28-3 ペン回しW杯
こちらはモナコ・モンテカルロで開催中のペン回しワールドカップ会場。ついに『ロトエイト』こと
DJのような司会がひときわ高く『ロトエイト』とその名を叫ぶと、ハッピハチマキ姿の一団から『ロトエイト』と『ニッポン』コールが鳴り響く。
ペン回し個人フリースタイル日本代表のロトエイトこと
〔シ〕『さあペン回し個人フリースタイル日本代表のロトエイト、ここモナコ・モンテカルロにて絶対に負けられない戦いの火ぶたが切って落とされます』
富士川Pがカメラを回す中、シャモが仕事人の顔になって実況を始める。その隣には解説としてペン回し協会の
松尾はまるで黒子になったかのように気配を消して、ロトエイトこと麺棒眼鏡を見つめていた。
〔シ〕『ここはモナコ・モンテカルロ。日本代表ロトエイト。絶対に、絶対に負けない!』
文化祭でペン回しを披露した時と同じ曲が掛かると、ロトエイトはいつもの麺棒眼鏡とは別人のようなオーラで会場を圧倒する。
〔シ〕『スムーズな入りですね、筆豆さん』
〔筆〕『はい。ダイアゴナルスピナーからバックステップダブルスピン。いつも通りの完璧な出だし。ロトエイト夢幻ターンもスムーズですね』
解説を務めるペン回し協会の筆豆理事も、ロトエイトこと麺棒眼鏡の出来に満足げだ。
〔客〕『
〔シ〕『ロトエイト選手の必殺技。『黒鳥』そこからの『パ・ド・トゥ』。見事に決まりました。大きな歓声』
〔筆〕『そして最後は二回転ひねりスピナーからクロスキャッチ――。E難度級の大技が決まったあっ!』
一瞬の静寂の後、はじけ飛ぶような歓声が会場を包み込んだ。
〔シ〕『これは凄いものを見せられました。日本代表ロトエイト選手の名演技。優勝どころかワールドレコードが出るのでは』
〔筆〕『おっと出ました。これは凄い! ワールドレコード更新!』
〔シ〕『ペン回し個人フリースタイル日本代表のロトエイト! ワールドレコード更新で、続くドイツ代表にプレッシャーを掛けます』
爆発的な歓声が会場中に鳴り響く中、ロトエイトこと麺棒眼鏡は優雅にお辞儀をしてみせた。
※※※
そしてこちらはペンション『モナコ・モンテカルロ』にて。
一同は、公式のディレイ映像を見ている所だ。
〔多〕「すごいな麺棒君。すっかり大スターだね」
〔仏父〕「五郎君も手先が器用だからやってみたらどう」
〔仏〕「やらねえ」
仏像は目の前に配られたオーナー特製のクレームブリュレをつつきながら答える。その隣では井原れんが、スマホで公式サイトのロトエイト紹介ページを開きつつ、大画面に映し出されたロトエイトに見入っている。
〔うい〕「文化祭の時と同じコスチュームだら。音楽も」
〔れん〕「ういちゃん、静かに」
れんの一言で、ういだけではなくその場にいた全員が食い入るようにロトエイトへと視線を集中させる。
ビッグビートに合わせてロトエイトこと麺棒眼鏡が動き出すと、そこから三分程度の演技時間は感嘆に次ぐ感嘆で見る間に過ぎ去った。
〔多〕「しかし度肝を抜かれたなあ。文化祭の時は死角になってちゃんと見れなかったんだ」
〔大〕「
〔仏〕「俺は『あの人は今』枠なので除外で」
仏像は自嘲的に笑うと、ちらりとれんに目をやる。手元のデザートスプーンをペンに見立ててもてあそんでいるれんに、仏像は手持ちのペンを黙って差し出した。
〔れん〕「ロトエイト様、すごかったのら……」
れんは仏像が差し出したペンに構う事も無い。スマホでロトエイトのリプレイ動画を見るその顔は、湯上りのごとくに上気していた。
〔仏父〕「あれ、ゴー君。まだ夜食があるよ」
〔仏〕「いや、ちょっと眠気が来た。先に休ませていただきます」
仏像はリビングでロトエイトの感想を語り合う面々を置いて、一人ベッドへと向かう。
〔餌、今時間ある?〕
そして無表情の仏像は、SNSをシンガポールにいる餌に投げた。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。作中のペン回しシーンの技やレギュレーション等についても筆者の創作であり、実際のペン回し大会等に則ったものではありません。
※ロトエイトの使用曲はUnderworldの『Born slippy Nuxx』をイメージしています。
※麺棒眼鏡のモブキャラ時代→https://kakuyomu.jp/works/16817330659394138107/episodes/16817330659395428548
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