14 首長族の子
〔松〕「コンクールより緊張している僕がいる」
〔長〕「それはおかしい」
松尾のコンクール――通称・生き地獄――の観客でもあった
声の主は落研メンバーと言っても差し支えない放送部の飛島である。
〔餌〕「万一会場が冷えても仏像が何とかするから」
餌がくすくすと笑う後ろで、放送部からの助っ人である
時は午前十時五十七分。
訳あって
〔葛〕「師匠、こっちこっち」
人間国宝・
〔葛〕「この太鼓は津島の若さんが」
〔中〕「ええ。若さゆえか津島家の血筋か、とにかく頭の周りが抜群に早くて何でもすぐに覚える子でしてね。津島の旦那様も招待するようにと伝えたのですが」
誉め言葉を裏切るように、会場を見渡した
〔飛〕「それではこれより、
人間国宝に落語界の長老が見守る中、舞台の幕がゆるゆると開いた。
【
トップバッターである『
〔松〕「
〔餌〕(だからそこは首長族じゃなくて首長鳥の
舞台袖で
〔松〕「鶴の
〔仏〕(首長鳥の
それじゃ演目が『つめ』に変わるだろうと、仏像は体を二つ折りにしながら笑いをこらえている。
〔松〕「
※※※
〔シ〕「あーあー、
客席のシャモは思わず頭を抱えて耳をふさぐ。
〔あ〕「え、
客席のシャモの隣で松尾版『つる』を聞いていたあさぎちゃんは、一つも違和感を感じていない様子である。
〔葛〕「強引につじつまを合わせて話を成立させるとは……。さすが世界を制した天才ピアニスト。舞台慣れがすごいやね」
〔中〕「ひとたび曲を弾き始めたら、間違えようが虫歯がうずこうが弾き切るしかないですからねえ」
自らも得意とする演目『つる』が複雑骨折を経て野生に戻ったような出来に苦笑いで、両師匠は堂々たる姿勢で下がる松尾を見送った。
落語を知らない人にはなじみのない演目であったことが幸いし、松尾版『つる』をあっさりと受け入れた会場。
〔松〕「カンペを持ち込めばよかった」
松尾が舞台袖にはけた途端に崩れ落ちると同時に、元野球部アルプス席所属の今井が舞台中央へと向かった。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
※『時そばジャカルタ版』はこちらから
https://kakuyomu.jp/works/16817330659394138107/episodes/16817330659394756389
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