第3話 「初めての共同作業」
上を見上げれば大きな体。
メトロの言っていた通りの目は退化してどこにあるか分からない。
大きな口から白い煙を出している。
見るからに恐ろしい。
自分の体のはるか100倍はある図体...。
こんな奴に果たして魔法や攻撃が通るのか?
俺は早くも帰りたさが加速した。
「メトロさん?これ本当に勝てるんですか?」
「ぷっ、何敬語なってんの?勝てる勝てる。俺らなら楽勝っしょ。」
「はぁ...しかたねぇ...。やるしかないのか....じゃあいきますか。ブレイ!形状変化エクストリームソード!」
「アイヨ!レオ!」
覚悟を決めた俺は命令を下す。
俺のハンマーの形をしていた勇者の剣は、俺の一声で再び剣の形に戻る。
「ヴォル!」
俺は剣先に炎の魔法を込めて火の剣を作り出した。
「アッタマッテキタゼ!トカゲヤローウロコゴトバッサリイクゼ!」
勇者の剣は自分の意思があるためよく喋る。しかもお調子者でちょっとうるさい。
「初めての共同戦闘だね♡。」
俺が構えてたのに、メトロの野郎に後ろから気色悪いことを言われてちょっと力が抜けてしまう。
「やめろ!力が抜けるだろ。」
「それくらいでちょうどいいかもよ?お前緊張しすぎだよ。戦闘は冷静さを失ったら足元すくわれるからな。」
「わかってるよ!でもこんなに大きな討伐初めてなんだ!緊張くらいするだろ!」
「むふふ。まあまあ。リラーックス。俺も好きにやるからとりあえず自分の思うとおりに動いてみ。」
指図されるのは腹が立ったけどこの落ち着きから見るに巨大生物との戦闘経験は俺よりもありそうなので俺は素直に従い自分なりに動いてみることにした。
呼吸を整えて魔力を集中させる。
「少し大きな魔法使うぞ!詠唱の間、俺が攻撃受けると思うけど気にせずお前はすきに動いててくれ。」
メトロに向かってそう言うと、俺は炎をまとった剣を地面に突き刺すと大きめのシールドを自分に貼った。
そして、もう一度大きく息を吸って魔力を高める。そして地面に跪き大地の神の加護を受ける呪文を詠唱した。
「我が名は勇者レオ。勇者の名において大地の神に命ずる。我に大地の加護を!アースブレイド!!」
剣がまとっていた炎は大地に吸われ、代わりに大地の加護と力が一時的に付与された。
これは一応勇者の力ってやつらしい。
詠唱の間も容赦無い猛攻が俺を目掛けて飛んできていたが正直俺は打たれ強い上、氷耐性もあるのでシールド越しでは少しの攻撃くらいなら耐えられる。
それにメトロもところどころ攻撃して気を逸らしてくれているみたいだし。
「勇者の魔法!初めて見た!すげぇ。すげぇ。ますますお前を俺のものにしたくなった。」
メトロはとてつもない強力な魔術を指先から端折った呪文の詠唱だけでボンボン出しながら俺にもとんでもない爆弾発言を投げつけてきた。
「今変な事言うな!集中力気が切れたらもう1回大地の儀式やり直しになるだろ!」
四大元素(火、水、土、風) にはそれぞれ神が居て契約すれば、勇者はその力を借りることが出来るのだが集中をしていないとすぐに接続が切れてしまう。
俺は大地の剣になった勇者の剣を抜き構えを取ると再び大きく大地に突き立てスノウドラゴン目掛けて大地を割いた。
スノウドラゴンは大地のひび割れに足を取られたその隙に俺はその裂け目を閉じやつの動きを封じた。
そして、大地の加護を解き、再び右手で剣を構えると命令した。
「ブレイ!性質変化!モードオルハリコン!形状変化ビッグブレード!」
「レオ!アイヨ!」
俺は剣を大剣に変えて再び炎の魔法を纏わせ、高く飛び上がった。
「ヴォルケスラッシュ!」
空中を切り炎の斬撃をスノウドラゴン目掛けて放つ...。
命中した...はず...。
衝撃波によって巻き起こった煙の先にはピンピンとしているスノウドラゴンが居た。
攻撃は外れてやつの腕か何かを切り裂いただけだった。
そして、奴は虎視眈々と俺が近くに落ちてくるのを狙って残っている方の手の鋭い爪で俺を引き裂いた。
俺はあまりの衝撃に洞窟の壁に打ち付けられ、全身に鈍痛が走った。
朦朧とする意識の中で透かした声が聞こえる。
「ふっ...。初めてにしてはよくやったね。まぁここからは俺に任せな。」
ぼんやりする視界で眺めているとメトロはいつの間にかスノウドラゴンを覆い囲むように魔方陣を描いていてそして、古代魔術の本のレプリカを構えていた。
「さぁ大きなトカゲ君。覚悟はいいかい?今から君に僕の2割の本気をぶつけちゃうからね。命乞いなら地獄でしな。」
メトロは言うと片手で本を開きもう一方の手でこめかみに手を持っていき目を閉じ魔力を集中させる。
「ケドルカタステレイプルエイグルミマァティッグ...。」
聞いたことない呪文の英称が始まると魔法陣は黒い光放ち、禍々しい魔力が吹き出し始めた。
そしてあっという間に周りの氷が一瞬で岩に変わるような熱を放つと青白く光った。
そして、ひかりが消えると、そこにあったはずのスノウドラゴンの姿は跡形も無くなっていた。
「...消し炭にしてしまった...。血...どうしよ。」
メトロはぼそっと呟く。
俺は、自分に回復魔法をかけ何とか立ち上がると奴の腰を掴んでこう言った。
「ふっ。俺はさっきやつの腕を切り落とした時に返り血を浴びたみたいだぜ。俺の血と混ざってるみたいだけど...。」
ボロボロになった俺のお気に入りのランニングシャツと防具屋で買ったコートには俺の血に混じってしっかりとスノウドラゴンのものと思われる青い血が着いていた。
「でかしたぞ!レオ!」
俺の頭をわしゃわしゃ撫でるメトロ。
「やめろ!こだわりの髪型が台無しになる!」
「は?ただのボサボサじゃないのそれ?」
「これでも、セットしてっから!!」
大きな声を出したら治りきってない傷に響いて痛みが走った。
「アイテテ...いいから、英者のとこいこ...。傷が開く。魔力が足りなくて回復が追いつかない。」
「あっ、悪い悪い。とりあえず応急処置な!マフィーラルド!」
やつの呪文で俺の傷口は塞がり体力もある程度回復した上、魔力も少し戻ってきた。
「何その呪文...なんかフィー系のはずなのに魔力まで回復したんですけど。」
「あっ?これ!俺が作った呪文。古代魔法の文献とか色々漁ってて思いついたヤツ。後でお前にも教えてやるよ。魔力すげー使うから多分お前じゃ修行が必要だけど。」
「はあ...ズルじゃんそんなの...そもそも、お前の魔力何?底なし?」
さっきからとんでもない魔法を連発してるのにケロッとしてる奴には不思議な気持ちしか湧いてこない。
「まあ...一応これでも賢者だからな。細かいことはあとな!血がかわいてきちゃったし、英者の家まで一気に飛ぶぞ!捕まれ。」
俺はやつに捕まりフープルで英者の家まで移動した。
...ていうか、フープルですら普通の獣人で2回が限界とか言われてんのにまじ何なのこいつ...。
英者の家はすげー山の上だった。
つーわけで今もすげー吹雪いてる...。
で、オマケにどう見てもあかりも何にもついてない。
留守だ。
...最悪。
「あっ、張り紙。魔力がかかってる。解いてみるね。アロック!」
俺が魔法解除の呪文を唱えるとそこにはこう書かれていた。
「魔獣を捕まえに行ってきます。15分くらいで戻るよ。キャピッ。」
「何この書き方。俺たちが来るのが分かってたみたいで腹立つ...。てか、15分て...しかも、この魔力の形跡、ついさっき居なくなったっぽい...。」
「ううう....寒い寒い寒い寒い!あんのババア!人の事おちょくりやがって!」
寒さに弱いメトロは、震え散らかしながら珍しく暴言を吐いていた。
やつの余裕のないところを見るのはしょうじき気分が良かった。
俺がニヨニヨしてると、メトロに睨まれてしまった。
気まずくなったのでやつにルフレをかけてやった。
「こんな吹雪じゃブレス避けの魔法じゃ温まらん...仕方ないこの家を燃やして暖を取るしかないな。ちょっと下がってろ燃やすから。」
メトロは真っ青になりながら魔法の詠唱を始めた。
俺が止める間もなくやつの手の中には緑の炎が出現した。
その時!!
「なーーーにをやっとんじゃ!この青二才がーーーー!。」
黒いローブを着た婆さんがいきなり現れて、メトロに向かってなにか魔法を投げた。
「くそババアが遅いから家を燃やして暖をとるんだよ!くそったれが!!。」
メトロも負けじと詠唱していた魔術を婆さん目掛けてぶつけた。
「他人の家燃やすとはどういうことじゃと聞いておろうがああああ。」
そして、しばらく高度な魔法の掛け合いが雪の中で始まり俺は見ているだけしかできなかった。
~10分後~
「はぁ...はぁ...相変わらずすげー魔力だ。クソババア。」
「青二才が!お前なんぞに負けるわけがなかろうが....はぁはぁ.....。」
お互い息が荒くなり始めたところでやっと婆さんが家の鍵を開けた。
「入んな。持ってきたんだろ?スノウドラゴンの血。」
婆さんは俺を見てそう言った。
「あぁ。お邪魔します。」
俺は返事をして、家へと上がらせてらった。
家の中は真っ暗だったけど婆さんの指がひと振りされただけで暖炉はつき明かりも灯り一気に明るくなった。
メトロは俺が上がるより先に上がっていて暖炉の前で丸くなっていた。
「...さみぃ..。」
婆さんはローブを脱ぐと魔法でそれをタンスの中にしまった。
「で、今日もあれのことについて聞きに来たのかい?」
「そうに決まってんだろ。じゃなきゃこんな寒いところ俺が来るわけないし。」
メトロは暖炉の方だけ見てボソボソと婆さんに答えた。
「へぇ。それが人に物を頼む態度なのかねぇ?」
婆さんはヤカンに入れたお湯を魔法で沸かしながらメトロの方を見る。
「うるせぇ。とりあえずレオ...そのシャツごとこのババアにくれてやれ。」
「あぁ?あぁ...。」
俺はメトロに言われるままシャツを脱ぎ婆さんにシャツを手渡した。
「ふっ...いいのかい?これはお前さんの血も付いてるだろ?魔女に血を渡すってのはどういうことかい分かるかい?しかもお前勇者だろ?ヒッヒッ。」
不気味な笑いをかけてくる婆さんにいまいちピンと来てない俺は言う。
「禊でもあるっていうのか?好きに使うといい。俺はこいつのことを手伝うと決めたんだ。だから、メトロが欲しいものが手に入るなら血なんかくれてやるよ。」
「くぁ〜。純粋だねえ。おい、賢者モドキ。お前こんな純粋な子をどうやって誑かしたんだい?まさか魔法か薬で操ってんじゃあないだろうね?だとしたらただじゃおかないよ。」
「んなことしねぇよ!てかお前だってコイツの血を悪事に使ったらどんなことが起こるのか分かってんだろうな?」
「分かってるさ!それでも好奇心に逆らえない瞬間もあるかもしれないだろう?お前だって賢者なんだ。わかるはずだよ。」
「そりゃ、分からないこともないが、それでもこいつは俺にとって希望の光そのものだ。それを汚すようなことはさせない。」
俺も正直だいぶ恥ずかしいことを言ったがこいつもだいぶ恥ずかしいことを言ってる。
お互い真っ赤になりながら婆さんを挟んで見つめあってしまった。
「あぁ!イチャつくならよそでやっとくれ。」
羊の婆さんはもともとくしゃくしゃな髪をもっとくしゃくしゃにかいた。 そして、魔法で青い血だけを俺の服から剥がして液体に変えて、これまた魔法で引き出しから出した瓶つめた。
「まぁいい。今回はスノウドラゴン血だけ貰うよ。お前さんの血は洗い流しておく。」
「....。なんだかよく分からないが悪いな。」
婆さんはやれやれという顔をしながらメトロの方を見てこう言った。
「おい、小僧。お前このボクちゃんに後で自分の血がどんなことに使えるかってのを教えてやんな。」
「あぁ。ことが落ち着いたらそれは説明するつもりだ。」
「...ならいい。」
婆さんは俺たちに暖かいミルクティーを出すと瓶を持ってこの部屋を出て別の部屋に行った。
「ああ見えていいババアなんだよ。口はわりーけど。」
メトロは俺に微笑んだ。
「聞こえてるよ。ババアは余計だよ。」
婆さんが文句を垂れながら戻ってきた。
「はいはい。」
メトロは軽く受け流す。
ここで、ふと気になっていたことを2人になげかけてみる。
「なぁ。気になってたんだけど、お前たちは元々の知り合いだったのか?」
「...。」
2人の顔が少し強ばった。
「...あっ、俺変な事聞いちゃった?」
「....。あぁ大丈夫。この婆さんは俺が生まれた街に住んでた英者なんだ。」
「えっ。そうなのか。雪山に着いたばかりの頃、知らないような口振りで話していたからてっきりお前も初めて婆さんに会うんだと思ってた。」
「まぁ....。話せば長くなるし面倒だったから突っ込まれないようにああ言ったんだ。人にべらべら喋っていいような内容でもないから。」
いつになく神妙な面持ちのメトロ。
「...こいつには話してもいいか?」
暗い視線を老婆に向けるメトロ。
「かまやしないよ。」
紅茶を啜りながら答える老婆。
2人の過去には何があったのだろうか?
俺が不思議そうな顔をしているとメトロが重苦しい雰囲気で話し始めた。
フィロソフィーブレイブ みずいろ @sb_languedechat
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