19-2 王子様を追え
正門前で大人女子ファン三人組につかまった、ピアノの王子様こと
〔松〕「
彼女の加奈―通称・エロカナ―と暑苦しく腕を絡める
珍しい人物からの呼びかけに、
〔加〕「野獣どうしたよ。もしかして一緒にいるのお母さん」
先に松尾と目が合った加奈が、獅子舞のような両の眼をぎょろりと見開いた。
〔客D〕「あらやだ、お母さまだなんてそんな♡」
〔客E〕「ほほほ」
〔客F〕「野獣ですって。素敵なニックネームですこと。松田さんにとてもお似合いですわ」
〔松〕「母ではありません。
野獣がお似合いだなんて最低だと思いつつ、松尾は二人を手招きした。
〔加〕「何でさっさと逃げねえんだよ」
〔松〕「正門前で待ち合わせをしているので、逃げるに逃げられなくて。スマホを部室に置いてきちゃったから」
松尾と加奈がひそひそ声で交わすと、
〔天〕「スマホを取りに行ってくる。後五分耐えろ」
土煙を上げる勢いで部室方向に駆け去った天河を見送ると、加奈が松尾の上腕に頭を寄せる。
〔加〕「よっしゃ。それじゃウチが野獣彼女の振りをして、ババアどもを蹴散らしちゃる」
〔松〕「ややこしいことになるからダメ!」
〔下〕「まっつん、しほりんさん見とらん」
〔赤〕「昼休みにしほりんとデートに行くんじゃなかったの。何でまだここに」
三人の大人女子と加奈から微妙な距離を取る松尾。そこに、
〔客D〕「やっぱりデートですって」
〔客E〕「そうよね。若い男の子ですからねえ。ホホホ」
〔客F〕「でも心配だわ。早く留学して音楽に専念された方が」
〔客D/E/F〕「私たちみんなで松田さんを守らなくっちゃね」
〔松〕「(守らなくていい)」
【苦手なもの 母性・束縛・詮索 女の子のタイプ ウザくない子(正直疲れた)】とプロフに書いた事を松尾は思い出すと、肩を落として大人女子三人組を横目でちらりと見た(※)。
〔赤〕「それで、松田君がさっき弾いた曲って何だっけ」
〔松〕「『展覧会の絵』ですが。それが何か」
〔赤〕「ああそれそれ。あれを聴いたしほりんが、切れ気味で出て行ったきり見当たらなくて。連絡も戻らないし」
〔松〕「ああっ、そうかよりにもよってあの曲か」
松尾は三秒ほどフリーズすると、いきなり叫んでしゃがみこんだ。
〔赤〕「大人しく帰ったなら安心だけど、過呼吸の発作が起こると
〔松〕「資格って」
〔青〕「しほりんは保育士になるつもりなんだ。ピアノが弾けるから有利なんだって」
そうでしたかと一言つぶやくと、松尾は放心したように一点をみつめた。その一点から、天河の姿がみるみるうちに近づいて来た。
〔天〕「はいスマホ。
〔仏〕「松尾。うちの父親が昼飯を差し入れるって。あの逆恨み女(
松尾がスマホを受け取ると、部室とは反対側から歩いて来た仏像が松尾を呼んだ。
〔客G/H/I〕「ぎゃーっ。カッコいいーっ」
ぎょっとした仏像が声の出どころを思わず探すと、大学生ぐらいの女子三人連れがスマホのカメラを仏像に向けていた。
仏〕「うわっ、誰が俺のファンを呼んだんだよ。松尾、逃げるぞ」
二年前の『
〔客G〕「ロトエイト様ああああっ」
〔客H〕「ロトエイト様ああああ。チェキ撮ってえええ♡ そこのロン毛どけ」
韓流アイドルの警備員を見るような目が、仏像に向けられる。
〔仏〕「えっ、ロン毛って俺の事?!」
『
元スノボ全米&ワールドジュニアの二冠に輝いた彼は、仏像コスプレをするために伸ばした髪をいじりながら目の前の女子を凝視した。
〔客I〕「むしろ半額処分のワカメ? どいて、邪魔」
〔客G/H/I〕「ロトエイト様ああああっ」
女たちは仏像を押しのけて、仏像の後ろを歩いていたロトエイトこと
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
※松尾のプロフが知りたい方はこちらの回をどうぞ→https://kakuyomu.jp/works/16817330659394138107/episodes/16817330659394756389
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