『落研ファイブっ―何で俺らがサッカーを?!』
モモチカケル
一並高校落語研究会 解散
1-1 群馬から来た男がそばを食べた訳ではない(上)
『そばと一口に申しましても、色々な種類があるものでして』
ここは横浜港を見下ろす丘にそびえる私立
『かつおにサバ節が良い味出してらあ。ネギがぷうんと香るのも最高だ』
山桜の花びらがはらはらと落ちる中、古典落語『時そば』を
ジャカルタ育ちのパンダフェイスがずるりずるりと『そばをすする』と、
〔シ〕「
人気動画配信者『みのちゃんねる』としても知られる高校三年生は、赤い着物に身を包んでいる。
〔三〕「にぎわい座で、
シャモにあいづちを打つのは、クラスメイトでもある
〔仏〕「なあ、二人とも。
スノーボードの全米/ワールドジュニアを制した仏像は、なぜか仏像フェチが過ぎて今では『仏像』と呼ばれている。
〔三〕「俺の『│
〔仏〕「でも、
※※※
『オヤジさん、お代はいくらだい』
『十六インドネシアルピアね』
『そんなに安くていいのかい。今時珍しい太っ腹な店だ、ありがたいねえ。ちなみに本日のルピア円レートは1円=1816.07インドネシアルピア。僕お勧めのジャカルタのタピオカスタンドは』
※※※
〔シ〕「何でジャカルタネタを勝手にぶっこむんだよ。どこが笑い所だ。仏像、残り後何分。
〔仏〕「残り時間三分切った。この調子じゃ『時そば』のサゲ(オチ)までで持ち時間使い切る。あいつジャカルタネタを勝手にガンガンブッコミやがって。後三分でどうやってサゲ(オチ)までたどり着く気だ――。後二分三十秒。どうする」
〔三〕「行くしかないっ」
※※※
〔三〕『あ、さって。あ、さって。あ、さってさってさってさって。さては
〔シ〕『目ン玉がいつもより大きく回っておりますーっ。はい寄り目ええっ』
たわわな腹を揺らしながら玉すだれを
〔三〕「ヤバい、シャモ、吐く」
『時そばジャカルタ編』を何事も無いかのように語り続ける
〔シ〕「舞台袖まで耐えろ
〔シ〕『ステテコシャンシャン! ステテコステテコ! ステテコシャン!』
〔餌〕『こりゃひもかわうどんみたいなそばだねえ。ちくわも
明治時代にバカ受けした伝説の
〔餌〕『オヤジさんも一緒に金を数えておくれよ。行くよ。
餌の時そばジャカルタ編とシャモのステテコ踊りは、
〔仏〕「無反応が一番キッツいんだよな。どうすんだコレ」
ゼロのゼロはゼロ。一切はゼロである。
笑いどころか、
〔放〕『残り四十秒』
放送部のアナウンスと
〔仏〕「こんにちは落語研究会です。
一息で言い切った仏像が、他校の女子を一瞬で落とす伝説の女子
〔餌〕『お後がよろしいようで。サンパイ ジュンパ ラギ(ではまたね)!』
〔放〕『十分経過しました。落語研究会の皆様、速やかに
やり切った顔で
〈視聴覚室〉
〔シ〕「
〔仏〕「そう言えば
〔シ〕「何にも。
〔シ〕「トイレに間に合ったか。そりゃ良かった。それはそうと、新入生に見せるDVDはこれでいいだろ」
〔三〕「ああ。それで良い。今年はどれだけ申し込みがあるかな」
〔シ〕「申し込みがあると思うのか、あの
〔三〕「言うほどひどかねえや」
〔餌〕「そうですよね。僕の『時そばジャカルタ編』は会心の出来でしたし。
〔シ〕「お前が何の相談もなくいきなりジャカルタネタをぶっこむから、段取りが全部ぐちゃぐちゃになったっての。何でそんなに前向きなんだよ」
〔餌〕「だっていつも前だけ向いてニコニコ笑っていれば、最後には勝つって父さんが」
〔シ〕「鳥の
〔餌〕「まだ父さんの人生は終わってないから大丈夫なんです」
〔シ〕「どんな教育受けたらそんな
シャモはそれきり黙ってDVDを見た。
※※※
〔仏〕「応募来たまじかよ。えっ、ナニコレ」
DVDで流れる『
〔シ〕「何この
〔三〕「いや。両方
〔シ〕「知らねえよ。俺は
応募者のプロフに目を通しながら、シャモが首をひねった。
~~~
出身校 群馬県私立聖ウルスラパウロ(中略)ヨハネバルトロメオ
入部動機 絶対に運動をしたくない
特技 呼吸(一分一呼吸)
好きな食べ物 ページヤの牛三種メガ盛り弁当
怖いもの ページヤのチョコカスターいちご味
地味にイラっとするもの 母校の名前
座右の銘 今を生きる
苦手なもの 母性・
女の子のタイプ ウザくない子(正直疲れた)
~~~
〔シ〕「『まんじゅうこわい』を知ってるって事だよな」
〔三〕「まあ、アレは『時そば』と同じぐらい有名だから」
怖いものの
〔仏〕「そもそも『ページヤ』って何。チョコカスターいちご味って結局何味なんだよ。チョコなのかカスタードなのかいちごなのか」
〔シ〕「いちご味って書いてあるじゃねーか」
仏像の突っ込みに、耳をほじりながら答えるシャモである。
〔餌〕「学校名が『
〔仏〕「あのな、やっぱりこいつ断った方が良い気がする」
〔シ〕「何で。他に新入生は来ないかもよ」
〔仏〕「苦手なものが『母性・
〔シ〕「それを言うなら仏像のプロフだって
〔仏〕「お前らの合コン相手を誰が見つけてやってると思ってんの」
先輩を先輩扱いなどしたことも無い二年生の仏像は、三年生二人相手にすごむ。
〔シ〕「サーセン。
〔三〕「
〔餌〕「
シャモと
〔仏〕「こいつ俺とキャラかぶりするなら断るから」
〔シ〕「仏像らしくも無い事を。仏像級のカッコ可愛いイケメンって正直なかなかいねえのに」
〔三〕「仏像ってアイドルになったら天下取れると思う」
〔餌〕「いよっ! 『
〔仏〕「俺が超カッコ可愛いイケメンなのは自他ともに認める所だが、その呼び名は
〔三〕「それはともかく、
仏像はしぶしぶうなずいた。
〈翌日 視聴覚室にて〉
〔仏〕「
〔三〕「さあな。入部志望理由が『絶対に運動をしたくない』だから、案外
〔シ〕「匂いがこもるんだよここ。シューマイ臭いって放送部の奴らに嫌味言われるの俺なんだよマジで」
『全部聞こえてますよ』
唐突に、
〔シ〕「いるなら言ってよ」
視聴覚室後部のミキサー室に向かって手を振ると、放送部の部長である
〔青〕「落研さんの入部希望者は何名ですか。うちは六名です。うちもオリエンテーションで
〔三〕「うちは一人だよ。早めに切り上げるわ。そいつがちゃんと来ればの話だけどね」
〔青〕「人気部活の落研が新入部員たったの一人とは。まったくもって
〔シ〕「誰が来るもんか。あの部活説明会の
部活動説明会の仕切りをこなした
〔青〕「でも少なくとも一人は、そんな
〔仏〕「
〔青〕「
〔仏〕「いいぜ。俺の嫌な予感が当たるようなら、そいつを放送部で引き取ってくれ」
〔シ〕「そんな事したら今年の新入生がゼロになっちまうだろ。ダメだって。
シャモと仏像がぎゃいぎゃいと言い合っているうちに、がらりと視聴覚室の引き戸が開いた。
〔松〕「群馬から来ました。一年七組
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
※読みやすさ優先のため、上下に改稿(2024/2/29)
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