『続・落研ファイブっー何で俺らがこんな目にー』

モモチカケル

頼む、夢であってくれ

エピソード0 スノボの王子様 殴られる(物理)

 ここはかつてスノボ全米・ワールドジュニアの二冠に輝いた男の聖域。

 なんやかんやの末にスノボと決別し、落研に逃げ込んだはずがビーチサッカーをやる羽目になった男・政木五郎まさきごろう―通称・仏像―の自室。

 時は二学期の始業式当日の午前四時。


「父さん、俺をフレンチトーストで起こすのはやめろおお。ほっぺぺちぺちすんなあああ。起きる。起きるからあzzz」

 現在高校二年生の仏像は、父特製フレンチトーストの幻影げんえいにうなされている。

「熱っ、何するんだよおおzzz」

 あまりの暴れぶりに、毎晩ベッドを共にするお手製の如意輪観音にょいりんかんのん像が転がり落ちる。

 仏像フェチとしてあるまじき失態だが、悪夢真っただ中の仏像はこの非礼に気付く風もない。


 『女子地引網』『全自動女子どもホイホイ』『スノボの王子様』の異名をとる王子様キャラの仏像。

 だが、熱々フレンチトーストと戦うその顔は、いつもの文武両刀王子様キャラからは予想もつかない醜悪さだ。

「朝四時にフレンチトーストで起こすなって言ったろ。家出するぞ。ほっぺにくっつけるなって、ぺちぺちいやあああっ」

 寝言をのたまいながら布団をはねのけようとした仏像の動きが、次の瞬間ぴたりと止まる。


「な、何じゃこりゃーーーーっ!」

 目を覚ますと、布団がメープルシロップまみれのフレンチトーストになっていた。


※※※


「だ、何で俺の布団が。で、出られねえ。べとべと。くっつく。父さん、マミー、誰か、助けてえええ」

 フレンチトーストと化した布団にゴ〇ブリホイホイのごとく捕まってあがいていると、ピアノの音色がどこからともなく聞こえはじめた。


「ま、松尾。いるのか。ピアノを弾いてる場合じゃねえええええ。たーすーけーろおおお」

 落研の後輩にして天才ピアニスト・松田松尾まつだまつおが弾いているのは、ショパン作曲の『アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22』。


「松尾、頼む。布団を、布団があああ。フレンチトーストにいいいい」

 幼児のようにたどたどしい口調で助けを求める仏像に、文武両刀ぶんぶりょうとうイケメン王子様キャラの面影おもかげはまるでない。


「松尾おお、ピアノと俺とどっちが大事なんだよー、ってあれ。うちにピアノなんてねえぞ」

 ピアノの無い自宅から生ピアノが聞こえてくる違和感に、仏像は瞳を動かす。

 すると、ドレス姿で皿を片手にはしゃいでいる女達の姿が飛び込んで来た。


謝恩会しゃおんかいかな。何だこれ。とにかく、ここから脱出するのが先だ」

 目の前にいるのは仏像が苦手とするモブ女達。

「済みませーん、ちょっとあの(背に腹は代えられぬ。あのモブ女どもに助けを求めるしかねえ)」


 だがしかし。

 仏像が声を掛けようものならチョコのごとく溶けだすはずの女達は、仏像を完全無視である。

 それどころか。


〔女A〕「きゃあああ、あの背の高い塩顔イケメンがロトエイト様だって」

〔女B〕「ロトエイト様ってばノーメイクでもお美しい♡ 本名が麺棒眼鏡めんぼうめがねさんだっけ。変わった名前よね」


〔女C〕「一並ひとなみ高校ってすごくない。ピアノの王子様とサッカー日本代表のひーくん(下野広小路しもつけひろこうじ)。それにロトエイト様が部活で一緒だったんでしょー」

〔女ABC〕「もはや伝説の『落研ファイブっ』。すっごーいよねええ」

 すっごーい♡ 王子様が三人もーっ、とモブ女三名は頭の周りに花を散らかしている。


〔仏〕「えっ。下野しもつけって日本代表になったのか。麺棒めんぼうってあのペン回しのモブ男だよな。麺棒が眼鏡を掛けたようなモブ男だよな」

 セミロングのゆるいウェーブヘアに隠れた耳をひく付かせながら、仏像は情報収集を試みる。


〔女A〕「みのちゃんさんが、『落研ファイブっ』の先輩なんだよね」

〔女B〕「みのちゃんさんの結婚式でピアノの王子様の生演奏が流れるのも、これが七回目だね。エモい」

〔女C〕「みのちゃんさんって一並ひとなみ高の人からは『シャモ』って呼ばれてるんだよね。本名が岐部漢太きべかんたなのに。あだ名全然関係ないじゃん」


〔仏〕「高三の夏休みまでに『普通の彼女』が出来なかったシャモが。『お百度参ひゃくどまいり』こと藤巻ふじまきしほりにロックオンされたシャモが。結婚、それも七回目、だと?! うわっ危ねえ」

 話しながら近づいてきた女のパーティーバッグが顔にぶつかりそうになり、自分の目線のおかしさに仏像は改めて気づく。


〔仏〕「ちょっと待て恥ずかしい。俺はTシャツパンイチなんだよ」

 いきなりフレンチトーストをめくりかける女に猛抗議すると。

〔女A〕「あー、やっぱこっちかな」

 女は仏像の頭をパーティーバッグでぶん殴って、視界の外に去っていった。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

(2024/7/14 前半を改稿)

※父親(政木十五=しこしこさん)から実際にフレンチトーストで起こされたシーン→https://kakuyomu.jp/works/16817330659394138107/episodes/16817330669087597740


※本作は『落研ファイブっ―何で俺らがサッカーを?!』の続編です。こちらを合わせて読まれることをお勧めいたします。→

https://kakuyomu.jp/works/16817330659394138107/episodes/16817330659394756389


※一部加筆修正いたしました(2024 4/1)

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