限界にまで引き絞ったら、壊れそうな程に劣化している弓。
そして飛ばす距離的に20mぐらいか?ちょっと遠いか?
そんな距離を、こんなボロボロの弓でどうしろと?
さらに言えば、矢をみても矢羽すらまともに整っていない。
これではジャイロ効果すら働かずに、どこに飛んでいくかすらわからない。
「頼むよ……ジャクリーンちゃんにプレゼントするって言ってるんだよ」
「……また違う名前が出てきたのは気のせいか?」
「新しい出会いがあっただけだ」
「……それより、お前さんの所のハンターに頼めばいいじゃねぇか」
「いやぁ、用事があるっていわれててさ、お邪魔しちゃ、悪いだろ?」
「……はぁ」
でっかい溜息しか出てこない。
……ほんと、そういう所を自身に当てはめて気づけよと
「……ま、酒代分ぐらいはやってやるさ」
「もちろん、成功報酬だからな」
「……言ってろ」
一通り見分し、とりあえず矢の一本をつがえては様子見として試してみる。
弦の強度、矢の状態、とにかく弓のクセを確認だなと
渡された三本の矢。
三射の撃ち、二射は"捨て"とする。
一射目
弓のクセを知るために、軽く飛ばすと中間距離よりやや遠くに飛ぶ。
もちろん、方向など予想した所以外である。
二射目
限界値を見極めるために絞りを強くする。
矢に関しては、的の距離までは届くことは届いた。
飛んで行った方向は別にしてだが。
周りからは、「おしぃ」とか「とどいたぞ」とヤジが飛ばされてはいるが、そりゃぁ、貸し出された奴では届くことすらままならんだろうと。
三射目……の前に
「……店主よ、矢を吟味させてもらっていいか?」
「え?えぇ、それは構いませんが」
とりあえず、矢筒に含まれている矢を一通り確認する。
矢羽が不揃いというか、曲がり揃っていない中、比較的まともだと思ったものは、矢事態が曲がっていたり、逆に矢事態が真っすぐでも、矢羽がちぐはぐという状況。
その中から、矢が少しでも真っすぐなものを選ぶ。
そうして、矢羽を直に舐める様にツバをつけて、多少なりともクセを取り除くためにと湿らせつつも、気休めではあるが、ある程度ひずみをとってもおく。
……ま、鳥の羽を使ってるならば、これがちょっとした矢羽に対する裏技みたいなものでもあるのだが
射撃位置についた時、ギャラリーから熱い視線を受けている気もしたが、そこは気にしないようにする。
……そういや、遠い昔のサークル活動の時も、茶茶いれられたりの、そんな感じだったな
遠い記憶となった、昔の思い出を思い出しながらも呼吸を整え、
そうして、弓の限界ギリギリまで
呼吸を止め、身体の動きを止め、矢羽のクセ曲がりを考慮し
音が消え、景色が消え、己と目標以外には何も存在しない世界になった時、導の光の道が現れた時、
……
…
何か、変な感触が手に残っていたため、視線をむければ、砕かれた物が手の内に残っていた。
……すまねぇな、無理させちまったな
そんな、こちらの思いは
「すげぇ!」
「あの弓で当てやがった!」
「いや、あんな矢でど真ん中とか、すげぇ」
「やったぜ!おっちゃん!!」
周りの歓声でかき消された。
祭りの雰囲気も相まって、歓声にもにた騒動となり、手に入れた景品を頭上へと掲げみれば、さらに盛り上がっていた。
「……おい、酒代きっちり奢れよ?」
「ああ、男に二言はないぜ!まかせとけ!!」
そうして、ひと段落した時に、景品をそのまま頭お花畑へと叩きつけてやった。
叩きつけたのだが、店員が何か言いたそうに近づいてきたかと思えば
「申し訳ないのですが、あの、その弓の弁償を……」
「……あっ」
「あっ、それはしーらね、んじゃ、これ報酬な!」
といって、金貨数枚むりやりに手に握らせてきた脳みそ花畑野郎は脱兎のごとく消え去り、酒代になるはずの金貨は銀貨へと変わっていった。
ツヴォルグ zaq2 @zaq2
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