3 巻物営業
〔餌〕「
仏像と松尾に裏切られた
〔三〕「何だよそうぞうしい。俺は今ゆで卵の修行中なんだよ」
氷水で真っ赤になった手を
〔餌〕「このまま行けば
〔三〕「何で本人に言わねえんだよ。いつもならその場でグラウンドに駆け込んだだろ」
〔餌〕「まあ、それはその、何と言いますか」
〔三〕「親父さんの件か」
仏像の父を自身の父が『壊した』ことを知ったばかりの
〔餌〕「僕の
〔三〕「そんなのは親同士の話だろ。こじれる前に腹を割って話せ。俺はこの後カッパ巻きの練習もあるんだよ。忙しいの」
※※※
〔餌〕「せっかく
〔仏〕「
仏像はトンネルへと吸い込まれる貨物電車を目で追いながらつぶやく。
〔餌〕「ようやく落研が復活したって言うのに。それに松田君はピアニストなんだよ。運動なんて」
〔仏〕「体力づくりのために、部活の時間でトレーニングをしたいらしいぞ」
〔餌〕「プロフに絶対に運動したくないって書いてあったのに」
〔仏〕「今は学校中が事情を知っているからな。入部した頃とは条件が違う」
貨物電車の最後尾がトンネルに吸い込まれていくのを見つめたまま、仏像は餌に応じる。
〔餌〕「もしかして、松田君に付き合って『落研ファイブっ』側に行ったとか。だって僕たちは落研だよ。何で落研を捨てるんだよおお!」
〔仏〕「えっと、おい落ち着けって。俺は落研を捨てた訳ではなくて」
餌に気おされるように、仏像はうつむいて言葉を探した。
〔仏〕「
〔餌〕「それなら先に言ってよ」
餌の全身から一気にこわばりが解ける。
〔餌〕「それで、お父さんは大丈夫。また熱中症になったりしてないよね」
〔仏〕「体は大丈夫だ。ただ、頭が
〔餌〕「えええええっ! だったら
餌の叫びに答えるように、仏像はスマホを無言で差し出した。
【週間ランキング8位⤴
〔仏〕「リアルとネットの知人に手当たり次第に営業活動をしやがって、ついにランキング上位の常連に」
一日三回更新を毎日続けてやがると、仏像は遠い目をしてつぶやいた。
※※※
〔仏〕「うわ、ナニコレ」
餌の誤解を解いて帰宅した仏像がリビングに入るなり、墨の匂いがぶわっと仏像を包んだ。
ダイニングテーブルの上には、巻物のような和紙につづられた
あまりの
〔仏〕「なにこれ果たし状?
無駄に行動力だけはあるんだよなと仏像が頭を抱えていると、父親の足音と鼻歌が聞こえてきた。
〔父〕「五郎君お帰りーっ。それすごいでしょ。ダディの友達から聞いたマル秘テクニック」
てへぺろポーズを決める元外資系投資会社CIO(最高投資責任者)の父。
かなり偏った若者文化を急ピッチで吸収している様子である。
〔仏〕「ちょっと何書いてるか良く分らねえ。俺、こんな日本語知らねえよ」
やたらと時代がかった堅苦しい
〔仏〕「結局は『無職輪廻(以下略)』を口コミで広げてほしいのと、サイト登録して☆をつけてくれって内容だな。だがなぜ直筆の手紙。しかも巻物。しかも毛筆縦書き。これをポスティングするってどこに」
仏像は『販促計画』と題されたメモを指でトントンと叩く。
〔父〕「どこって、ほらウチのマンションだけでも結構な戸数だし」
〔仏〕「ウチでやんのかよ?! ダメだ、絶対ダメっ。退去させられるぞ」
〔父〕「そんな事は無いよ。これはね、日本の証券業界に伝わる秘伝・巻物営業。こんな手紙を受け取った人はどう思う」
父はずいっと仏像に顔を近づけた。
〔父〕「普通じゃないよね。ヤバいと思うよね。少なくとも印象には残るよね。それから先の行動パターンは大体三つに分かれて」
〔仏〕「父さんはハゲタカから普通のおじさんに戻るって約束しただろ。ハゲタカ仕草はやめろってば」
仏像は父親の無謀な計画を止めようとしたが。
〔父〕「これはハゲタカのやり方じゃないもん! プンプン!」
〔仏〕「ダメだ、話が通じねえ」
額を押さえながらスマホを取り出した仏像は、松尾にSOSを発した。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
※エロカナと仏像の初エンカウント回はこちら(『落研ファイブっ』14「奴の名はエロカナ。僕の彼女では断じてない。」)
https://kakuyomu.jp/works/16817330659394138107/episodes/16817330668374464173
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