第2話 「突撃」
準備を終えた俺は、再び宿屋の前で待ち合わせることになっていたので、駆け足で宿屋前へと向かった。
奴はコートを纏って、宿屋の看板に寄りかかっていた。
「おまたせ。」
奴は俺が声をかけるとヒョイっと手を挙げた。
「いや、俺も今来たところだよ。それじゃあ行くかね。最初の英者には少し当てがあるんだ。フープルで飛ぶからもう少しこっちに来いよ。あっ、ところで、氷耐性か氷耐性のある防具とかコートあるか?」
フープルとは、1度行ったことのある場所へと瞬間移動ができる空間転移の魔法だ。
「ないけど。何?雪の降るとこにでも行くのか?」
「んー。まぁな。そうか。じゃ、この街には売ってないからまずはグレイスランドの雪のない地域に飛んで準備するかね。」
グレイスランド。島全体に強い氷の魔力が覆っていて季節に関係なく雪が降りつづける地域だ。
もともと、場所柄、寒くなりやすくて、ジメジメしやすいんだけど、流れてる魔素が共鳴してまさに雪国という言葉が相応しいほど天気がいい日が存在しないらしい。
「おう。頼むよ。すまないな。」
俺が素直にお願いすると奴は目をキラキラとさせてこちらを見た。
「そんなぁ、謝らないでくれよォ。いじめたくなるだろ。」
「色んな意味で寒くなったわ。早く行こう。」
やつを軽くあしらって、詠唱を始める傍に近寄った。
俺の腰に手を回すると、ぎゅっと掴んでそのまま詠唱を続けた。
(まったくもう...。)
連れていってもらうのに拒む訳にはいかないので俺はそのままやつに身を任せた。
俺たちの周りは地面に現れた魔法陣から照らす虹色の光を帯びて、キラキラと光り、やがてその光が強くなり目を細めると光はさらに強くなって次の瞬間には気温が一気に下がった。
目を開けると緑に交じってチラホラと凍っているところや白い雪のある大地への上に立っていた。
「よし、着いたぞ。ここはあまり魔素の影響がないから今みたいに春も半ばなら緑もあるんだ。このすぐ近くに村がある。行こう。」
奴に言われるがまま見知らぬ大地を歩く。
一歩踏み出すごとに、足元からしゃりしゃりと音がしてまるで音楽みたいだった。
「しかし、さすが雪の大地。春だってのにさみーな。」
奴はコートに身を包んでる癖に、両手で腕をさすっていた。
「それを言うなら俺なんか、袖...ないんだけど。」
「寒くないのか?見てるだけで寒そうだよ。」
「いや、寒いけど5%だけ氷耐性あるから少しマシなだけ。」
「あぁ、寒さに強い程度の耐性ね。ちなみに耐火はもってるか?」
「ないない。耐火は取る前に死にかけたからやめた。」
ちなみに耐性を取るってのは並大抵の事じゃない。
(ダンジョンなどで何度も氷を浴びて、耐えて、魔力への耐性を自分の魔力で少しづつつけていく。)
俺は勇者として生まれているので、もともと痛みに少し強いのと闇耐性、光耐性が50%あるが、それ以外は普通の獣人類と一緒なのでこの氷耐性5%も取るのでさえ相当苦労した。
「そもそも耐性って取るの相当苦労するんだぞ。
そんな言い方するってことはお前は何か持ってるのか?」
少し腹が立った俺はやつに聞き返す。
「うーん。まぁ。結構色々な。」
はぐらかすメトロ....ははん、これは、大した耐性じゃないな。
と俺が心の中で勝利を確信していると表情に出ていたのか、
「ふっ、にやにやしてるところ悪いけど、多分レオきゅんより持ってると思うよ。」
とか言ってきた。
「じゃあ何を持ってんだよ言ってみろ。」
俺はムキになって奴を睨む。
「まず全魔法ダメージ軽減これは20%程度生まれ持っていた。それから耐火25%、マインド系無効、麻痺耐性15%、能力減少耐性 45%、毒耐性4%、それから....。 「うー。もういいよ。」
俺の予想をはるかに飛び越えて色々な耐性をもっていてくやしくなったので奴の言葉をさえぎった。
「勇者より....勇者じゃん....。」
俺がぼそっとつぶやくと奴は肩を震わせて可笑しそうにした。
「ほんと可愛いな。お前。
俺さ。実は勇者に生まれたかったんだ。だから魔法以外のことは血のにじむような努力をして手に入れてきたんだ。」
やつはなんだかバツが悪そうにこっちを見てそんなことを口にする。
暫く沈黙が走った。
そしたらなんか後になって無理に言わせてしまったことが申し訳なくなってきて、気まずい時間に俺は耐えられなくなって自分も秘めていたことを口にする。
「俺もさ....賢者になりたくて、色んな魔法契約したり古文書読んで、小さな頃から賢者が覚えそうな呪文はたくさん覚えてきたよ。なんか、カッコ悪くて俺も言いたくなかったけど。......これでおあいこな。」
俺は奴に拳を向けてにっこりと笑った。
「うひっ...レオくん...残念だけどぜーーんぶ知ってる♡」
奴はにやにやしながらそう答えた。
そうだった。あいつは俺の事ずっと見てたんだ。
ムカつく〜〜。優しい言葉なんてかけなければ良かった。
俺が頭からプスプス煙を吐きながらずんどこ大股で歩いてると、やつは横からプスプスと指でつついてきた。
それがあまりにもうっと惜しかった俺は、
「ボルカ!」
結構高等な炎の呪文をやつにお見舞いした。
....思った通り効かなかったけど。
「はっはっはっ。そんな程度の魔法が効くと思ったかい?さっきも言ったろ?魔法耐性は20%あるんだ。まぁ分かっててやったんだろうけどね。」
詠唱まで時間をかけずに出した練度の無い俺の魔法はやつに片手で消されてしまった。
魔法と一緒に怒りの炎まで消えてシュンとしてしまった俺は村に着くまで一言も喋らなかった。
「はいこれアンチアイスリングと厚手のコートね。」
防具屋のおっちゃんは俺に装備を手渡した。
「ここで、装備してく?」
「おう。そうさせてもらうよ。」
俺はコートを羽織り、リングを指にはめた。
新しい装備を買ってすっかりご機嫌が戻った俺は、くるっと1回まわって、奴に似合ってるかを聞いてみた。
「うん。よく似合ってる。かわいいよ。」
と柔らかな笑顔をこちらに向けた。
可愛いは余計だが思ったよりストレートに褒められたのが恥ずかしくなった俺はボブっと頭から煙が出るくらい顔が赤くなった。
「さぁ。目的地まで急ぐよ。日が暮れると敵が増えて厄介だ。」
奴は俺に手を差し伸べた俺はその手を取って防具屋を後にした。
再びフープルで飛んだ先は雪が吹き荒れる薄暗い山の上だった。
「なんじゃああああここは!」
俺が発狂してると奴は寒そうな顔で、
「無駄なエネルギー使うな。いくら寒さに強くてもこんなとこいるだけで摩耗する。」
と言う。
「で、これからどこに向かうってんだ?見渡す限り同じ灰色に見えるけど。」
「あぁ。ここから山を少し昇った先の洞窟だよ。そこを寝ぐらにしてるスノウドラゴンを倒しに行くのさ。」
「は?目的は英者にあうことだろ?」
「そうなんだけどここの近くに住んでる変わり者の英者の末裔はそのスノウドラゴンの血を欲しがってるらしいんだ。手ぶらで行っても何も出てこないかもしれないからさ。」
「まじかよぉ。スノウドラゴンなんて俺討伐したことないぞ。」
「ふはっ...。俺もだよ。でも大丈夫、弱点や習性は調べてきたから。」
自信ありげなやつを見てたら本来Sランククエスト並みであるのスノウドラゴンの討伐もこなせそうな気がしてきた。
俺たちは吹雪で顔が痛む中、洞窟へと足を進めた。
しばらく進んでいると洞穴くらいのサイズの入口をした洞窟が見えた。
「おっ!あそこか?」
「そうみたいだな。」
「スノウドラゴンって思ったより小さそうだな?」
「ははっ残念ながら大樹くらいはあるよ。」
「え?じゃああの穴から出られなくないか?何を食べてんだ?」
「スノウドラゴンはほとんど食事を取らずにこの地域の濃厚な魔素を吸ってるんだ。あとはたまに洞窟内の鉱物とかから魔素を吸って生きてる。」
「はえ〜。食事しないなんてすげ〜。」
「もともと魔物ってのは魔素から生まれたもんだ。俺たちを魔物を食うのは普通のことだが、普段は進化の過程で捕食を行うようになった者が目につくだけでこういう特殊な場所にしか居ないような魔物は魔素だけで生きてることが多いぞ。」
「さすが、賢者。博識だ。」
「まぁな。あ、だいたい想像つくと思うが、スノウドラゴンはその一生を暗い洞窟内で過ごすため目が見えない。」
「おっ?それなら楽勝じゃんか?」
「そうでも無いぞ。なぜなら鼻と耳はその分いいからな。それに魔素や魔力を感じるセンサーがほかのモンスターより優れてる。だから洞窟に入ったら直ぐに武器を構えておけ。こんなに魔力が高い奴らが2人も入ったらいくら奥に引っ込んでてもすぐに攻撃を仕掛けてくると思うぞ。」
「よしっ。帰ろう。」
奴は、Uターンをしようとする俺の襟を引っ掴んで無言でニコニコ笑った。
「わかった。わかった。行くから!離して。」
「わかったならよし。」
やつに離してもらった俺は剣を背中の鞘から抜いて剣に命令を下した。
「ブレイ!形状変化!アイアンハンマー!」
「アイヨ!レオ!」
俺の一声で剣だった物は形を変えハンマーになった。
「おー。本物の勇者の剣じゃん。」
「知ってんのか?流石だな。」
「何せ、欲しくてレプリカを集めてたことがあるからね。」
「あっ。そうか、貸してあげたいけどこれ俺にしか装備できないんだよな...。」
「いいよ!気にすんな。賢者には賢者らしい武器だってあるんだぜ。」
そう言うと、奴は手を構えなにか呪文を囁いた。
「...。」
すると手の中に1冊の本が現れる。
「エンシェントノートレプリカ第2章。」
「かっこいい...。」
俺はやつの姿があまりにも少年心をくすぐるものだからついそう呟いてしまった。
「ふっ。だろ?これは有名な古文書を再現したレプリカの1部だよ。俺はこうやって杖や本を呼び出して戦うのが主流。大概の戦闘は魔法の詠唱だけでどうにかなるけど今回はスノウドラゴンだからね。」
「さっ、入ろうぜ。」
「あぁ。気を引き締めろ強い魔力が近くまで来てる。」
俺たちはスノウドラゴンの寝ぐらへと足を踏み入れた。
中は真っ暗だった。
「シャイマ!」
俺は光魔法を使ってそれを小さくして球体に変え手の上で光らせた。
片手にはハンマー、片手には光を持ちそのまま洞窟の奥へと足を進める。
しばらく進んでいると洞窟の奥からびゅおんと風が吹いてそのすぐ後に氷の斬撃が飛んでくるのが見えた。
「フリージャス!」
メトロはそれを右指一本だけを振り上げた魔法で打ち消した。
「舐めた魔法だな。向こうも警戒をしているらしい。」
「結構なスピードで飛んできてたけどもう近くにいるのか?」
「いや、まだこの狭さじゃ通れない。もう少し奥だよ。」
さっきの斬撃に少しだけ恐ろしさを覚えた俺はほっと胸を撫で下ろす。
「だが気を抜くな。次はこんなもんじゃないのが飛んでくるぞ。」
「ひぃっ。わかった。」
と返事をする傍から、再び真っ暗な洞窟の奥から吹雪が吹いてきた。
「氷のブレスだ!これなら俺の魔法で防げる!」
俺は光の衣を纏う呪文を唱えた。
「ルフレ!」
俺たちふたりを優しい光の衣が包み込み切り裂くような吹雪のダメージを緩和した。
気まずそうな顔をしながらメトロはこう言った。
「さんきゅっ。でもな。実は俺、氷耐性-10%...つまり超弱点なんだ。何せ常夏の国生まれだからさ。」
「おい!なんでそれを早く言わないんだ!それならこの魔法早くかけたのに。」
「...俺のが優れてるって変なプライドがじゃましちゃってた。」
奴が珍しく下を俯いて恥ずかしそうにするので俺はからかいたくなったけど今は戦闘中なので辞めておくことにした。
奥へ行けば行くほど吹雪は強くなっていき奴は衣に包まれながらも寒そうに顔を歪めていた。
「うっ...さみぃ...。」
「大丈夫か?ちょっとまってろ...。ヒーティ!」
俺は寒さを和らげる呪文をメトロにかけてやった。
「ああ、大丈夫だ。...もう頭にきた。」
奴は古文書のレプリカを開くと聞いたことの無い呪文を呟いた。
「エスタスロトサゲエウレアロウヌ...。マリピナナスガ!」
すると本を持つ手と反対の手から非常に高温の緑色をした粘度がある炎が吹き出した。
それは真っ直ぐに洞窟の奥へと進み吹雪を打ち消すとそのままさらに奥へ行き見えなくなった。
炎が通った道にはまだ少し火が残っていて、
白い雪が緑色の炎に焼かれてちりちりパチパチと音を立て水蒸気を発していた。
普通の炎の魔法なら冷気に負けて消えてしまうか、その反対に雪を水に変えてしまうかなのにまるで相殺し合うかのようで面白い光景だ。
「普通の炎や普通の氷と様子が違うんだな。」
「あぁ。やつが放つ氷のブレスもさっきの俺の炎も両方とも魔素が高い古代の魔法に近いものではあるからな。」
「ドラゴンのブレスはともかく、お前の今使ったのって古代魔法じゃないのか?見たことも聞いたことも無い呪文や魔法だった。」
「あぁ。違う。本物の古代魔法はこんなもんじゃないぞ。言ったろ?これはレプリカさ。それにそんなに簡単に使えるものじゃない。そうじゃなかったら必死になって追っかけてなんかないさ。」
「というと?」
「古代魔法ってのは文献によると、生贄や儀式の上で成り立つもんらしいってこと。詳しいことは帰ったら教えてやる。それより前見てみ。」
やつが指さした先の暗闇に目を凝らすとなにか大きな生き物の足のようなものが見えた。
「あっ、あれは...。」
「あぁ。あれがスノウドラゴンの巣穴みたいだな。近いぞ。気を引き締めていくぞ。」
「うん。」
俺が返事をするとスピードアップと耐久力が上がるバフをメトロが俺にかけてくれた。
俺もメトロに打撃力アップと属性攻撃緩和のバフをかけてやった。
「さぁ、祭りだ。突っ込むぞ!」
俺たちは巣穴の入口、目掛け一気に足を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます