神様は僕を弄んだ連中に神罰を食らわす

「ただいま…」


「正則、帰ったのか、お疲れ様じゃのう。どれ、茶でもいれてやろう」


「…うん、ありがとう神様」


 学校が終わり、家に帰った僕を神様が出迎えてくれた。


 しかしその日は文字通り1日中犬岡と猿木がイジって来たので、僕の精神はかなりすり減っていた。


 反応したら向こうの思うツボ。なのでずっと無視をしていたが、彼らのイジリをずっと聞くのは流石にこたえる。


「どうした正則? 元気がないの。何かあったのか? わらわに話してみよ」


 自分では隠していたつもりなのだが、やはり神様には分かってしまうらしい。


「な、なんでもないよ。そ、そう。ちょっと…テストの点が悪くてね」


 だけど僕は元気のない理由を神様に話す事をためらった。


 自分の恋人に「クラスの陽キャに1日中イジられたので元気がない」と話すのは情けなくて恥ずかしいと思ったからだ。男の矜持という奴である。


 昨日の嘘告は神様がその一部始終を不思議な力で見ていたから、僕も話した。


 でも今日学校で何があったかを神様は知らないようだ。なら、彼女にあまりこの事を知られたくはない。


「…嘘じゃな」


「えっ?」


「学年末テストはもう少し後の時期じゃろう。今の時期に戻って来るテストなぞないはずじゃ。わらわの記憶力を侮るでないぞ? 正則の話はちゃんと聞いていたから覚えておる。それに正則は学校から帰るといつもわらわに学校であった出来事を話してくれるのに今日は話そうともせぬ。落ち込んでいる本当の理由はなんじゃ?」


 バレていた。僕の背筋に冷や汗が流れる。でも…それでも僕は神様にあまりこの事を言いたくはなかった。


「正則、わらわとそなたは恋人ではないのか? …人生というのは何も楽しい事ばかりではない。1人では耐えられないほど辛い事もあろう。じゃが恋人とそれらを分割すればどうじゃ? 辛い事は半分になり、嬉しい事は倍になる。わらわはそなたの恋人として、悲しみを少しでも和らげてあげたいのじゃ。…話してみよ」


「神様…」


「腹の立つことがあれば、一緒に怒ろう。悲しい事があれば、一緒に泣こう。嬉しい事があれば、一緒に楽しもう。楽しい事があれば、一緒に笑おうではないか」


 神様は優しい声で…僕に言い聞かせるようにそう言った。


 その言葉は僕の心にジーンと染み渡たり…感動で泣きそうになってしまう。


 そして同時に自分のあさましい考えを恥じた。


 小さな矜持にこだわって神様の…恋人の信頼を失う所だったのだ。


 そうだよね。僕たちは恋人なのだから、色々な事を分かち合うべきだ。


 今回は僕が悲しみを分かち合ってもらう番。


 でも、いつかは僕が神様の悲しみを和らげてあげたいし、できれば喜びの方を分かち合いたい。


「実はね…」


 僕は神様にその日あった出来事を話した。


「何という奴らじゃ! そやつらは悪鬼の生まれ変わりか何かか? 正則を卑劣な手段で騙し、笑い者にした挙句、それを他の者と共有し更に笑い者にするとは…。もはや許しては置けぬ!」


 神様は犬岡たちの言動に激怒していた。


「でも神様、どうしようもないよ。こんなのは先生に言っても相手にしてくれないだろうし…」


 教師というのは基本的に事なかれ主義の人間が多い。公務員という職業の特性上様々なしがらみが多く、薄給の上に激務。また自分のクラスで問題が起こると評価に響く等、諸々の理由でそうなってしまうのだろう。


 なのでこの件を教師に話してもただのイジリ…生徒同士がじゃれあっているだけで教師が介入する必要はないと解釈される可能性が高い。


 もし動いてくれたとしても軽く注意して終わりではないだろうか。もちろんそれだけではあいつらは止まらない。


「何を言う正則、お主の目の前に居るのを誰だと思っておる? わらわは神じゃぞ! そやつらに神罰を与えてやろう!」


「えっ?」



○○〇



 次の日、神様が学校についてくる事になった。


「ほ、本当に大丈夫かな?」


「大丈夫じゃ。何も心配するような事は無い」


 いかに神様とはいえ学校においては部外者でしかない。


 特に最近は日本でも物騒な事件が多く、学校内に部外者が侵入しないよう校門前に教師が立って見張っている場合も多い。


「先生! おはよー!」


「おう、おはよう!」


 予想通り、今朝も教師が校門前で登校してくる生徒たちに朝の挨拶をしていた。僕はハラハラと焦燥感を感じながら神様と校門に近づいて行く。


「お、おはようございます」


「おう、鷹野おはよう!」


「おはようなのじゃ!」


「おう、おはよう!」


 神様は大胆不敵にも教師に自分から挨拶をした。ところが教師は神様を不審者扱いで止めるどころか、陽気に挨拶を返す。


 僕はそれに唖然とした。半信半疑だったが、本当に大丈夫だった。


「言ったじゃろ? 大丈夫じゃと」


「どうやったの?」


「なぁに。神の力を使っての、暗示をかけたのじゃ。『わらわもこの学校の生徒』じゃとな」


「凄い…」


 神様の力ってスゲー! 僕は改めて隣にいる存在が神であると再認識した。


 僕たちはそのまま難なく校門を抜け、校内に入る。そしていよいよ僕のクラスの教室の前にやって来た。


 僕は震える手で教室の扉を開ける。


「おっ、来たな陰キャ! 今日も沢山イジってやるから覚悟しとけよ!」


 そこには予想通り、犬岡をはじめ、猿木と猫田さんたち3人がニヤニヤ意地の悪い笑みを浮かべて僕をまっていた。


「お前たちじゃな。正則に非道な行いをしたのは!」


「なんだこいつ?」「えっと…誰?」「タヌキのお面付けてる」


 突然3人の前に躍り出た神様に彼らは困惑の表情を見せるも、すぐにいつもの表情に戻った。


「誰だか知らんが、俺たちはクラスではみ出し者の陰キャ君をクラスの輪に入れてやろうとしてんだよ。そこの陰キャ、昨日は大人気だったんだぜ? 文句を言われるどころかむしろ感謝して貰いたいね」


「なるほど。自らの行いを反省し、今ここで謝罪したなら許してやる事も考えたが、そちらがそのつもりなら…こちらも容赦はせぬ」


 神様はそう言うと懐から何かを取り出した。僕はそれに見覚えがあった。


 あれは…ご神体の古い糸切りバサミ? あんなものでどうするんだろう?


 神様は犬岡たちに近づくと、3人の間を「チョキン、チョキン」と何度か糸切りバサミで切った。


 一見するとただ空を切っただけの何の意味のない行動に見える。


「なんじゃそりゃ? 意味わかんねぇ」


 犬岡たちも神様の奇行に疑問符を浮かべている。


 しかし僕には3人の間にある何か糸のようなものを切った…かのように思えた。


「ふっ、今に分かる。人はお互いに助け合って生きて行かねばならぬ。縁とは人と人とを結びつける尊いものなのじゃ。それをむやみに弄び、断ち切った貴様らには他人から縁を切られるという事の意味を味合わせてやろう」


 神様の言葉に犬岡たち3人は大笑いした。


「プッハッハッハッハ! チー牛との縁? そんなのこっちからお断りだ。チー牛と縁があるぐらいなら死んだ方がマシだぜ!」


「そうそう。それに俺たちカーストトップの陽キャが縁を切られるわけないだろ? むしろ向こうから縁を結んでくださいとお願いされる立場なのによ!」


「おかしな子を連れてきたと思ったら…やっぱり陰キャチー牛と仲が良い奴も頭がおかしいのね」


「今更後悔しても遅いぞ! …不愉快じゃ。正則、わらわは帰るぞ!」


「えっ、あっ、うん」


 神様は自分のすべき事は済んだとばかりに教室から出て行く。僕もそれを追いかけた。



◇◇◇


果たして神様の神罰とは?

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