『落研ファイブっ―何で俺らがサッカーを?!』

鈴木裕己(旧PN/モモチカケル)

一並高校落語研究会 解散

1-1 ようこそ、一並高校へ

『そばと一口に申しましても、色々な種類があるものでして――』

 ここは横浜港を見下ろす丘にそびえる男子高。私立一並ひとなみ高校体育館。

 現在行われているのは新入生向け部活説明会(各部持ち時間十分ずつ)。

 一日目午後のトップバッターを務めるのは落語研究会だ。

 ちなみに大会実績などは一つもない。そもそも大会に出た事すらない。


『かつおにサバ節が良い味出してらあ。ネギがぷうんと香るのも最高だ』


 山桜の花びらがはらはらと落ちる中、古典落語『時そば』を披露ひろうするのは二年生の伴太郎はんたろう―通称『えさ』―。

 小三までジャカルタ育ちとは思えぬ手付きで扇子を箸に見立てると、ずるりずるりとそばをすする。


 すると、開け放たれた窓から吹き込む山桜やまざくらの花びらが、花かつおに早変わり。

 パンダグッズが大好きすぎて顔までパンダに寄せて来た小柄な彼は、全身を大きく使ってそば屋台の人間模様を描き出している。


「なあ三元さんげんえさの『時そば』はかなり良いな」


 舞台袖ぶたいそでで腰をかがめながら隣に立つ同級生・三元さんげんにささやくのは、三年の岐部漢太きべかんた―通称『シャモ』―。

 人気動画配信者『みのちゃんねる』としても知られる彼は、やや猫背でやせ型の長身を赤い着物に包んでいる。

 シャモのような寝ぐせのついたソフトモヒカンは今の所黒い。だが、またいつ赤髪に戻すか分からない。


「シャモもそう思うか。にぎわい座で小柳屋御米こやなぎやおこめ師匠ししょうの『時そば』を聴かせたのが効いたな」


 シャモとともに出し物をする三元時次さんげんときじは、落研一の落語通。

 演芸好きの祖母の影響で、小さな頃から近所の演芸施設・横浜にぎわい座に入り浸っている。

 信楽焼しがらきやきのタヌキにピンク色の着物を着せると、三元さんげん影武者かげむしゃの出来上がりだ。


「なあ、二人とも。落研うちの持ち時間が残り四分を切ったんだけど。予定よりかなり押しているぞ。どうする」


 三元さんげんに声を掛けたのは、二年生の政木五郎まさきごろう―通称・仏像―。中学時代に『スノボの王子様』と騒がれたリアルイケメンだ。


 スノーボードの全米およびワールドジュニアを制したアメリカ育ちの仏像は、諸事情でスノーボードと決別し、ひっそりと落研に生息中。


 全国成績優秀者リストに入るレベルの文武両刀っぷりの上に、モデル経験まである彼は、なぜか仏像にドはまり中。

 仏像フィギュアを自作し、仏像ヘアを再現するために髪を伸ばしている執心ぶりに、今では『仏像』と呼ばれるようになっている。


「案ずるな仏像。俺の『│眼筋玉がんきんたますだれ』はほぼ一発芸。一分あれば十分だ」

「でも、えさの様子が何かおかしい。良く見ろ」

 三元さんげんとシャモは、改めて『時そば』を演じるえさに目を向けた。


 仏像の第六感はよく当たると有名だ。果たして今回も仏像の第六感は正しく機能するのか――。

 餌が演じる『時そば』は、一文銭を一枚づつ出しながら勘定を始める有名なシーンへ差し掛かっていた。


『ああ、こんなに美味いそばを食ったのは初めてだね。ごちそうさん。オヤジさん、お代はいくらだい』

『十六インドネシアルピアね』


(十六インドネシアルピアって何だよ!)。

(あいつ、やりやがった!)。

(オイオイ、どうサゲる気だ)。


 シャモに仏像そして三元が無言で焦る中、餌は全くのマイペースで『時そばジャカルタ編』を演じ続けている。


『そんなに安くていいのかい。今時珍しい太っ腹な店だ、ありがたいねえ。ちなみに本日のルピア円レートは1円=1816.07インドネシアルピア。僕お勧めのジャカルタのタピオカスタンドは』


「何でジャカルタネタを勝手にぶっこむんだよ。どこが笑い所だ。仏像、残り後何分。三元さんげんと俺の出番確保できそう」


「残り時間は三分を切った。まずいぞ三元。このまま行けば、『時そば』のサゲ(オチ)までで落研の持ち時間を使い切る」

 ストップウォッチ片手にささやく仏像。


「ジャカルタネタを勝手にガンガンブッコミやがって。後三分でどうやってサゲ(オチ)までたどり着く気だ」

「後二分三十秒。このまま餌一人で落研の持ち時間を使い切る訳にもいかねえだろ」


 ひそひそ声で仏像と言葉を交わした三元さんげん

「シャモ、行くぞ」

 アコーディオンを引っさげたシャモを連れておもむろに舞台へと踊り出た。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

※読みやすさ優先のため、上下に改稿(2024/2/29)→一部加筆(2024/8・24)

→再改稿及び題名変更(2025/4/10)

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