神様の看病

 僕は教室を出た神様を追いかけた。


「正則、あやつらと一緒に居るのは不快じゃろうが、もう少しの辛抱じゃ。もう…少しだけ…辛抱して…たもれ」


 教室を出て、少しした所で神様が苦しそうな声を出し、その場でよろける。

 

「神様!? 大丈夫?」


 僕は慌てて神様を支えた。


「心配…するで…ない。久々に…力を使うたから…の。少し…疲れた…だけじゃ」


 お面を付けているので表情は分からない。しかし息も絶え絶えで、酷く疲弊しているのは確かだ。


「少し休んだら…わらわは帰る。正則は…勉強…頑張るのじゃぞ。今は…大事な時期…なのじゃろ?」


 神様の言う通り勉強は大事である。特に僕はもう少しで高3…受験生になる。今は将来に関わる大事な時期だ。


 …でも彼女は僕のために力を使い、こんなにも疲弊してしまった。それに僕は神様の恋人なのだ。こんな状態の恋人を放っておく事なんてできない。


「神様…それは聞けないよ」


「正則!?」


 僕はヨロヨロの神様を無理やり背負うと学校の出口を目指して歩き始めた。彼女は意外と軽かった。


「わらわなら…大丈夫じゃ」


「神様昨日言ってたじゃない。恋人の苦しみは2人で分かち合う。そうすれば苦しみは半分になるって。昨日は神様が僕の苦しみを和らげてくれた。今度は僕の番だ。それに苦しんでいる神様を放っておいて勉強なんてしてたらバチが当たるよ」


「正則…すまぬのぅ。わらわに…もっと力があれば…」


 僕はポケットからスマホを取り出し、ポッポに「今日は体調不良で早退すると先生に伝えておいて。できれば今日の分のノートを取っておいてくれると嬉しいな。後で何か奢るから」とメッセージを送った。


 何気に僕は今まで1度も学校を休んだことが無い皆勤賞だったが、そんなものよりも今は神様の体調の方が大事だ。


 僕は神様を背負い、学校を出て家に帰った。



○○〇



 家に戻った僕は客間に向かい、神様を布団に寝かせる。


 人間が疲れている時は睡眠をとったり、何か栄養のある物を食べたりすると疲れが吹っ飛ぶが、神様の疲労を回復させるには何をすればいいのだろうか?


「神様、神様の疲労を回復させるにはどうすればいいの?」


「心配するな。休んでおればじき治る」


 神様はそう言うが、僕は神様のために何かしてあげたかった。何もせずにいるのが歯がゆかった。


 とりあえず一旦自分の部屋に戻って荷物を置いて制服を脱ぎ、部屋着に着替える。その際にスマホを充電がてら確認するとポッポからメッセージが届いていた。内容は「OK! それよりも明日事情を説明しろよ」との事だった。


 教室からすぐに出たので僕は確認できなかったが、おそらくポッポとこーちゃんもあの場にいて、一連の出来事を目撃していたと思われる。なのでその説明を求めているのだろう。


 僕は短く「了解」とだけ返信した。そして台所に降り、何か無いか探し始める。


 神様は「ただ休んでいるだけでいい」と言っていた。しかし何かしら食べた方が元気が出るのは間違いない。だって神様は一昨日あんなにも美味しそうにカレーを食べていたのだから。神様だって何かを食べれば元気が出るはずだ。


 神様に好評だったカレーの残りは冷凍しているのでまだあるけれど、流石に体調が悪い時にカレーは重たい。


 僕は冷蔵庫から元気が出そうな食べ物をいくつかチョイスし、神様の元に持って行った。いわば神様への捧げものだ。


「神様、元気が出そうな食べ物持ってきたよ」


 僕が客間に入ると神様は布団から上半身だけをムクリと起き上がらせた。


「…すまぬの」


「いいんだよ。美味しいもの食べて早く元気になって」


 僕はまず神様に栄養ドリンクを差し出した。「ファイト一発!」で有名なアレだ。


「…なんじゃこれは?」


「栄養ドリンクって言って、色々な疲労回復に聞く成分が入っている飲み物…って言えばいいのかな?」


「薬草を煎じたようなものか?」


 僕は栄養ドリンクの蓋を開けると神様に差し出した。神様は顔に付けているタヌキのお面を少しずらし、瓶の飲み口に鼻を近づける。


「何とも言えぬ香りじゃな…。しかし『良薬は口に苦し』とも言うし」


 そしておそるおそる一口飲んだ。


「うむ。味は悪くないの」


 僕も昔飲んだことがあるが、ジュースみたいな味なので飲みやすいと思う。これは風の噂で聞いた話だが「リ〇ビタンD」の「D」は「Delicious」から来ているのだとか。


 神様はドリンクを全て飲み干した。


「うむ。少し元気が出た気がするぞ」


 神様はマッスルポーズをして僕にアピールする。だがまだ声に元気が戻っていなかった。


 まぁ…そんなすぐに効果は出ないよね。


 僕は次に用意した品を差し出した。


「おおっ、これは柿じゃな。柿は結構好きなのじゃ」


 僕が次に差し出したのは柿だ。もちろん食べやすいようにあらかじめカットしてある。


 柿は「柿が赤くなると医者が青くなる」と言われるほど栄養価の高い果物だ。栄養価の高い物を食べて、後はよく眠れば、神様の疲労もすぐ回復するだろう。


 柿は昔から日本にある食べ物なので神様も知っているらしく、大喜びでかぶりついた。


「甘いのぅ」


 神様はムシャムシャと柿を食べる。ところが3切れ目の柿を食べようと手元に持って行った際、顔に付けてあるタヌキのお面に手が当たり、顔から外れてお面が畳の上にポトリと落ちてしまった。


「あっ…」


 神様は大急ぎでお面を拾い、顔に付け直した。一瞬だが、神様の顔が露わになった。


「み、見たか…?」


 見た。見えてしまった。


 一言で言おう。神様の素顔はとんでもない美少女だった。TVで見るようなアイドル顔負けだ。正統派の和風美少女と言った感じである。


「…正則もわらわの顔に幻滅したか? 物凄い醜女しこめじゃろ?」


 僕は神様の素顔を見て、どうして彼女が自分の事を「醜女」と言うのか理解できなかった。だってブサイクどころか、その真逆の存在だったから。


「ううん。凄く魅力的だと思うよ」


「正則…。そうか、お世辞だとしても嬉しいぞ。ありがとう」


「お世辞じゃないよ。神様は凄く魅力的だよ」


「ううむ、あまりそのような事を言わんでくれ。…言われ慣れておらぬので恥ずかしくてな」


 神様は照れくさそうに僕から視線を外した。


 でも僕にとっては神様の顔がどんな顔だって関係がなかった。例え神様が本当にブサイクだったとしても僕は幻滅しない。だって僕が好きなのは外見じゃなくて、その優しい性格だからだ。



○○〇



 神様は僕の用意した食べ物を全て食べ終えた。


「ありがとう正則。そなたのおかげで大分元気が出た気がする」


「神様、他に何かして欲しい事は無い? 僕は神様のためなら何でもするよ」


「なら、祈ってくれるか。わらわのために。神の力を回復させる1番の方法は信者…わらわを信仰する者たちからの祈りなのじゃ。ふぁぁ…少し眠たくなってきたの」


「分かったよ。じゃあ神様が寝ている間、僕はずっと祈っているね」


「ありがとう」


 しばらくすると神様は寝息を立て始めた。僕は神様が再び目を覚ますまでの間、ずっと神様の回復を祈り続けた。



◇◇◇


神が自分の事を醜女という理由とは?

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周到に計画された嘘告に騙された僕は悲しみのあまり廃神社で神様に願った そしたら超絶美少女の縁結びの神様が僕の彼女になってくれた件 ~神様から毎日溺愛されて幸せです~ 栗坊 @aiueoabcde

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