オカルトなのか何なのかよく分からんミステリ(もどきかもしれないやつ)
@SKY-NO-ZATU-NA-SYOSETU
第1話(というかめんどいから全部ここに書く)
7月中旬、午前10時。都内某所。
今日も今日とて仕事場に向かう。
住宅街を抜けて最寄りの駅前へ。
それにしても、この尋常じゃない人混みにはいつもウンザリさせられる。
改札を抜けてホームへ。
「·····へお越しの方は3番線で·····」
ちゃんと話せよとか何とか、ボソボソ喋るアナウンスのジジイにビミョーにキレつつ、うるせぇ課長にどう対応しようか考えつつ、つまりはいつものように3番線へ向かって·····
そこでスマホに来た通知に思考回路を奪われた。
祐介「久しぶり、大雅!w 明日、空いてるか?あの空き家のことで話したくて」
すーっ。
大きくため息をつく。
緊張をなだめるような、詰まった息を吐くような、一度、気持ちを整理するような。
あれは何年前だろうか。もう軽く20年は経っているだろうか。
20年前。
「待てよ祐介!」
ド田舎の地元の裏山を、小学校2年生の俺は、祐介を追いかけて走っていた。食い荒らされた果物や、朽ちたシカの皮と骨が落ちている。熊でもいるのだろうか。にしては木にキズがないが。
「もうバテたのか?どうした、一昨日の運動会のリレーで3人抜きやってたくせに。」
「その筋肉痛がいま来てるんだよ。しかもほら、後ろ。」
祐介の5メートル後ろに俺が、その15メートルくらい後ろに寛が猫背でゼイゼイ言いながらついて来ていた。
「ヒロ!少し待ってやるから早く来いよ!」
「·····。」
返事する気力もないらしい。
ヒロを待ちながら祐介に訊く。
「今さらだけど、何しにここまで登ってるんだ?」
「そりゃあお前、山道の途中の空き家しかないだろ?せっかくの運動会の振り替え休日、行くしかないっしょ。変な骨でも出てきたりして?」
そりゃそうか。都市伝説好きな祐介が考えそうなことだ。しかし、骨にここまでワクワクしているこいつは相変わらず不謹慎だな。
空き家の幽霊。小学校で最近になって囁かれている都市伝説だ。始まりは去年の盆。6年の先輩たちが空き家で幽霊を見たらしい。逃げ帰って家族に言ったが信じてくれず、それどころか、危ないからあんな奥へ行くなと叱られたそうだ。そんなこんなで、子供は空き家の近くまで行くのを禁じられていた。
変な都市伝説が出るのも仕方ない。おばあちゃんに聞いた話によれば、10数年に一度、村の子供がこの空き家の辺りで行方不明になっており、その全てが迷宮入りしているらしいのだから。
しかも、ここには神社のようなものがあったそうだ。たびたび麓が洪水に襲われるから土を盛って人柱を埋めたとか、その霊がどうとか。戦争でド田舎なのに気まぐれに落とされた爆弾でつぶれて、そこに家が建ったそうだ。まるでこの村は都市伝説の温床だな。
気づけばヒロが祐介と俺の横に座っていた。ようやくここまで登ってきたらしい。
「じゃあ大雅、行くぞ。」
マジかよ。まあいいけど。
10分後。俺たちはその空き家と墓まで来ていた。この墓石群がたまに増えているという噂がある。気味悪がって誰も開けたがらないし、空き家を壊しに来る人も居ないらしい。これも少し都市伝説くさい。何はともあれ、ド田舎とはいえまだ土葬をやっているのは珍しいな。
「·····で、これがその空き家か。」
ざっと20メートル四方だろうか。ニスでも塗っているのか、ツタが張っているからか腐っている部分はないようだ。
さっそく祐介が戸に手をかけて、
「開けるぞ。つぶした墓から出てきた骨でもしまってあったりして。」
嬉々としている。
とことん不謹慎な奴だ。
「ギィ·····ガッ·····ガガガガッ·····ガッ」
開けたとたん中から化け物が·····なんてことはなく、中は箱や釣り道具、イスやコケシなどが所狭しと詰め込まれていた。生活感もある。疲れ顔のヒロも急に目をキラキラさせて、中の物を漁りだした。家の物置、屋根裏部屋、学校の別棟の倉庫。色んなものがテキトーにしまわれているところを漁るワクワク感。出てきた品によってはノスタルジックな気分になるあの感覚。分かるだろ?まあ結果から言うと、漁るべきでは、さらに言うとここに来るべきではなかったのだが。
しばらく俺たちは空き家を漁り続けた。
祐介は大きなビー玉のなり損ないみたいなガラス玉、俺はいい雰囲気を出している和紙を数十枚、ヒロは手鞠のようなものを持ち出して帰った。手鞠にしては仰々しい見た目をしているが。
その帰り道の会話。
「ほら見てみろよ、このガラス玉、光の当たり方で色が変わるぞ。」
ガラス玉から覗いた夕焼けは美しく、俺が持ってきた和紙が見劣りするほどだった。まあ、いいだろう。あれだけ空き家に放置されていて虫食いの1つもないのは珍しいだろうし。
ヒロはその間、手毬を振って耳に当てては離し、手で弄んでは首を傾げを繰り返していた。
「なにやってるんだ?」
「いや·····面白い音がするんだ、これ。」
ヒロから借りて振って、耳に当ててみた。
「ゴゴゴゴ·····ヴォォォォン·····ロン·····ドン·····」
「なんだこれ?」
変な音だな、と思いつつヒロに返す。変なものを拾ってきたもんだ。
そうこうしているうちに麓につき、家へ帰った。
翌朝。家の前が騒がしくて目が覚めた。眠い目をこすりながら着替えて玄関前に出ると、俺や祐介、ヒロの親が話していた。朝っぱらから世間話かよ。·····と思ったのもつかの間。
「じゃあヒロくんは昨日の夜に居なくなったってこと?」
耳を疑ったね。
どうやら昨晩、ヒロが急に何処かへ行ってしまったらしい。そのあと近所で話を聞いて回ったところ、2軒どなりの酔っ払いが有力なことを言っていた。二日酔いなのか朝も呑んだのか呂律が回っていなかったが、聞き取れたことによると、「屋台で呑んだ帰り、子供っぽい影が手に何か持ちながら山の方へ走っていった」らしい。そいつだ。そいつがヒロだ。親に連れて来られた祐介と目を合わせたが、親たちには、禁じられている空き家に行ったことは言わないでおいた。
それからはあまり覚えていない。何をするにもヒロが気がかりで手がつかなかったのでね。日付が変わって警察が来て捜索されたが見つかるどころか手がかりはなく、しばらくして捜索も打ち切られた。村の大人たちが探しても見つからなかったらしい。
これだけで終わらせられるわけもなく。祐介と俺は空き家の近くにヒロを捜しに行った。当然ながら呼べども呼べども反応はなく、空き家の箱の中まで捜したが居なかった。幸か不幸かヒロが持っていた手鞠を見つけたので、これを持って帰ろうと思う。村の大人たちにどう言うべきか悩むが。
日も傾いてきたしもう帰ろうかと坂に出たとき、俺たちの後ろで物音がした。シカか野良犬だと思ったのだが、「それ」は剥き出しの殺意をさらけ出して追ってきた。いや、襲ってきた。
「ヴォォァァア゙ァア゙ァ!!!!!」
頭のてっぺんから脚まで、夕暮れ時の山の木々の薄暗い闇に溶け込むような黒い布か何かに覆われており、血走った目と毛深い四肢の一部だけを出していた。もしかしたら、全て毛だったのかもしれない。右腕でクワを振り回し、獣のように襲ってきた。人間かもしれないが、少なくともヒロではない。このままでは追いつかれる。とっさに地面の砂を掴んで投げつけた。うまく目くらましになったようだ。
「テ·····マ·····ウガァァァァァ!!!!!」
「祐介、手鞠を捨てろ!」
「·····あぁ!」
「ドォン·····ロン·····」
低木を突き抜けてショートカット、足で駆けているのか足が地面に取られて回っているのか分からないようなスピードで駆け下りる。どうやら化け物は手鞠を拾って帰っていったらしい。
「どうする?このこと、大人たちに言う?」
「なに言ってんだ大雅、んな訳ねぇだろ!」
話し口調は強いのにお前呼びじゃない。相当ビビったんだろうな。自分もそうだけど。
その夜はとてもじゃないが寝付けなかった。
·····かなり後味が悪いことに、ここから特に変わったことも無かった。いわゆる迷宮入りである。で、日付が変わって、その祐介はいま自分の向かいに座ってペペロンチーノを食べている。
「悪かったな、ド田舎育ちの上京低賃金サラリーマンでw」
「そこまで言ってねぇよw」
「「·····」」
「·····で、焦らすなよ。あの空き家の話って何だ?今さら何か分かったって言うのか?」
「あぁ、お前は村の老人たちから聞いたか?また子供が消えたって。」
手鞠を嬉しそうに鳴らすヒロが頭をよぎる。
「またか。·····20年ぶりか?」
「23年。長いな。」
「それがどうした?」
後味の悪い話を掘り返して特に何もせず帰ったらマジでキレるぞ。
「まぁ、大丈夫だから落ち着けって。」
「あの村の都市伝説とかをまとめて考えてみたんだ。」
「人柱、
消える子供、
増える名前もない墓石、
そしてヒロと似ても似つかない謎の化け物」
「洪水が起きるタイミングと子供が失踪するタイミングが重なっているんだ。しかも今回も墓石が増えていたらしい。」
「あのときヒロはあの変な手鞠を持って夜道を山へ走って行ったって聞いたよな?あのヒロが山へ登るなんて考えづらいだろ。」
「誰か、何かにいざなわれていたんじゃないか、って。例えばあの変な手鞠。」
「手鞠は子供をいざなう力がある。」
「10数年に一度、子供が失踪する。」
「誰かが手鞠で子供を呼んでいる。」
「ところで、ヒロの10数年後、まぁ23年後でもいい。想像できるか?」
嫌な予感が背筋を這う。
「まあ分かるだろ?あの化け物と近い背丈になる。」
やめろ。
「適齢に、化け物みたいになった、10数年前に手鞠でいざなわれた子供を、次の世代の子供が擬似的な人柱として·····」
それ以上は言うな。
「つまりヒロはもう·····」
·····。
「XXXXXXXXXXX。」
·····とことん不謹慎な奴だ。
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