02-5
物で散乱しているソファ周りを探し、取り込んだばかりの洗濯物の中から携帯電話を探し出した。そして、履歴で七瀬の文字を探し、そして電話をかけた。
三コール目が鳴り終わる前に、「はい。七瀬です」と電話に出た。その声は少し疲れているように聞こえた。
「七瀬、今から私の家に来てくれないか? そう、急用なんだ。ちょっと面と向かって話したいことがあるんだ。うん、うん。待ってるからな」
三十秒ほどで会話を終え、電話を切った。そして、「加能さん、七瀬が今から来ます」と伝える。
「そうですか。よかったですね」
「あの、一つ疑問に思うことがあるんですが」
「何でございますか?」
「加能さんって僕以外の人間にも見える存在ですよね?」
単なる疑問を投げかけただけなのに、小さな身体を縮めたり伸ばしたりしながら笑う加能。
「私、何かおかしなことでも言いましたか?」
「違いますよ。ごめんなさい、毎回のようにこの質問を受けるので、つい」
「あ、そうでしたか。すいません、恒例になっている質問をしてしまって。愚問でしたかね・・・」
「えっと・・・」そう言って言葉に詰まった。愚問という言葉の意味が分からなかったのか、首を左に傾げたのち、愛想笑いを浮かべる。
「それで、結局のところはどうなんですか?」
「わたくしの存在をご覧になれるのは、人間界でも限られた方のみとなっています。過去に戻りたいと強く願われた方の前にのみわたくしは現れますので、それ以外の方には、わたくしの姿は見えないようになっております」
「では、七瀬には見えない可能性もあり得るってことですか」
「それは、わたくしには分かりません。言えることとすれば、願う気持ちが強ければ見えるということだけですね」
「願う気持ち、か・・・」そう呟いて、七瀬が来たときに座るスペースの片づけに取りかかった。目の前では加能と瞳がキュートな黒猫が戯れている。しかし、そこには加能と黒猫だけの空間が広がっていて、こちらから話しかけないようにした。
五分もしないうちに来客を告げるベルが鳴らされた。扉を開ける。そこにはスポーティーな格好をした七瀬が立っていた。整えられていない髪の毛。整えられていない髭。七瀬もまた、警察官とは思えない風貌をしていた。
「急に呼び出してごめんな。散らかってるけど、まぁあがってくれ」
「うちもこんな感じなんで気にならないですよ。お邪魔します」
リビングにつながるドアを開けたそのタイミングで、加能のことが七瀬にも見えるのかが分かる。少しの緊張を抱いたまま、七瀬を中に入れる。
「お邪魔しま・・・って、えっ、浜中さん、誰ですか?」
良かった。七瀬にも加能のことが見える。これで話は進む。
「初めまして、七瀬平司様。わたくしは支配人の加能と申します。加えるに能力の能で、加能です」
同じ自己紹介をしてから、スッとシルクハットを指で触り、年齢を重ねた顔を見せる。
「まぁ、そういうことだ。とりあえず、そこ座って」
あわてて片付けておいた床に七瀬を座らせる。来客時、本来ならばクッションを用意するが、カバーが薄汚れたままで放置しているために、今回は隠しておいた。
「浜中さん。話ってもしかして松野のことですか?」
「あぁ、まぁ、そうと言えばそうなんだが・・・」どう説明すればいいか困っているとき、「わたくしが浜中様の代わりに詳しくご説明しますか?」と助け船を出した。
「それは助かります。お願いします」
「では、浜中様に代わりまして、わたくしがご説明させていただきます」
「は、はい。よろしくお願いします」
七瀬は不思議そうにしながらも、丁寧に頭を下げる。そして、まるでお菓子の家を見つけた少年のような、輝く瞳で加能のことをじっと見つめた。
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