第19話
ねみぃ……
カーンカーンカーンと鳴り響く警鐘の音に無理やりたたき起こされた感じで、朝日すら出ていない朝方、眠たい目をこすりながら外に出て様子を探る。
周囲は慌ただしくも人が駆け回っている自警団のメンツ。
他の住人は、窓から不安そうにしているが、状況がよくわらん。
街が火事でも起きたかとおもえば、そういう明るさや煙は立っていない。
ちょうど顔見知りが遠くから走ってきているのを見て、「何があったんだ?」と問いかけてみる。
「城壁の外に、魔物の群れがなだれ込んできてな、いま対応に追われてるところだ」
「……なんだ、何時ものか」
「まぁ、この季節になると、繁殖の為に移動する厄介な奴がいるからな」
「……迷惑すぎるだろ」
繁殖時期になると、大型の魔物が相手を求めて移動する事がある。
その移動の際に、中型や小型の魔物は、大型に目をつけられないようにと、逃げ出すのである。
その逃げ出す先に、たまーにこういう風に巻き込まれる格好になる場合がある。
まぁ、田畑や街には魔除けの呪具が備え付けられているので、その場所が荒される事はないが、大型には効果が効かない。
その為、常駐している衛兵や組合員は、大型に警戒するために駆り出されては、警戒網が敷かれるという訳である。
「……ご苦労なこって、そうだ、ちょっとまってろ」
「???」
倉庫に入っては、棚をあさる。
たしか、ここらへんに余ってたのが……あったあった。
まぁ、大量に仕入れてはみたが、あんま旨くなかったからなぁこれ。
それと、おまけにこれをクッションの入ってる木箱に詰め替えてっと……
引き車(大八車ともいう)に乗せてっと……
「大荷物か」
「な、なんだ?」
「……まず、これは傷薬の軟膏だ。作りすぎて腐らせるよりかはいいだろ」
「おお、それは助かります」
「……んで、頑張ってるお前らに、気付け薬の代わりをくれてやるからもってけ」
「えっ?先輩、これって酒じゃ」
「……違う"薬"だ”気付け薬”いいな?一市民の善良なる寄付って奴で通しとけ」
「大丈夫かなぁ?というかおっちゃんが善良な市民か?昼から飲んだくれてる癖に」
「……うるせぇ。役得と思っとけや。なんなら、隊長にワシの名前だしとけ」
隊長の奴は結構やり手だからな、上手い事してくれる確信はある。
なんで、不良在庫にしてるよりかは、良いだろうと在庫処分セールである。
ついでに、口に合わなかった甘口の酒を処分できて一石二鳥である。たぶん。
「では、いただいておきます」
「……そうしとけ、そうしとけ」
そうして、大八車を押し引きする二人の衛兵を見送っては、二度寝を決め込むために戻る。
ほんと、ねみぃ……
* * *
『此方であるか?』
『は、はい……』
『ふむ、では案内、ご苦労である』
『いえ、その任務でしたので……』
お天道様が登っては、少し明るくなってきたころ、やけに外が騒がしいなと気づいては身体を起こす。
『頼もう!』
という声と共に、ドアノッカーをたたく音が鳴り響く。
「……なんだぁ?朝っぱらから」
『おお、貴殿であるか、この素晴らしい酒を持っていたというのは』
……なんだ?まだ夢の中にいるのか?
目の前にいるのは、ツノをはやした人もどきの人物。
いうなれば、魔族とも、魔人族ともいう奴である。
しかも、会話が独特な感じで
後ろの衛兵に視線を投げかけては、どういう状況かと話を聞くと、なんでも、今回の上位魔物を退けた、というか偶然にも賓客?視察?としてこの街に来ていた上級魔族様が、暇を持て余していたので対応してみたとか何とか。
で、大型魔物を処理した後の祝勝を兼ねての酒を振舞ったら、偉く気に入ったらしく、その仕入先を聞かれて案内したとか何とか。
「……なんでワシんとこに連れてきたんだよ」
「いや、そうでもしないと、帰らないとか言い出して」
「……なんでだよ」
「代官様は「つれいっても大丈夫だろ?」とかで許可も出されたので」
「……あんのクソ駄犬野郎」
なんとなく読めてきた。
あのフォーマルモノクル獣人の野郎、こっちに全部投げやがったと。
酒絡みだから、何とかなるだろうと。ふざけんなよ
『して、話はおわったか?この酒をもう少し分けてほしいのだが?』
「……あ、あぁ、そりゃぁ構わんが、そんなに数はないぞ?」
『ふむ、いかほど?』
「……ちょっとまってな」
倉庫を漁ってみつけだしたのは、12ダースの木箱が1つ。
それを伝えるや否や、全部買い取ると。
「……これは、どうしたらいいんだ?」
「判断は、お任せすると……」
「……あいつ、本当にぶん投げてんな」
まぁ、これも神官オーガの奴に残してたやつだが、まぁいいだろ。
フォーマルモノクル獣人の奴が悪いので、そっちに文句言わせてやる。
仕方ない……
「……全部タダでいい。在庫処分したかったからな」
『なんと!それは嬉しい話であるのだが、それはそれで問題があっての……』
そういって、懐から何かしらの紙を取り出しては、筆で何かを書き出した。
『対価として、この札を遣わそう』
札を手渡されたので、むげに断れる訳でもないので、受け取る。
ただ、わたされたものが何かがさっぱり……
『魔呪符の札だ。我が一族のオリジナルである』
……
…ちょっ待てや!
一般市場価格でも一枚金貨百枚以上はくだらない代物じゃねぇか!
しかも、オリジナルっていうと、どんくらいの価格が付くかわからんやーつ……
それが12枚。
ついてきた衛兵もビビる。
ワシだってビビる。
というか、これを簡単に作れるって事は、結構な地位の魔導士とかじゃねぇか。
「……結構価値があるものじゃ」
『そうかもしれんな、だが、我にとっては、この美味い酒に巡り合えた事の方が重要、それに、貴殿はなかなかの目利きと見た、先行投資でもある』
「……はぁ、といってもアレは偶然手に入ったもんで、同じのは二度と手には入らないぞ」
『ふむ、つまり今回はこの幸運の出会いに恵まれたという訳であるな。良きかな良きかな』
そういっては、木箱を衛兵に持たせて、わけわからん奴は『
ただ、茫然と見送る格好のワシ。
手には、12枚の札。
……よし、寝よう
とりあえず、夢であってくれと思いつつ三度寝を決行する。
夢であってくれ、頼むから……
こんなあぶねぇもん持ってたら、気が気でならねぇよ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます