13 ガールミーツボーイ?

〔下〕「『うさぎ軍団』さんをお招きしたっす。整理券を四枚お願いしまっす」

 父と肩を並べて遠ざかる井原いのはられんを仏像が無言で見送っていると、下野しもつけがビーチサッカーチーム『うさぎ軍団』を引き連れて来た。


〔松〕「藤沢さん?! えっと、先日はどうもありがとうございました。お怪我の具合は」

〔史〕「大事ありません」


 下野しもつけの後ろで気配を消していたピンクうさぎこと藤沢史帆理ふじさわしほりと目が合った松尾は、あたふたしながらぺこりと頭を下げる。

 対する藤沢史帆理ふじさわしほりは、不自然なほど機械的だ。


〔松〕「お時間がありましたら、寄席よせの終了後に少しお話をさせていただきたく。正門前でお待ちしておりますので。えっと、これ僕の名刺です」

〔赤〕「おいおいナンパか」

 赤うさぎがしどろもどろになる松尾をからかっていると、意外な人物が松尾の視界に入った。



〔松〕「二人とも病院は。それに入場許可証はどうしたの」

 叔母である春日千景かすがちかげに連れられた父母の姿に、松尾は目を丸くする。


〔松尾父〕「政木まさき君からお誘いがあって」

〔松尾母〕「臨時休診にしたのよ」

 群馬県某所で小児科と心療内科を営む父母は、めったなことでは家を空けない。

 その二人がわざわざ休診にしてまで文化祭に来てくれたと言うのに、自分の役回りと言ったら――。


〔松〕「何でよりにもよって『これ』に来たの。仏像さんも千景ちかげおばさんも僕に内緒でひどい」

 松尾はがっくりしながら整理券を三人分発券した。



※※※



〔長〕「開演十五分前です。そろそろ撤収てっしゅうをお願いします」

〔三〕「片付けは代わってやるから行けよ」

 長津田ながつだ麺棒めんぼうえさと仏像に松尾を呼びに来たのと同時に、老人たちを引き連れた三元さんげんがやって来た。


〔仏〕「三元さんげん、シャモを見てねえか」

〔み〕「ほらそこにいるよ。ありゃ女難の相だね」

 三元さんげんの祖母であるみつるが、あごでシャモの方向をしゃくった。




〔シ〕「二人とも、悪乗りもいい加減にしてよ」

 全くもってうれしくない両手に花状態で、シャモはほうほうの体で松尾たちの元へとやってきた。


〔う〕「典型的な三枚目寄りのモテ男ですな」

〔葛〕「口の上手い男に女が弱いってのは、いつの世も変わらないね」

 松脂庵まつやにあんうち身師匠と葛蝉丸かずらせみまる師匠が、苦笑いしながらシャモを見る。




〔麺〕「シャネルの五番。オー・ド・パルファム」

 牛筋のような太もももあらわにミニフレアスカートをひらつかせる竜田川千早たつたがわちはやの姿を認めた麺棒眼鏡めんぼうめがねの第一声である。


〔長〕「ん? この匂いは。γ‐デカラクトンにγ‐ウンデカラクトンか」

〔麺〕「ピーチ、ココナッツにキンモクセイ。『女学生の香り』を補ってまで……。この女」

〔長/麺〕「狩る気だ」

 大真面目な顔で声をそろえた二人は、シャネルの五番にかき消されそうになるあさぎちゃんの香りを特定した。


〔い〕「二人ともいい加減にしなって。みのちゃんが昼前からしなびちゃってんじゃないのさ」

〔餌〕「おおおおお、森崎いちご様ああああ♡ ねえねえ仏像、僕出番ギリギリまでいちご様と一緒にいるから先に行ってて」


〔仏〕「ダメに決まってんだろ。行くぞ」

〔餌〕「パンダ(餌)君、ちゃんと見てやるからお友達と一緒に舞台に行きな」

 えさの女神である熟女の星・森崎いちごは、餌に向かって気だるげに手を振った。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。


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