第20話

 頂戴した「魔呪符の札」


 現状わかっているのは、流通価格が高いという事と、貰ったものの効果がわからないという事。


 なら、少なくともどういったものか?と、駄犬野郎(の所に滞在すると思われる本人)に酒精がきつい物を手土産に聞きに行ったら(帰郷したので)わからんという形になった。


 こういったものは、生臭坊主に聞いてみればと言われ、果実漬けの酒を土産に行ってみたら、「あの果実酒を全部だってぇぇぇ」と泣きつかれたが、文句は駄犬野郎に言えとして、とりあえず札の効果は一枚物ではなさそうだが、よくわからん。という事で、今度は商業ギルドのババア・・・の方が詳しく知ってるだろ?と言ってきた。



 そうして、たらい回しでやってきたのは商業ギルドの支部長室。



 たらい回しでやってきた状況を、ありのまま素直に伝えると「生臭坊主は後でシめる」と黒いオーラみたいなのを噴出しながら宣言されたが、そこはあえてスルーして現物をみせてみた。



 で、結論からいえば、「ヴェルゼ家の新札じゃないか」と、あっさり判明する。



 詳しく話を聞いていくと、一昨年ぐらいから流通される様になってきた、新しい札らしく、しかもこれ、使い方次第ではヤバい代物では?というのが解った。


 簡単に言えば、魔術的な依り代の代替品でもあり、魔結晶の代用品にもなりうるオールマイティーカードみたいなものを高効率化したものと、それぞれが役割を分散させたもの。


 あれだ、電子ブロックのブロック部分がカードになったみたいなもんだ。


 けど、これらは魔道具界隈でいうとジョーカーというレベルの代物の扱いになってるとの事。



 普通、こういう札は何かしらの機能(お湯を出すなり、熱を発するなり、攻撃魔法的なもの)を持たせて、一枚で完結させるのが一般的である。


 だが、ヴェルゼ家の札は、その完結された機能を分散化させ、組み合わせる事で複数の機能を発露させるんだとか。


 燃素フロギストンの収集装置もあれば、熱を作るのもあり、冷やすのもあればと、使い用は色々あるとの事で、その1セットの12枚。


 つまり売り出したフルコンプの札というか一式セットで渡されたと。


 しかも、安価な使い捨ての代物ではなく、再利用できる様にしてある上高級品であるために、実際の価格は白金貨レベル(金貨1000枚以上)との事だった。



 価値としてさらにヤベェ奴じゃねぇか……



「あと、これお前しか使えん様になっとるな」

「……は?」

「使用者をこの段階で限定させておる。盗難防止の一環だろうとは思うが、なるほどなるほど、そういう方法もあるという事か」

「……なら、これを売ろうとしても」

「一般ではまったく売れんじゃろな。良くて研究用といったとこかの」

「……はぁ」

「モノとしては上級か最上級といったとこか。お?追加機能は後から付加できるようにワザと余裕も残しとる、こりゃぁいろいろ流用の幅が広くなろうて」

「……」

「しかもこの1セット、組み合わせ制限が無しとなっとるな。とんでもない代物じゃの、うらやましいのぉ」


 ケラケラと笑いながら札を一枚一枚調べてはそう言ってきた。


 興味本位から詳しく調べさせてくれと、目を輝かせては12枚を丁寧に調べては教えてくれるロリバb……尖り耳の女性。


 そうして、「これを、こっちにして、こうすれば・・・」と、渡されたのは札5枚が重ねられた……デッキ?


「重ねる順番次第じゃろが、これならこういう風に重ねて、お前さんの魔力を通してみ?」

「……お、おう」


 そうして魔力を流すと、光り輝く札。


「……うぉ、まぶしっ!」

「最初だけ流したら、あとは周りの魔素を使って光る照明じゃな。便利じゃろ?」

「……便利といえば便利だが、消すにはどうすりゃ?」

「真ん中の札をぬけばいい、そうすれば均衡が崩れて無効化される」


 そういわれて、ちょうど真ん中の札を抜くと光は消える。


「安価なのは、それで札が劣化して終わりじゃな」

「……なるほど」

「これ、組み合わせと使いようでは、便利なんじゃが、その組み合わせが多すぎてな、決まった組み合わせしか売れんのよな、この札」

「……なんだ、欠陥品か?」

「そうでもないし、そうでもあるの。じゃが、便利であるのは変わらん」



 ……確かに、いわれてみりゃぁそうだ。決まった使い方しかしないのならば、それで十分であるし、それ以外が売れ残るは道理というもんだからな。

 

 ただ、もらったのは一般的な物よりは上質で上等の札、しかもワシ専用。

 そもそも組み合わせなんて、こちとらサッパリしらんぞ?



「……で、これどうすりゃいいんだよ」

「好きにしたらいいのでは?組み合わせ表があったはずじゃが、探しておこう。ま、捨てずに持っておくのが吉だろうて、お前さんしか使えんわけだし」

「……とりあえずは、盗まれても痛くもないというのは分かっただけ、収穫としておくか」

「ところでだ、ここまで説明したのに、私への土産は無いのかの?」



 ほれ、ほれほれと、獲物を付け狙う獰猛な視線をうけ、背負子から冷凍ボックスと共に手土産を渡せば


「おおぅ、新作といわれてるコレは!チョコアイス!!」

「お茶をお入れしますね」



 と、二人の行動はとてつもなく速かったのはいうまでもないだろう。

 というか、女史さん?


 あなたいったいいつからそこにいたんだ?


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